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第28話「出立」


―――数日後。

イガルさんたちが用意した馬車に乗って宿にやってきた。

一頭立てのその馬車は、小さいながらも4輪のホロ付きで、3畳くらいの広さだった。

中古という割にはとても綺麗だったので、きっとロズさんと二人で磨いてくれたんだろう。

イガルさんたちが使っていた2頭立ての馬車よりは一回り小さいが、3人で旅をする分には丁度良い。

ホロも新品の布が貼られていた。

これで、金貨20枚也。原チャリ並みの価格だ。

リンちゃん曰く「普通なら3倍はする」とのことだ。

つくづく、イガルさんとの出会いに感謝を。

馬車を引く黒毛の大きな馬には、俺の独断で「マツカゼ」と名前をつけた。

リンちゃんもルナも「なにそれ?」っていう顔をしていたが。

いや、あれですよあれ。前田さんの愛馬。分かんねえか。

引き渡された馬車を宿の停車場に停め、俺たちはそのままイガルさんたちと最後の宴会をした。


そして、翌朝。

俺たちは荷物を馬車に積み込み、長期滞在のお礼を言って宿を後にする。

御者はリンちゃんが務めてくれた。

俺もルナも、馬車の操縦経験が全く無い。

リンちゃんが出来てくれて助かったが、この娘は本当になんでもできるな。


大通りをゴトゴト進み、イガル商会の前に着く。

「さびしくなるよ」

ロズさんが餞別にと、樽でワインを寄越してくれた。

狭い馬車なのに、とは思ったが、せっかくの好意なのでありがたく頂戴する。

イガルさんも、保存食をたくさん用意してくれていた。

もちろん俺がこの世界で初めて口にした、例の干し肉もだ。

「わしらも年が明けたら次の旅に出るから、どこかで会うかもな。もし大陸を一周したら、是非また寄ってくれよ。いないかもしれないが。ハハハ!」

相変わらずな人だ。

俺たちは改めて感謝を述べ、名残は惜しくも、西の門へ向かった。

まずは、西の国境の街、魔法都市アライアへ―――。


この先、どんな出会いが待っているのだろう。

流されるままにこの王都まで辿り着いたが、ここからは俺が手綱を握って行先を決める。

(まあ実際に馬車の手綱を握っているのはリンちゃんだが。)

これから本当の旅が始まるのだ。

この世界のあらゆるものを楽しみながら、大切なパートナーたちと共に、冒険しよう。


俺たちの馬車は門を抜け、城壁外の街道へと繰り出した。




「♪この道を行く~どこまでも行く~」

馬車に揺られながら適当に作った歌を口ずさむ。

街道沿いの農家や田畑、やがて小川や遠くに見える山々を眺めつつ、馬車は順調に進んでいった。

西のアライアまでは丸二日かかる。

途中に宿場町があるそうなので、今日中にそこまで到着することを目標にする。

御者席にいるリンちゃんも、ホロの陰から後ろを眺めているルナも、期待に満ちた様子だ。

俺だって、旅をするなんて経験は、この年になって初めてだ。

さあ、次の街まで。


と、思ったところで……最初の旅の危機は、唐突に襲ってきた。

数時間後、街道を進む道が林間へ進んだあたり。

「……ねえ、マモル」

リンちゃんがこちらを振り返る。

俺も、感じていた。

殺気だ。

この世界に来て、自分に害を与えようとする敵意を察する力は、自然に養われていた。

不思議なものだが、生存本能とでもいうのか、この世界では必須の危機管理能力なのだろう。

ルナも感じていたらしく、いつの間にか大剣を握って後ろを警戒している。

「……どうする?」

リンちゃんに問う。

「弓は警戒しておくわ。山賊なら真っ先に馬と御者を狙うと思うから」

……うん、あの時と同じだ。ねちっこい殺気。

これは魔獣ではない。人だ。


しばらく馬車は速度を人が歩く並みに落とし、林間の街道を進む。

すれ違うものも無い、小さい馬車が一台。

しかも御者が女の子だ。

山賊なら、うってつけの得物だろう。

俺の頭に、あの時の屈辱がよぎる。


……そしてそこから数里の先。

キン、という音と共に、リンちゃんが右方より放たれた矢を剣で弾いた。

「来た!左右おそらく4、5人!」

リンちゃんが即座に状況を伝える。

と、同時にルナが後ろから飛び出し、右の林に飛び込んでいった。

俺も先程から臨戦態勢だ。ホロの前から飛び出し、左の林に入る。


―――いた。

弓を構えた山賊2名。

相手としてもこちらがすぐに反撃に出ることは想定していなかったのか、

慌てて弓を俺に向けてくる。

俺は冷静に軌道を見極め、放たれた矢を避けてかわした。

次を構える前に、戦力を削ぐ。

俺は一足で飛び込み、射手の弓を水平斬りで真っ二つに両断し、返す刀で真っ向からその腕に傷を与えた。

型としては夢想神伝流「虎乱刀」だ。

さらにその奥に控えていたもう一人の射手がこちらへ放った矢をしゃがんで外す。

その体勢から跳ね上がり、腕と弓を斜め上に斬り上げる。

無外流「破図味」。

俺は、あの時とは違う。

もう迷わない、恐れない。そして頼らない。

俺は強くなった。

誰かに護られるのではなく、護ることができるように。


左サイドの敵を無力化し、馬車の前に戻って刀を構える。

同時に、ルナも右の林から戻ってきた。

何も言わないが、同じことをしてくれたんだろう。

正面、馬車の前でリンちゃんが対峙していた数名の敵と俺たちも相対する。


一瞬、頭が沸騰しそうになった。


「……ガーラント!!」




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