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第80話「発見」


太陽が真上を過ぎ、峡谷の壁の向こうに隠れようとする頃。

400km地点、最後の避難小屋へ到達した。

そこに、マイルマンはいた。

小屋の遠くからでも火を焚いているのが分かった。

ボートを近くの木に結び付けて、小屋へ向かう。

途中で向こうの方がこちらに気付いて手を振りながら歩み寄ってきた。

「お前は……マモルか!よく来てくれた!」

「よかった、無事ですか?救援の特命依頼で来ました」

「俺は大丈夫なんだが……仲間が怪我しちまって、動けねえんだ」

案内されて避難小屋に入ると、2段ベッドにパーティの仲間が2人、寝かされていた。

「命に別状はねえんだがな、こっちは足を折っちまって、こいつは腕と肋骨だ。とてもじゃねえが移動できる状態じゃなくてな。救援を待っていた」

ベッドの2人とも目が合い、久闊を除す。

2人ともほっとした表情を浮かべていた。

「マイルマンさんのパーティは4人でしたよね?あと一人は?」

「それがな……なんでこうなったか、から聞いてくれ」

狭い小屋の中だが、マイルマンと俺たちのパーティは小さな円を組んで座り、事の経緯を聞いた。


マイルマンの報告によると。

遺跡探索の果て、湖周辺の調査をしているうちに、湖の一番奥の岸壁に、海底に沈む神殿のようなものを見つけた。

ボートで近づき、マイルマンのパーティである水魔法使いビリーが、空気の泡を作る魔法で神殿入口へ潜入を試みた。

無事に神殿の入口をくぐった瞬間、湖の水がたちまち荒ぶる大きな蛇のバケモノのような形を為し、ボートのマイルマンたちに襲いかかった。

迎撃するも全く攻撃が効かず、水のブレスのようなものを受けて弾き飛ばされ、仲間2人は怪我をする。

ボートも破壊され、マイルマンたちは命からがら岸まで必死で泳ぎ着き、なんとかこの小屋まで戻ってきた。

魔法使いビリーは神殿内部に取り残されているか、バケモノにやられてしまったか……。

どのみちその出来事からすでに一週間ほど経っている。

携帯食もとっくに尽きて、神殿内で生きていたとしてもかなり衰弱しているはず。

こっちは付近の魔獣をマイルマンが狩ることで食料は確保しており、しばらくはここでしのげる。


「だから、できることなら一刻も早く、ビリーを救助してほしい。俺は魔法が使えん。あのバケモンは倒せんのだ……」

悔しさと不甲斐なさからか、マイルマンの拳はきつく握られ、爪が食い込むほどだった。

「攻撃がきかない、水のバケモノか……どうやって対処すりゃいいんだ」

「それも古代の魔法かもしれんの」

「とにかく、行ってみるしかないんじゃない?」

「魔法なら効くんでしょうか……水魔法は通用しない気がしますが」

「私役に立てるかな……ちょっと不安」

最後のティファナの声を聞いてハッとした。


「ティファナ、そういえば怪我は?」

「あ、うん大丈夫だよ?ちょっと痛むくらいで全然歩けるし」

そう言って笑うティファナの顔を見て、俺は決心した。

「……ティファナは、ここで待っててくれないか?」

当たり前だが、言われたその顔はみるみる曇っていく。

「そっか……私、足手まといかな」

心を鬼にして、続ける。

「……救助しなきゃいけない目標がいる。怪我人は連れていけない」

「歩けるってば!」

ティファナは少しムキになって語気を強める。

「ちょっとマモル、置いてくのはさすがに可哀そうじゃない!?」

リンちゃんが続く。

ルナとシェリィは真顔でこちらを見たまま、何も言わなかった。

「守れるか?」

今度はリンちゃんの顔を見て言う。

「え?」

リンちゃんに問う。

「金星冒険者が為すすべない未知の魔物相手に、救助しなきゃいけない人もいる。その上で、戦いながらティファナを守れるか?俺は自信が無い」

そう言ってじっと目を見る。

「う……」

リンちゃんも、ぐっと唇を噛んで黙ってしまった。

きついことを言っているのは分かっている。

だが、俺は取り返しのつかない事態だけは絶対に避けたい。

「ティファナの親父さんに約束した。守るって。必ず連れて帰るって。この依頼自体、難易度の高い危険な依頼だ。本来ならもっと経験を積んでから来るような場所に、俺たちなら守れると思って連れてきた」

みんな神妙な顔になって、俺の話を聞いてくれている。

「でも、ティファナは怪我をした。大事なかったとはいえ、一歩間違えれば死んでいた。俺のミスだ。すまない」

「マモルさんのせいじゃないよ!」

ティファナが泣きそうな顔になって俺に顔を寄せる。

「いや、助かったのはみんなが素早く動いてくれたからだよ。あと一息遅ければ、その足は無くなっていた。ほんとに、ごめんな」


…………。

全員が黙る、通夜のような空気になってしまった。

ティファナはぽろぽろ涙を流している。

マイルマンたちなんて、全然関係ないのに押し黙ってしまっている。


その空気を裂いてくれたのは、シェリィだった。

「というよりボートの定員が無理じゃろ。5人乗りじゃ。一人救助するなら一人残らにゃ」

「そっか、そうよね……」

別に一人くらい多く乗ったってどう考えても大丈夫だったが、リンちゃんも話題を変えようとノってきてくれた。

シェリィは続ける。

「冷静に考えてみ、誰が残るか。まずマモルはボートの操縦でいるじゃろ。リンは火魔法がその水のバケモンに効くかもしれんから必要じゃ。あとは水中の神殿に潜るなら水魔法で空気の泡を作れるルナは必須じゃろ」

おお、冷静な分析………。

「と、いうことで湖の上じゃ土魔法が錬成できんから、わしゃ役立たずじゃ。わしが残るからおぬしら行ってこい」


「「「「いやなんでだよ!!」」」」


うちのパーティ全員が同時にツッコミを入れてしまった。

豊富な知識であらゆる魔法に精通しているシェリィが同行しないのはありえんだろ。


……結局、このやりとりのおかげで場は和み、ティファナも納得してくれて避難小屋に残ることになった。

俺とリンちゃん、ルナ、シェリィで、湖へ向かう。




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