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第24話「仲間」


「……美味しい……!」

さっきまでとはうってかわって、ルナの顔がみるみる輝いていく。

なんだかんだで年頃の女の子なんだな。甘いものは特効薬だった。

「でしょでしょ!アタシたちもほとんど毎日来てんのよ!」

リンちゃんがプリンを頬張りながら満面の笑顔を浮かべる。

「んーー!オイシイ!」

「このお店の甘味は今まで食べた中で一番かもしれないです」

女の子同士、スイーツ談義が弾んでいる。

「ギルド帰りの甘いものは身体に染みわたるんだよな」

俺もフルーツゼリーを口に放り込む。

一度何かを気に入ったら大体同じものを頼む性格だ。

「毎回毎回、飽きもせずよく同じの頼むよねー。たまには違うの食べたら?」

「そっちだってこの間と同じプリンじゃねえか」

俺たちのやりとりを見て、ルナがプッと吹き出す。

「おふたり、仲が良いんですね」

「いやいや、いつも虐げられてます。おごらされたり」

「うっさい!」

リンちゃんに脇腹をどつかれる。

「いやお前そこ怪我してっ…イテテ」

そんな俺たちの漫才みたいなやりとりに。

「ふふっ」

ルナも笑顔を見せてくれた。いや、ほんと美少女だ。


「……ところで、これから行くとこ無いのよね?」

リンちゃんがジュースを飲みながらルナに聞く。

「ええ……着の身着のまま、追い出されてしまって……」

「アタシたちの宿に来なよ」

「え?でも……」

ためらうルナに、リンちゃんが言う。

「お金無い?」

「はい……」

「大丈夫、ここに金貨100枚持ちがいるから、ね、マモル?」

「まあ、そう来ると思ったよ。いいさ、おいでよ」

俺だってここに来たときには無一文で放り出されたんだ。

同じような境遇になってしまった子に(しかも美少女に)差し伸べない手なんて無い。

「あの……私は敵として戦った相手ですよ?どうしてそんなに優しくしていただけるんですか?」

敵には容赦するなとか、ウォルフに教育されたんだろうか。

「あれは、いい勝負だった。紙一重で勝てたけど、強かったよ、ルナさん。何かの縁だ。助けになるよ」

あ、ちょっと照れた。

「ルナ、でいいです。ありがとうございます……この御恩は忘れません」

「忘れていいわよ」

リンちゃんはちょっと黙っててくれ。

「じゃあ、とりあえず、よろしくの握手でも」

「よろしく、お願いします」

握手を交わすルナの手は、白く細かった。

素振りで出来たであろうタコだけが不自然にゴツゴツとして、日々の努力を想像させた。



―――その後、宿に帰るまでの道中、ルナの着替えやら、今夜の酒やらの買い物で財布にされる。

ルナは散々遠慮していたが、それを全て否定してくれたのはもちろんリンちゃんだ。

今日だけで金貨10枚くらいは使ったんじゃなかろうか。

下着やら、私服やら、寝間着やら。どれだけ買うんだというくらい買わされた。

ついでにリンちゃんも自分の分をさりげなく混ぜていたのを俺は見逃していない。

夕方までショッピングは続き、ようやく宿に戻った時にはすでに日は沈みかけていた。

今夜は歓迎会をしよう、ということで部屋での夕食にする。

と、言っても食堂のバイキングメニューをセルフサービスで持ってきただけだが。


グラスを手に、中にはちょっと奮発したワインを。

「新しい出会いに」

「かんぱーい!!」

俺とリンちゃんのノリに、ルナはまだ若干戸惑う様子だったが、とりあえずグラスを合わせてくれた。

「ルナは、怪我しなかったか?」

「はい、まだ少し痛みますが、大したことは無いです」

「そりゃ、良かった。女の子の脇の下なんて狙い打ってごめんね」

「そうよ、マモルの変態」

リンちゃんはちょっと黙っててくれ。

「いえ、私の方こそマモル様に怪我をさせてしまって、申し訳ありません」

「試合なんだから気にすんなって。あと、そのマモル様ってのやめてくれ、仰々しい」

「では、なんと呼べば……?」

「マモルでいいわよ」

そういえばリンちゃんは最初から呼び捨てだったな。

「マモル……」

呟いて、ルナがまた照れてる。

「いえ、せめてマモルさんと呼ばせてください」

「まあ、じゃあ、それで」

そうして、新しい出会いの夜は更けていった。


……で。

どうやって寝る?

この宿はツインの部屋料金だ。つまり、ベッドは2つ。

ここには3人。

「じゃあ、マモルがソファね」

「この怪我人にベッドを明け渡せと?」

「アタシだって怪我人なんですけど」

「いえ、私は床で結構ですので……」

「遠慮しちゃダメよルナ」

全身全霊のじゃんけん勝負の果て、俺とルナがベッド、リンちゃんがソファという結果になった。



―――深夜。

俺の布団がもぞもぞと動く気配を感じる。

「ん…?」

掛布団がはだけたので、改めて引っ張って被り直す。

ドンと背中に温かい圧力を感じる。

そのまま布団を半分ほど持っていかれる。

背中に背中が当たる感触。

眠気に負けてそのまま……

朝起きると、またリンちゃんが俺のベッドで寝息を立てていた。

それを見たルナは起き抜けに赤面している。

「やっぱり私お邪魔でしたか」なんて言われたし。

もう、明日からは俺がソファでいいです。



行き場の無いルナはそのまま俺たちと行動を共にすることとなった。

と、言っても俺たちはしばらく療養中なので、日中は単独でギルドの依頼を受けて日銭を稼ぐそうだ。

俺から出した金貨数枚分の負担も、いずれ必ず返すと言われたが、丁重にお断りした。

そして。

「……これ、もらってくれないか」

「これって……」

武術大会優勝の褒美にもらった、大剣。

「マモルさんの名誉の証じゃないですか!もらうことなんてできません!」

「いや、俺は大剣とか使えないし。使える人に持っててほしいのよ。仲間の証として、もらってくれ」

「でも……」

「それに、俺には愛刀、でんでん丸があるしね」

「名前ダッサ!!………はっ……失礼しました」

そんなにダサいか?この名前。


そんなやりとりの末、ルナはなんとか、王様からもらった剣を受け取ってくれた。




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