第12話「失意」
馬車を囲む敵は10数人。前方と左右に散らばっている。
俺とリンちゃんは阿吽の呼吸で、同時に左右に散る。
1ヶ月の魔獣退治生活で培った連携だ。
リンちゃんは低い姿勢で抜刀しながら馬車の片側へダッシュし、
馬車を囲む敵に無慈悲な剣撃を加える。
素早さが強みのリンちゃんに相対する敵は不幸だ。
振り下ろす剣や斧の間を華麗にかいくぐり、双剣が左右の敵を仕留める。
山賊どもは何もできないまま血しぶきをあげて倒れていく。
あっという間に2人、3人と力なく武器を落としてうずくまっていく。
俺も負けていられない。
刀の柄に手をかけ、馬車の反対側にいる5、6人の敵に走り掛かりながら、抜刀する。
能力、発動―――
…………しない。冷や汗とともに思考が巡る。
何故?どうして?
自分と、仲間の命の危機じゃないか。今使わなくてどうするんだ。
意識を集中しても、全く周りの景色が遅くならない。
考えているうちにすでに敵の眼前まで走りこんでしまった。
もう、やるしかない。魔獣よりは弱いはず―――
斧や剣で俺を殺そうとする複数の敵と相対する。
次々と振り下ろされる攻撃をなんとかかいくぐる。
端の敵1人に狙いを定めて、斬りかかる。
俺の刃はかろうじて敵の胸をえぐり、敵は唸りながら倒れた。
人の身体に切っ先が食い込む感覚。
刀が、重い。人を斬る感触とはこんなにも不快なものなのか。
魔獣を相手にするときよりもはるかに焦り、あっという間に息が上がっていく。
「はぁっ、はぁっ……」
肩で息をする俺に、容赦なく次々と殺意の刃が襲ってくる。
転げ回りながら必死に避けて間を取る。
こんな無様な立ち回りをするはずじゃなかったのに。
2人目の敵を見定める余裕も無く、ひたすら敵の攻撃をかわし続ける。
どういう動きをしているのか、自分でももう分からなくなっていた。
俺は敵から距離を取ろうと後ずさりし、いつの間にか馬車の前方まで位置を変えていた。
「……よう」
低く重い声。
瞬時に、背筋にゾクっと冷たいものが走る。
慌てて後ろを振り返ると、眼前に不快な笑みを浮かべたガーラントが斧を振り上げていた。
「もらったぜ」
……死がよぎる。
「マモル!!」
リンちゃんがこちらを振り返って叫ぶが、間に合う距離じゃない。
なぜ、能力が発動しなった。
こんなところで死ぬのか。俺は強くなったはずなのに。
これから冒険の旅が待っているのに。
思考が巡る。これが走馬灯ってやつか。
あのとき、デザートタイガーの爪を前にした時と同じだ。
目を閉じるしかできなかった。
しかし、あの時との決定的な違いは、この状況でも能力が発動しないこと。
ガーラントの斧が、容赦なく俺めがけて振り下ろされる。
もう、だめだ……。
次の瞬間。
「うがっ!!」
ガーラントが声を荒げてのけぞる。
目を開けると、振り下ろそうとした腕に、小さな矢が刺さっていた。
「マモル君!」
振り返ると、イガルさんが馬車の上からボウガンを構えている。
俺は慌てて後ろに飛びのき、ガーラントから距離を取る。
ガーラントは右腕から血を流し、斧を落とした。
「ぐっ……この野郎………」
腕を押さえながら、鬼のような形相で俺を睨みつける。
…………怖い。
目の前にいる悪漢が、この上なく恐ろしく感じた。
中学生くらいの頃、不良に絡まれて殴られたことがあった。
あの時も、俺は怖くて何もできなかった。
いつから強くなったと思い上がっていたんだろう。
俺はこんなにも弱い。
殺し合いなんてできる人間じゃないんだ。
敵から目を離してはいけないのに、恐怖で目から涙が溢れてきた。
視界が霞んでいく。
「お頭!!」
ガーラントの仲間が駆け寄り、囲むように防御陣形を取る。
リンちゃんの方にいた敵は全て蹴散らされており、
残ったのは俺が仕留められなかった数人だ。
「……退くぞ!」
ガーラントの指示に従い、こちらを警戒しつつ、山賊は森の中に消えていった。
リンちゃんが俺の前に立ち、威嚇してくれている。
山賊たちの姿が見えなくなったのを確認し、木の間に張られたロープをリンちゃんが切る。
リンちゃんに支えられながら俺が馬車に乗り込むと、
ロズさんは急いで手綱を動かした。
俺は、揺れる馬車の中で涙を堪えきれず嗚咽を漏らしていた。
情けない。情けない。何が用心棒だ。
「……大丈夫?」
リンちゃんが心配そうに、うつむく俺の顔を覗く。
「……ごめん。……ごめん」
弱々しい、謝罪の声しか出なかった。なんて役立たずなんだ。
口惜しさと情けなさの涙が止まらない。
顔を覆った両手が濡れていく。
イガルさんも、まだ外を警戒してボウガンを構えながらも、心配そうにこちらを気にしている。
「なんとかなったんだから、大丈夫だから……」
リンちゃんが背中をさすってくれる。
大の大人が、本当に情けない。
すべての生き様を否定されたようで、
俺は完全に打ちのめされてしまった。
馬車はしばらくそのまま走る。
幸い、山賊は退いてくれたようで再び襲われることはなかった。
やがて道は舗装された街道へとかわり、王都の門へと近付いてきた。




