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第3話「街道」


唐突にやってきた人生最大の危機は、ひとまず去ったようだ。

俺を襲ってきたトラ的な獣は首と胴が泣き別れになり、首は目の前に転がっている。

胴体は丘の中腹まで転がっていったようだ。辺りには派手に血が飛び散っている。

はっきり言ってグロい光景だ。


「なんだったんだ……今のは」

ぽつりと呟いてみるが、なんとなく見当はついている。

この右手に握っている刀だ。絶対そうだ。

やっぱりこれは妖刀だったのかな……。

とりあえず血を拭き取り、刀を鞘に納める。

「助かったよ、相棒」

まだ出会ったばかり、且つ全ての元凶がこの刀な気もするが。

また獣に襲われるかもしれない。

俺は腰のベルトに刀を差した。

私服に帯刀。

こんな格好、外でしていたらあっという間に銃刀法違反で逮捕案件だ。


丘の上から改めて周囲を見渡すと、太陽から見て右手の方向に道らしき土の線が見える。

人こそ見当たらないが、あれが道ならどちらの方向に行ってもどこかにつながっているだろう。

俺はそこを目指すことにした。


「これ、どうするかな……」

目の前に転がっている獣の首……食えんのか?これ。

いや、さすがに食べたいわけじゃない。

この立派な牙。金になるんじゃないか。

ここが日本かどうかも分からない以上、日本円が紙切れにしかならないかもしれない。

象牙もけっこうな値がつくのだから、この牙もどうか。

なんちゃら条約で捕まる可能性も否めないが。

いろいろ考えた挙句、若干のスプラッタに辟易としたが、

俺は石やら刀やらを駆使して、この獣の二本の大きな牙を抜き、リュックに詰めた。



あれから一時間ほど歩いただろうか。丘の上から見た道らしき場所に着いた。

いや、道らしき、ではなく完全に「道」だ。

よかった。

轍があるし、少なくとも往来があることは分かった。

車というより馬車的な車輪が通った跡だが。


「とりあえず、道なりに歩くか……」

俺は誰かが通ることを願いつつ、北に向かって歩き出した。



―――もうすぐ日が暮れる。

どれくらい歩いただろうか。

道は、進むに従って次第に背の高い木々の生える浅い森林地帯へと続いていた。


「誰とも会わないな……そして腹が減った」

このあたりで野宿するしかないのだろうか。しかし、昼間のような獣がまた襲ってきたら?

その辺に木の実やらがありそうな気配はあるものの、俺には草花の知識が全くなかった。

毒でも食ったらひとたまりもない。

小動物でも捕まえる……?いや、すばしっこい動物を捕まえる術などない。

さっきの獣の肉をやっぱりキープしておけばよかったか。

「とりあえず、火でも起こすか……」

俺は道から数歩外れて荷物を置き、枯れ草や枯れ木を拾って集め、火を焚いた。

ライターがあったから楽勝だった。

ついでに、セブンスターに火をつける。ああ、美味い。

残り3本。あとはとっておきの時に取っておこう。

ぼーっと火を眺めているうちに、急激に眠気が襲ってきた。

そりゃそうだ。一日中気を張っていたんだから。


普通に朝起きて、朝飯を食って、居合刀を受け取りに行って。

刀を受け取った後は、アーケード街の美味いラーメン屋で昼飯を食べるつもりだった。

その後は道場に顔を出し、軽く稽古をするつもりだった。

つもりだったのに、何故。

何故俺は今、森で野宿をしているのだろう。

人生で断トツ一番の死にかけ体験もあった。

そして、現在進行形で遭難している。

本来なら、こんなところで寝たら危険なのだろう。

それは分かっているはずなんだが、どうでもよくなってきてしまった。

「まあ、何かに襲われても……なんとか……なるか…………」

揺れる焚火の炎を見つめながら、段々と瞼が落ちていった。




―――夢を見た。

誰もいない、真っ暗な空間。

真っ暗なのに、大きな人影が俺に語りかける。

輪郭だけがぼんやりと見える。


「―――千の魂を――――――」


怪訝な顔の俺が声を絞り出す。

「……千の、魂?……」


「……千の魂を…………刈れ………」








刀って実用するとすぐに錆びるんですよ……。

居合用の刀は手入れが大変です。

腰に提げっぱなしにしていたら、間違いなく痛みますね。

本当は「休め鞘」といって、使わないときはがっつり油を塗って白木の鞘で保存します。


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