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第21話「国王」


「優勝、おめでとう」

イガルさんとロズさんが医務室に入ってくる。

おめでとう、という言葉の割には、神妙な表情だ。

「……これは、優勝と言っていいんですかね」

イガルさんが困ったようにポリポリと頭をかく。

「見て分かったと思いますが、俺、スローの魔法を使いました。反則です」

「……ああ、うん、そのことは大丈夫だと思うよ」

「え?」

「前にも話題になったけれど、スローなんて魔法は無いんだ。君しか使えないだろう。だから、審判も観客も、あれが魔法だとは思わないはずだ。実際、魔法かどうかも確かではないだろう?」

「……まあ、確かに」

「もちろん、何かすごい技を使ったというようには見えたけどね」

あれが問題でないなら、この2人の表情の理由は何なのか。

「それよりね……ウォルフは有名な聖騎士団長だ。しかもあまり良くない噂も聞く。さっきは国王陛下も了承の上での真剣勝負だったようだが、決勝の舞台で、この国一の剣士を倒してしまったんだ。それも一方的にね。この先どういうことが起こるか予想がつかなくてね」

それは、そうだろうな。国の代表とも言える相手を負かしてしまったのだから。

国王陛下とやらが、怒りをむけてこないとも限らない。

「そういえば、ウォルフはどうなりました?」

「ああ、君はすぐにステージから引っ込んでしまったから見てないんだね。後ろにいた、君の相手だった娘……ルナといったかな。その娘が駆けよって来て、肩を支えられて退場していったよ。反対側の医務室に行ったんじゃないかな。ま、立って歩いていたから死んではいないよ」

「……そうですか」

狙い通りではあった。

殺意はあったが、殺すつもりは無かった。

……矛盾になってしまうが。

殺気を放って能力がしっかり発動した後、致命傷にならないように斬撃をわずかに浅く入れた。

発動さえできれば、3秒は持続できるし、その間の自分の動きは自在なのだ。

殺意のコントロールという点で、俺はこの魔法、(技?)をもう一歩使いこなすことができた。

これで、この世界で俺を恨む相手を一人作ってしまったが。


「失礼します!」

ビシッとした敬礼と共に、兵士が入ってくる。

「マモル・ホンジョウ様!まもなく表彰式が始まります。ステージへお越しください!」

表彰式……やるのか。当たり前か。

観客は俺の勝利を認めているのだろうか。行ったとして罵声の嵐だったらどうしよう。

不安を抱きながら、兵士に伴われて会場へ戻る。

身体は痛むし、正直早く帰りたかった。



ステージに再び姿を見せた居合道着姿の異国人である俺を、

意外にも観客は立ち上がって満場の拍手で迎えてくれた。

「「マモルーーー!!スカッとしたぜーーーーー!!!」」

ひと際興奮しているのは、ジョッキを手に持ったおっさんたちだ。

イケメンへの妬みに違いない。

ステージ中央には、威厳のある白髭の男が、お供の女性と護衛を侍らせて立っていた。

貴賓席で見た、この国の王だ。


兵士に促され、国王の数メートル手前まで歩み寄り、片膝をついて頭を下げる。

先程、歩きながらこの兵士に教わった作法だ。

近くで見る国王は、さすがに風格があり、ビリビリとした緊張が身体を走る。

国王が片手を挙げると、観客の歓声はすっと治まった。

「……マモル・ホンジョウよ。面をあげなさい」

静かで、落ち着いた声。

俺がゆっくり立ち上がると、国王はお供の女性(…これまた美人だ)から大剣を受け取る。

「見事な戦いぶりであった!其方を今年の武術大会優勝者と認め、褒美を授ける!」

腹の底に響くような、威厳のある声。

見事な装飾が施された大剣を俺が受け取ると、観客は再び歓声を上げはじめた。

「……応えてあげなさい」

国王が俺にだけ聞こえるように囁く。

今度は優しい声。

俺が振り返り、右手で大剣を掲げると、観客の熱狂は最高潮に達した。

大歓声が振動となってビリビリと身体に染みる。

脇腹もピリッと痛んだが、不思議と心地の良い痛みだった。

再び王の方へ向き直ると、王様がちょいちょいと手を動かして俺を呼ぶ。

眼前まで行ったところで、国王が俺の耳元にそっと口を近づけた。

「……わしも、少しスカッとしたぞ」

へ?

国王は一瞬ニヤけ顔になったかと思うと、すぐさま威厳のある表情に戻った。

くるっと振り返り、観客に向かってよく通る声を飛ばした。

「皆の者!本日は大儀であった!これをもって本大会を終わる!」

そうして国王とお供達はステージを降りていった。

……去り際に「今度、城に招待するからな」なんて恐ろしいコメントを残して。

なんとなく、憎めない感じの人なんだろうか。

見た目はテンプレート通りのいかにもな王様といった威圧感だったんだが。

ちなみに、副賞として金貨100枚という大金が与えられた。

これで、当面はお金に困ることは無い。



―――その夜。

リンちゃんはそのまま安静にしていた方が良かったが、

競技場の医務室は閉じてしまうため、最も近い診療所へ運ぶことになった。

俺とロズさんで担架に乗せ、極力、頭に負荷をかけないように慎重に搬送した。

診療所といっても外科的な手術ができるわけではないので、俺たちは回復を祈ることしかできない。

ついでに俺も肩と脇腹を改めて診察してもらい、リンちゃんの隣のベッドで一泊入院コースとなった。

こちらの医者の見立てでも、やはりアバラと鎖骨にヒビが入っているらしい。

イガルさんとロズさんは、明日また見舞いに来ると約束して帰路についた。

俺も疲労からひどい眠気に襲われた。

ベッドに入り、隣で眠るリンちゃんを見つめているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。




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