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第38話「会議」


俺たちはダッジのパーティと卓を囲む。

ダッジのパーティは全員が男で、40代くらいの渋い顔の槍使いムラーノ、30前後の優男風の魔法使いポール、そして筋肉モリモリダッジの3人組だそうだ。

全員が銀三つ星のベテランなので、集まった冒険者を数日前からまとめていたそうだ。


「状況は、あまり良くない」

説明によると、こうだ。

噴火口からは間欠的に白煙が噴き出していて、近日中に噴火することは間違いない。

火竜は火口からやや下った先に群れでいるのが斥候により確認されているらしい。

噴火が近づくにつれ、火竜は火口から離れてこちらへ近づいてくる。

エサとなる他の魔獣が山から離れていくためだ。

このコルナの街はレインボーレイクから最寄りの街のため、

人や畑などの気配に気づいて襲撃されるのも時間の問題だそうだ。

火竜の群れは100頭以上。


「……100頭!?マジかよ」

「火竜は意思疎通をして群れる魔獣だからな、1頭にこちらの街を気付かれたら全体が一斉に来るぞ」

かつての噴火の際にも火竜に襲われ、住民は街を捨てて逃げるしかなかったらしい。

ダッジの話は続く。

「せっかく発展した観光街を壊したくはないんだろ。俺たちを信用して、今回は住民の誰も逃げちゃいねえ」

「んな無茶な。命の方が大事だろって」

「命が助かったところで、生業を失えば生き甲斐が無いもんよ」

シェリィが横から口を挟んでくる。

「撃退するしか、ないってことか」

「だから、交代で見張りを立てている。やつらは夜目が利かないそうだから、おそらく日中だろうがな」

「撃退の方法は?」

「まずは、魔法だな。やつらは空を飛ぶからな。物理攻撃はあまり届かん。あとは、弓か。遠距離攻撃ができる連中が陸に落としたところを、剣や槍のメンバーで叩くべきだ」

「ちなみにやつらはもちろん火属性だから、リンの魔法は効かんぞ」

シェリィが捕捉する。

「じゃあアタシは落ちてきたのを倒す側になんなきゃいけないね」

「私の水魔法は、通じますか?」

「もちろん、水属性が一番効くはずですよ」

魔法使いのポールさんが答えてくれる。

「君は水属性なのか。それなら心強い。僕も水属性なので、がんばりましょう」

ポールとルナが頷き合う。

「土の魔法も羽に当たれば落とせるかもしれん。わしも魔法で援護する」

「このガキは何者なんだ?」

槍使いのムラーノが当たり前のことを聞いてくる。

「いや、話せば長くなるが、これでも一流の魔法使いだから信用してくれ」

「……金星のあんたが言うなら信じるしかないか」

あ、この人絶対信じてない。


「じゃあ俺も、落ちたのやっつけ隊だな」

ここまでの戦略は理解できた。

しっかり対策を練っていてくれているのなら、今さら指揮なんぞいらんのではないだろうか。

「噴火も火竜もいつになるか分からん。今夜は休んで良いから、明日から指揮を代わってくれ」

「いや、ダッジさん、ここまで仕切ってくれたなら、俺もあんたに従うよ」

「そりゃダメだ。金星と銀星じゃ格が違う。俺の下にするわけにゃいかねえよ」

そういうものなのか?律儀なおっさんだな。

「じゃあ、ダッジさんたちのパーティは俺たちの補佐として助けてもらえるかな」

「そういうことなら、喜んで」

俺とダッジさんは、固い握手を交わした。

……握り潰されるかと思った。バカぢからめ。


部屋に戻る前に、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「そういえば、火山が噴火したらこの街は大丈夫なのか?溶岩とか」

「いや、過去の噴火でもここまでは溶岩の被害はなかったようですよ」

ダッジパーティの魔法使いポールさんが返事をしてくれた。

「それなら、火竜に集中すればいいんだな」

……過去が大丈夫だったからといって、今回も、とは限らないのでは。

一抹の不安がよぎったが、そこまで考えていても仕方ないか。



寝室に入ると、すでに4組の布団が敷かれてあった。

テーブルには4人分の食事も据えられていた。

全面的にフローリングではあったが、まんま温泉旅館だな。

誰か日本人がプロデュースでもしたのか。

例の、シリュウさんが寄ったのかも。

俺たちはとりあえず夕食をいただく。

今日は、さすがに酒は無しだ。


「さて、では行くか」

「さあ、行くよ!マモル」

「行きましょうマモルさん」

飯を食い終わって一息ついたところで、3人揃って何を言っているんだ。

「え?どこに行くんだよ。今夜はもう休むんじゃないのか?」

「温泉に決まっておろう」

「なんのために来たと思ってんのよ」

「楽しみですー!」

おい。特命依頼で来たんだよ……。

と言いつつ、俺も誘惑に負け、この宿自慢という露天風呂に向かうのであった。

食後すぐの入浴は身体に良くないって聞いたことあるけどなぁ。



残念ながら、というか当然、男湯と女湯は別々だった。

脱衣所から木製の引き戸を開けると、そこには見事な露天が広がっていた。

岩で囲まれた池のような広さの風呂からは、もうもうと湯気が立ち上っている。

この世界の普通の宿に、浴槽の風呂は無い。

蒸し風呂のようなスタイルなので、これまでの宿ではお湯を沸かしたものと水を合わせ、かけ流す程度しかできなかった。

だから、久しぶりの温泉は、本当に格別だった。


「ふうー……気持ちええ」

首まで湯に浸かり、しばし堪能する。

白濁したお湯は、アルカリ性かな?なんて。

詳しくもないのだが。

見上げれば大きな月。この世界にも満ち欠けがあるのだろう。

今夜の月は三日月だった。周囲には大小の星々が煌めいている。

こんなに美しい夜。こんなに美しい世界。

俺は、この世界に来たことを少し、感謝した。


身体がすっかり火照り、湯冷ましのために目隠し柵の手前にあったベンチに座る。

風に当たり涼みながら空を見上げていると、柵の向こうから声が聞こえてきた。

「ルナのおっぱい大きいね!ウラヤマシ―!」

「ちょっとリンさん声が大きいですよぅ!」

「いいのう、わしゃぺたんこじゃー」

「アハハ!」


女湯は楽しそうだなあ。そっか、ルナのおっぱいは大きいのか。

……思いがけない情報にちょっと興奮してしまった。

あんまり盗み聞くのも悪いので、そそくさと上がって先に部屋に戻った。


明日から、いつ火竜が襲ってくるかも分からない。

気の抜けない防衛戦が、始まる。





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