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第40話「絶望」


「クソッタレぇぇぇっ!!」

冒険者の頭を貪った火竜は、咀嚼をしている隙をついたムラーノの槍に喉元を貫かれて絶命した。

ムラーノは死人が出てしまったからか、怒りで紅潮している。

そのまま近くにいた別の火竜に正面から走って行く。

火竜も迎撃態勢になり、口から炎を噴き出す。

「うぉぉぉぉ!!」

ムラーノが為すすべなく炎に包まれていったその時、

火を噴く火竜の額を太い矢が貫通し、炎が途切れた。

頭に風穴を開けられた火竜が崩れ落ちる。

おお、すげえ威力。

後ろを振り返ると、楼上に巨大な弓を構えているダッジの姿があった。

このおっさん弓使いだったのか。


「ムラーーーーーノ!!!油断するなぁぁぁぁ!!!!!」

遠距離なのに鼓膜が破れるかと思うくらい大きな声で叱責が響いた。

「すまん!恩にきる!!」

ムラーノは顔の紅潮が収まり、冷静になったのか、次の火竜へ駆け出していった。

俺もまだ1頭しか倒していない。

ムラーノとは別の標的を追う。


「うぉぉぉぉ千本突きぃぃぃ!!!!」

ムラーノは残像が見えるくらいの連続突きを放つ。

火竜は爪を突き立てようとしたものの、その前足を含め身体中に穴を開けられ、倒れた。

地上に降りているのは、残り1頭。


最後の火竜はすでに多くの冒険者が四方を囲んでいる。

その中に、俺とリンちゃんも混ざる。

何名かはその牙や爪にやられたのか、倒れていた。

冒険者たちは怯んでいるのか、積極的に火竜に挑もうとする者は皆無だった。


しかし、囲まれて勝ち目が無いと踏んだのか、火竜は翼を羽ばたかせ、また浮き上がろうとする。

上空に逃げられてたまるか。

俺は掌に風を集めた。

鎌鼬かまいたち!」

放たれた風の刃は、飛び立とうとした火竜の翼に傷をつけ、再び地上へ落とすことに成功した。

「ナイスマモル!今だ!」

体勢を崩した火竜に、リンちゃんを先頭に冒険者が一斉に斬りかかる。

地上の火竜は、これで全滅だ。


あとは、上空の1頭。

これが本当に偵察なら、こいつを逃したら本隊が来てしまうおそれがある。

仕留めなければ―――。


その願いも空しく、皆の放った魔法やダッジの矢をかいくぐり、最後の1頭は火口方面へと逃げ去っていった。



これでまた襲来があることは明らかだが、俺たちはとりあえずの勝利に沸いた。

しかし、死者も出てしまった。

犠牲になった冒険者は6名。

残ったみんなで墓を掘り、弔う。

墓標のかわりに立てられた剣や槍の持ち主は、この土の下だ。

俺も、この旅のどこかで。

そういう運命を覚悟した。


「野垂れ死んだところが故郷……か」


「なに?それ」

リンちゃんが問う。

「ふと、思っただけさ。旅人の故郷って、死んだ場所になるのかな、って」

「ふうん……」

剣が突き立てられた名も知らぬ冒険者の墓の前で、煙草に火をつけた。

この煙を、線香代わりの弔いに。


その日は、それ以上の襲撃は無かった。

俺たちは見張りのローテーションを改めつつ、今後の襲撃に備えた。




―――翌朝。

「マモルさん!大変です!!」

寝起きをルナに叩き起こされる。

「襲撃か!?」

真っ先に思い浮かんだことを叫んだが、違った。

「いえ……ギルドの冒険者さんたちが、ほとんどいなくなりました」

「……なんだって?」


緊急事態なため、門の見張りは街の民兵に任せ、ホールに全ての冒険者を集めた。

人数を確認する。

俺たちの4人パーティ。ダッジの3人パーティ。そして、あと、4人組のパーティが2つ。

つまり、4+3+4+4=15。


「昨夜のうちに、他の連中はこそこそと逃げやがった」

ダッジが額に血管を浮き立たせている。

「クソ役立たずどもめ!」

ムラーノさんも、同じだった。

「情けない限りです……」

ポールさんも落胆の表情。

マジかよ。

50人以上いた冒険者が、半分以上逃げてしまった。



「逃げたクソヤロウどもは、降格処分だ!!」

……あ、やっぱり依頼キャンセルの降格って、あるんだ。

「済んだことは仕方なかろ。昨日の戦いで力の差を思い知った連中は、いても死ぬだけじゃ」

シェリィが冷静に答える。

「ぬう……!!」

ダッジはまだ怒りが収まらない様子だ。


「仕方ないさ。誰だって命は惜しい。昨日の戦いで、今度は生き残れないと思ったんだろ」

諭してみるが、果たして。

「しかしな!この人数で100頭強の火竜に立ち向かうことなど……」

ダッジは言いかけてうなだれてしまった。

状況は絶望的だ。

まだマシなのは、残ったパーティの連中は昨日火竜を仕留めたやつらだったことだ。

朝まで北門の見張りをしてくれていた剣士ガイルのパーティ。

げき使いマイルマンのパーティ。

それぞれ歴戦の勇士で、全員が銀二つ星、三つ星のいずれかだった。


俺たちはこの人数で、100頭からなる火竜の本隊を撃退しなければならなかった。

戦術、戦略を練る会議が続いた。

魔法使いはシェリィ、ポールの他はガイルのパーティに2名、マイルマンのパーティに1名。

とてもじゃないが魔法で撃ち落として各個撃破などという方法を取れる人数ではない。


「……住民に、避難を促すべきだな」

ダッジが言う。

俺も当然、賛同した。

「この人数では立ち向かっても物量に負けるだけだ。撤退が最善だと考える」

剣士ガイルが言う。

もっともだ。


「……では、すみやかに住民へ伝えよう。俺たちも、撤退の準備を」

一応指揮官の俺が各パーティに指示を出し、皆が頷く。

防衛戦から、撤退戦へ―――。




しかし、俺たちの結論を、残酷な現実が容赦なく覆した。





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