第39話「襲撃」
夜が明けて、コルナ防衛の指揮官として各門を巡回する。
ダッジが一緒についてきて紹介してくれたので、すんなり各冒険者も受け入れてくれた。
最後に回った北門の楼上からは、レインボーレイクの火山が一望できる。
まるで富士山のように整った美しい威容で、標高は富士よりもさらに高く見えた。
あのてっぺんに、七色に光る湖があるのか。
一度見てみたかったが、この状態で火口に近付くのは危険だ。
噴火してしまえば、火口湖の水なんて全て蒸発してしまう。
レイクと呼ばれるまでまた何百年も雨が溜まるのを待たなければならないだろう。
縁が無かった、と思うより仕方がないか。
「火口よりも下に、白煙が上がっているのが見えるだろう?あそこがおそらく噴火するはずだ」
ダッジが指した先、頂点の火口よりやや下方に、白煙が立ち上る小山があった。
「……でかい火口から噴火するわけじゃないんですか?」
「まあ、そういうことだろうな。火口はなかなか噴火しないらしい。200年前の噴火でもレイクは無事だったみたいだぞ」
……お。これはもしかして、噴火が落ち着いたらレインボーを見る機会もあるのか。
当然しばらくは無理だろうが。
そんな会話をしている最中、門の先から一頭の馬が駆けてきた。
「緊急!開門願う!」
斥候の冒険者が報告に来たようだ。
かなり慌てた様子だ。
門を開け、俺たちも一緒に出迎える。
「火竜10頭前後がこちらに向かって飛翔中!偵察と考えられます!」
馬から飛び降りるなり斥候はダッジに向かって報告する。
「なんだと!よし、さっそく迎撃部隊を……あ」
そこまで言いかけて、ダッジは俺を見た。
「今日からこの金一つ星冒険者のマモル殿が指揮官となる!報告はこちらへ!」
いや、全部聞こえたよ。
そんなにきっちりしなくて良いのに。
「そ……そうなんですか?では、マモル殿、指示を!」
突然、指示を、って言われても困るわ。
「あ、うん、迎撃しよう」
………。
周りが一瞬、しん、となる。
「ダッジさん、部隊がどう編成されているか俺はまだ知らないから、配置の指揮を頼んで良いかな」
「そういうことなら、任せてくれ!」
もう、最初からそうしてくれ。
ダッジの指揮により、北門の外側に剣や槍の攻撃部隊30名、北門の楼上に魔法部隊20名が素早く並ぶ。
俺も先頭を切って攻撃部隊の最前列に立つ。
隣にはリンちゃんが控える。
シェリィ、ルナは楼上の魔法部隊だ。
そしてダッジさんもなぜか楼上にいた。
あのおっさん、あのナリで魔法使いなのか?ライアスみたいだ。
そして、数刻の後、空を迫りくる火竜が視界に入ってきた。
遠目からでも分かる。
赤い。そして、でかい。
そこらへんにいるカラスとは訳が違う。
仮にもドラゴンだ。
火竜の群れは前後上下まばらに飛んでおり、確かに獲物を探す偵察のようだ。
俺たちは息を潜めて接近を待つ。
まもなく魔法攻撃の射程内に入る。
魔法を受けて陸に落ちるか、高度が下がった火竜を俺たちが仕留める。
魔法部隊はすでに魔力を込めて杖や掌中を光らせている。
「間合いに入ったぞ!!」
誰かとも分からない叫びと共に、魔法部隊がそれに続く。
「アースショット!」
「ウォーターボール!」
「ウィンドスライサー!!」
楼上の魔法部隊が一斉に各々の魔法を放った。
それは様々な軌道を描いて上空の火竜の元へ届き、
5、6頭の火竜に命中した。
魔法を受けた火竜はバランスを崩したものの、
倒れたわけではなく地上にしっかりと足をついて降り立った。
「「「ウォォォン!!」」」
もの凄い雄たけびを上げ、火竜たちが戦闘態勢に入る。
上空にもまだ4、5頭がおり、こちらに気付いて狙いを定めている。
……地上にいる分は、素早く殲滅しなければいけない。
俺たちは各自4、5名ずつ火竜に突撃する。
俺も1頭に狙いを定め、数名の冒険者と、リンちゃんと共に飛び込んでいく。
「ブォォォォォン!!」
「うぉぉっ!」
火竜が炎を吐いて威嚇してくるのを全員左右に散って間一髪でかわす。
危なくバーベキューになるところだ。
「挟撃するぞ!」
俺の叫びと同時に四方から火竜に斬りかかる。
火竜は鋭い牙をむけてこちらに口を開けた。
「狙いはこっちかよ!」
再び噴き出される炎を、今度は転がるように懐に飛び込んでかわした。
すかさず体勢を立て直して顔を上げると、真上に火竜の首元。
勝機!
俺は下から、火竜の首めがけて諸手で突き上げる。
ズブリという肉を裂く感触が手に伝わる。
「グォォ……」
俺の突きは首から脳天まで達していたようで、火竜は力なくドサリと倒れた。
「次だ!」
言うより早くリンちゃんは一番近い火竜と対峙している冒険者の援護に向かう。
リンちゃんに気付いた火竜は口を開けて待ち構えるが、構わず真正面から突っ込んでいく。
火を噴く!
「リンちゃん危ない!!」
俺が叫ぶより早く、リンちゃんは振り向いた火竜の炎に包まれた。
……ように見えたが、リンちゃんは炎の中をかいくぐり、そのまま火竜の眼前まで到達した。
ジャンプしての双剣が一閃。
火竜の両目を切り裂いていた。
「トドメ!」
リンちゃんが離脱しながら左右に散らばる冒険者に叫ぶ。
それに反応した冒険者たちは同時に槍や剣で火竜の身体中を突き刺した。
2頭目!
リンちゃんの元に駆け寄る。
「炎の中に突っ込むなんて無茶しやがって!!怪我してないか!?」
「大丈夫!火魔法使って相殺したのよ」
なんて発想をするんだこの娘は。
炎に炎を当てるとは。
「あぶねえことすんな!」
「上手くいったんだから危なくないわよ!」
にこっと笑うリンちゃんは自信満々だが、こんなの試したことも無い。
本当に大胆なことをする娘だ。
ともかく、見渡すと地上に降りた火竜はあと3頭。
「しゃあ!」
「ウォォォォン!」
「チェストぅ!」
「ウォォン!」
他の冒険者たちも火竜を仕留めていく。
これで、地上に残り1頭……と思ったその時、上空にいた残り5頭に追撃で放たれた魔法が当たり、さらに3頭が地上に落とされた。
これで、上空2頭、地上に4頭!
この調子なら、いける。
そう思った次の瞬間、冒険者の悲鳴が響く。
「ぎゃぁぁぁ!」
火竜を囲んでいた冒険者の一人が爪で切り裂かれ、血しぶきを上げながら林の奥まで吹っ飛ばされる。
隣にいた冒険者はそれに恐れをなしたのか身動きが取れなくなり、
続けざまに火竜が吐いた炎の餌食となった。
さらに、もう一人が襲い来る牙でえぐられ、火竜の腹の中に頭を飲まれていった。
これは、命のやりとりだ。
俺は額の汗を袖でぬぐった。
真下から真上の「突き」という業はどの流派にも存在しません。あくまで対人戦なので、竜相手の想定はないわけです。




