第49話「来訪」
部屋のドアがコンコンとノックされる。
外は朝日が爽やかに庭木を照らしていた。
「マモル様、失礼いたします。皆様に御来客でございます」
俺はまだ部屋着のまま。
寝起きだったが、なんとか顔をしゃっきりさせてドアを開ける。
外には、この宿のボーイが一人で立っていた。
「あれ、来客って、どこに?」
「貴賓室にお待たせしております。申し訳ありませんが、至急御支度をお願いします」
貴賓室で待っているほどの身分の来客?
俺は全くもって、この国にはそんな知り合いは居らん。
「俺に?何かの間違いじゃないのか?」
「いいえ、金二つ星冒険者のマモル・ホンジョウ様の御一行をお呼びでございます。……オルザ国、国王陛下が」
「こくおう!?」
俺たちはバタバタと慌てて着替えを済ませ、およそ10分後に貴賓室の前にいた。
先程のボーイがドアをノックし、中に声をかける。
「失礼いたします。お待たせいたしました。マモル・ホンジョウ様御一行をお連れしました」
その声に反応して、内側からドアが開かれる。
開けたのは、この国の兵士だった。
部屋に入ると、部屋の入口に2人の兵士。
部屋の中には応接セットがあり、部屋の奥、つまり上座側の3人掛けソファの真ん中には、30歳くらいの、身なりの良い服を着た、凛々しい男が座っていた。
その背後を守るように、騎士の武装をした壮年の兵が立っている。
右横の一人掛けソファには、この宿の支配人であろう初老の男が座って応対をしていたようだ。
凛々しい男はこちらを見て、口元を緩める。
「おう、君がマモル殿か。まあ、座ってくれ」
この人が国王なのか?ずいぶんフランクな口調だな。
俺たちは入口側の3人掛けソファに、俺を真ん中にしてルナ、リンちゃんと3人で座った。
支配人と反対側の1人掛けソファにはシェリィがちょこんと座る。
「急に呼び立ててすまんな。寝ていたか?」
「あ、いえ、いや、寝てました。すみません」
「ははは、いてもたってもいられなくてな。自己紹介する。オルザ国国王、サワード13世だ」
「マモル・ホンジョウです」
俺はいきなりの国王との面談で頭が真っ白になりつつあった。
名を名乗られたから名乗り返したが、それ以上に何を話したら良いのかさっぱり浮かばなかった。
「まあそう固くなるな。今日は朝から宿にまで乗り込んですまん。どうしてもすぐに礼を言いたくてな」
「礼……ですか」
「もちろん、コルナの街の礼だ。君たちの活躍で、何百からの住民の命が救われたと報告を聞いたのでな。国を治める者として、改めて感謝する」
そう言うと、サワード王は俺たちに頭を下げた。
「恐縮です……」
俺たちもなぜか合わせて頭を下げる。
なんか、国王だけに頭を下げさせちゃいけない気がした。
頭を上げた国王は、俺たちに問いかける。
「さて、ギルドの報酬や昇級は受けたと思うが、国としても是非君たちに謝礼を差し上げたいのだが。君たちは旅をしているのだろう?何か、必要なものはあるか?」
「いや……特に欲しい物は、今は……」
急に言われても、何も浮かばなかった。
両隣を見て視線を合わせるが、リンちゃんもルナも特に浮かばないといった顔で首を横に振った。
「何も欲しいものは無いのか?欲のない連中だなぁ」
国王はどっかりソファにふんぞり返り、ご機嫌そうにしている。
「俺にも国王の面子があるからな。何かプレゼントせんと帰らんぞー。はっはっは」
なんだこの王様。
さて、どうしようか……何か、欲しいもの……?
チラッと横のソファのシェリィに目をやると、何か少し考えこんでいるようだった。
そして、静かに口を開く。
「国王様。わしは、欲しいものがあるぞい」
「おっ。なんだ?お嬢ちゃん。お人形とかか?」
「杖じゃ」
「杖?子ども用の杖か?」
「メテオの杖じゃ」
その言葉を聞いた瞬間、場の空気が凍り付いたのが分かった。
「メテオの杖だと……?その杖が我が国の国宝だと知って言っているのか?」
国王はさっきまでとはまるで違う、険しい顔になった。
シェリィは何を言い出すんだ?
国宝の杖だって?
そんなものを要求するなんて、いくらなんでも怒るだろうに。
「当然、この国の国宝だというのは知っておる。炭鉱の町ホワイトロックに展示されていることもな」
「ほお……知っていて尚、それを要求するか」
国王の顔つきはますます険しくなる。
どうすんだコレ。
「国王よ……そなたの兵、少しの間、人払いを頼めぬか?あまり聞かれたくない話がある」
いやいや、初対面の冒険者風情に、護衛を外させる権限があるわけないでしょうが。
国王は険しいその顔のまま、しばしシェリィの顔を見つめる。
「……わかった。まあ、金二つ星冒険者マモル・ホンジョウの連れだ。事情を聞こうじゃないか。おい、お前たち少し部屋の外に出てろ」
その言葉を受けて、護衛の兵士や、支配人も一礼して部屋から退出していった。
「俺たちも、出た方がいいか?シェリィ」
「いや、おぬしらは仲間じゃ。今後にもかかわるから聞いてくれ」
国王は周りの護衛がいなくなったのを見届け、ふんぞり返って足を組んだ。
「ふうーーー。これで、腹を割って話せるか。で、お前は何者だ?ただの子供ではないな?なぜあの杖を欲しがる?」
国王の問いに、シェリィが一拍間をおいてから応えだす。
「……まず、わしの名はシェリィ・ラバンダ。昔の名は、シャーロット・バンブーウッドじゃ」
「……!!」
なんか王様は驚いている。
誰それ?と思ったのは俺たちだけだったらしい。
「何を世迷いごとを言っているんだ?その魔法使いは……200年以上前の人物だぞ?」
「この国の王ならば、当然、知っておるな。メテオの杖の由来を。あれは元々わしの杖じゃ」
……なんだって?
国宝の杖の元の持ち主が、シェリィ?
全くもう、このロリババアはどんな人生を歩んできたんだ。




