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第26話「密談」



―――ダンスタイムとなる。

ステージに豪華な編成の楽団がスタンバイし、優雅な音楽を奏でる。

この世界にもヴァイオリンとかあるんだな。

実は俺もギターをちょっと弾けるんだ。もしあったら嬉しいな、とか、のほほんと考える。

やがて貴族たちはそれぞれのパートナーと華麗なダンスを披露する。

俺はこの視線集中による精神的疲労と緊張で、練習したステップは全て吹っ飛んでいた。

「笑顔、笑顔ですよ!」

「顔が固いですよ!」

「頼りないです」

散々ルナに小声で注意をされながら、必死に何とかやり過ごした。


その後、俺は冷や汗だらだらの身体を冷やそうと、独りバルコニーに出て風に当たった。

城から眺める街並みは、ランプの優しい光に包まれた幻想的な光景だった。

俺は懐に忍ばせていたセブンスターに火をつける。

嗚呼。これで残り2本……。でも、まあ、いいか。

手すりに寄りかかり、揺れる煙を浴びながらボーっと外を眺めていると、後ろから人の気配がした。


「ここにおったか」

「!?」

聞き覚えのある声に慌てて振り返ると、国王が一人で立っていた。

「国王陛下!?お独りで、どうして」

あまりに急なことで、どうすれば無礼でないのか分からず、とりあえず頭を下げた。

「よいよい。ここではただの人だ」

国王は俺の隣、バルコニーの手すりに両手を乗せてもたれる。

「お主には伝えておきたくてな。ウォルフのことだ」

「ウォルフ……聖騎士団長?」

「あやつは、聖騎士団長という立場に喰われつつあった」

「喰われる?」

「人のごう、だな。名誉と欲に支配され、保身と強欲の虜になるのだ。一度手に入れた名誉や財産は、誰でも手放したくないからの」

俺は、王様が何を言いたいのかまだよく分からないでいた。

「お主の同伴者、ルナ・サザーランドのことだ」

「ルナ……ですか?」

「さっきは驚いたぞ。まさかマモル殿がルナを引き連れてくるとはな」

俺はルナと出会った経緯などを、かいつまんで説明した。


「なるほど……ウォルフはマモル殿に負けたことで、いよいよ焦ったのだな。情けないことだ」

「焦った、というのは?」

「ルナ・サザーランドは天才なのだよ。ウォルフも認めておる。いずれ自分の立場を脅かすと思っておった」

国王は続ける。

「それが、君に負けた。そして、ウォルフも、君に負けた。だが負け方が違う」

ああ……なるほど。

「ルナは君と紙一重の良い勝負をしたが、ウォルフは為すすべもなく負けただろう」

しかも武術大会という公衆の面前で、か。

「あやつは勝利や名誉にこだわるあまり、聖騎士にふさわしい誇りが消えつつあった。この間の武術大会ではすでに限度を超えておったな」

「それで、ウォルフ団長は、今は?」

「全く出仕しておらん。何度か使者を出しているのだがな。わしも舐められたものだ」

「そうですか……」

「ルナの訓練の様子は余もよく見ておったが、他より秀でているのは明らかだった。それでもあやつはルナを騎士として認めなかったのだ」

国王たるもの、部下の様子をよく見ているもんなんだな。

それにしても、ひどい話だ。

「ウォルフの所にいたらいつまでも飼い殺しにされていたことだろう。君と出会えたことで、変わるはずだ。先日の大会の時よりも、今日は目が輝いておったしな。未来の聖騎士団長候補だ、うまく育てるよう、頼んだぞ」

「……善処します」

肩をぽん、と叩かれ、国王はまたホールに戻っていった。


ルナも、ウォルフも、未来が変わってしまった。

その引き金を俺が引いてしまった。

この先、災いに巻き込まれなければ良いが……。



突然の王様とのマンツーマン密談の後、しばし考えこみながらそのままバルコニーで風に当たり続ける。

「マモルさん」

振り返ると、ルナが切なげな笑顔でこちらを見ていた。

「ああ……ごめん、独りにしちゃって」

「いえ、大丈夫です。そろそろ晩餐会もお開きになるみたいですよ」

「なあ」

「?」

「これから、どうする?」

俺の問いかけに、ルナは少々俯きながら考える。

「そう、ですね……ギルドの依頼で食べてはいけそうですし、しばらくはこの生活をしながら考えようと思っていました」

ルナには事情を話しておきたいと、思った。

今なら、言いやすいだろう。

「俺は、みんなから見れば異世界にあたるところから来たんだよ」

「え?」

「異世界から来て、リンちゃんたちと出会って、今ここでなんとかやってる」

「……その、異世界というのがよく分かりませんが……」

「まあ、違う世界っていうのかな。常識も、価値観も、国も全部違う」

「そんなことが、あるんですか」


俺はここまでの経緯を説明しつつ、今後の、ここ数週間で考えたことについてルナに語り掛けた。

「俺がこの世界に来た理由を、探そうと思ってるんだ」

「……たしかに、何かしらの理由があってこの場所に巡り合わせたのかもしれませんね」

ルナは、真剣に俺の話に相槌を打ってくれる。

「王都に滞在してしばらく経つけど、旅に出ようと思ってるんだ。この世界のことをもっと知りたいし」

ルナは黙って続きを待ってくれている。

「だから、一緒に旅をしないか?良かったら、だけど」

ルナは一寸考えこみながら、応える。

「それって、リンさんには言ったんですか?」

「え?いや、まだだけど」

「リンさんが先ですよ!」

「え、いや、なんとなくこの雰囲気だからと思って……」

「マモルさんて、ニブいですね。リンさん可哀そう。宿に帰ったら、すぐに同じ話をしてあげてくださいね」

ニブい……?んなこと言われたのは初めてだなぁ。

ルナが一旦後ろを向いてから改めてクルっとこちらを振り返り、にっこり笑顔を見せて言った。

「リンさんがいいなら、私もご一緒させてください」



揺れるスカート、室内の明かりに逆光で照らされたシルエット。

まるで恋愛映画のワンシーンのように、美しいルナの姿は俺の瞳に焼き付いた。





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