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第118話「東風」


盛大な宴から一夜明け、俺たちは久しぶりに5人揃って出発の準備をしていた。

屋敷を出る間際にゾンテに呼び出された俺は、「ランファをよろしく頼む」と改めて頭を下げられた。

親として、娘がまた旅に出ることの危険や、俺という男と一緒に行くことなど、様々な思いが巡ったことだろう。

「それとな、タン・ルーの影部隊の大半は捕縛したんだが、一部はまだ潜伏している。私も気を付けるが、ホンジョウ殿を襲う可能性があるから、十分用心するように」

「忠告、ありがとうございます。警戒しながら進みます」

がっしりと握手をして、ゾンテと別れた。


ナンケイの東門まで歩く道中では、「あれが英雄の一行か」と、これでもかというくらい人だかりに囲まれた。

タン・ルーによって王宮に強制的に召し抱えられた娘たちも解放されたそうなので、それもあって噂が広まったんだろう。

急遽派遣してもらった王宮の兵士に守られ、なんとか門を抜けることが出来たが、非常に疲れた。

門を出てしばらく歩いた先、前にシェリィが築いた小山に辿り着く。

ブレイクの呪文で山を土に還し、久しぶりに俺たちの馬車と対面した。

しばらく大自然に解き放っていたマツカゼとノカゼは、地平線の彼方から俺たちに向かってすごい勢いで走ってきた。

再び馬たちに馬車引きの鞍を付け、ようやく元通りのパーティの姿が出来上がった。

リンちゃんが御者、ルナは後ろ、シェリィは中でごろ寝。

ティファナと俺は馬車の中から前方を窺う。

いつもの定位置、いつもの光景。

嗚呼、たかだか数週間の間の出来事なのに、リュウシャン国での騒動は1年にも感じるくらい長く感じた。

この仲間と、この旅を、再会しよう。


「さあ、行くよー!」

元気の良い、いつものリンちゃんの声が響く。

ゴトゴトと歩み出す馬車の揺れが、懐かしく、心地よかった。

思わず涙がこぼれそうになったのを、さりげなく拭った。



―――東へ向かい、まずは宿場町を目指す。

ゾンテの情報をみんなに伝え、道中の警戒は怠らない。

今後の進路については、宿場で話し合うことにしていた。

まあ、俺の気持ちとしては是非「エルフ」を拝見したいので森に入るつもりなんだが。

やがて日が沈み始める頃、ナンケイの東にある宿場町、「コチ」へ到着した。

意外にも、というか幸いにも刺客に襲われることは無かった。

よく考えたらウォルフの存在もある。

常住坐臥、用心しなければ。



「……んでは」

「リンちゃんの復帰に……」

「「「かんぱーーい!!」」」

割れそうなぐらいの勢いでカッチーン!と頭上でグラスを合わせ、ぐいっとエールをあおる。

今夜の酒もまた、格別に美味い。

小さな宿屋の2階の一室、明るい声に囲まれて。

やっぱりみんな揃ってなくちゃ。


「そうそう、婚約おめでとうじゃな、マモル、リン」

シェリィが意地悪い目でじろじろにやけながら俺たちの顔を交互に見る。

「アハハ……なんか、勢いでああなっちゃったけど……ありがと」

リンちゃんは笑いながらもちょっと赤くなって照れている。

「おぬしもまんざらでもないんじゃろ?」

「まあ……はは」

ルナとティファナもいるのにそんなはっきり言えるかい。

「いいんですよーマモルさん。マモルさんのいた“異世界”はどうか知りませんが、こっちの世界は一夫多妻OKの国がほとんどですから」

「えっと……それはどういう意味かなぁ?」

「気が向いたら私もお嫁にしてくださいねって意味ですー」

ルナはいつもの笑顔のまま、すごい勢いでエールを飲み干した。

「私もーー!!さんばん妻!」

ティファナ、お前もか。

「3人嫁って……そんな甲斐性ねえよ俺」

「わしも混ざろうかの」

「ババアは却下」

「ババア言うな!」

「ぐふぅ!!」

またグーでみぞおちを殴られた。

酒飲んでるのにきっついて……上から出るよ。

「中身はババアでも見た目は若いじゃろうが」

「見た目で言ったら若すぎてヤバいだろうが」

「ま、確かにリュウシャンだって一般人が結婚できるのは14歳からよ」

げ、そんなに若いのか……。


「シェリィさんは見た目だと10歳くらいですかねー?」

ルナがシェリィの身体をまじまじと見つめる。

「ま、250歳じゃが……あ。もうすぐ誕生日だから251歳か」

「そこまで来ると誕生日の意味を感じねえな」

「やかましいわい」

「そんなこと言わず、お祝いしましょうよ!」

「誕生日いつなの?シェリィ」

「2月12日だから、あと2週間後じゃな」

「ちなみにアタシは3月3日」

「あ、私は6月6日です」

「私は4月1日だよー」

なんか急に誕生日発表会が始まった。


「で、今後のことなんだけど」

この話をしておかないと、明日からの行動が分からん。

「エルフに会ってみたいからエルフの森に入りたいんだが」

「マモルさん、欲望に忠実すぎる発言ですね」

「引くわ」

しまった、はっきり言いすぎた。

ルナとリンちゃんがドン引きしている。

「わしもそう提案しようと思っていたところじゃ。会いたいエルフがおるでな」

「エルフに知り合いでもいるのか?」

「ああ、わしの長い逃亡生活のほとんどはエルフの町におったからな。あそこは今でも治外法権じゃ。ただ、入るのは大変じゃぞ。森中に仕掛けがあって十中八九迷う」

「でもシェリィがいれば、大丈夫なんじゃないの?」

リンちゃんが干し肉を咥えながら聞くが、そうでもないらしい。

「いや、あそこの仕掛けは街に近づけさせないように惑わせるものじゃ。上手くエルフと接触できなければいつまでも森の中で迷うことになるぞ。わしだって百数十年ぶりだから上手く進める自信はないわい」

「……ま、森の中を彷徨ってても、いつかは会えるか……」


多少楽観的思考だったが、兎にも角にも次の目的地は森の奥深く、エルフが住む町ということに決まった。






先日、初めて24時間のPVが常に付く、というのを記録しました。

日頃から読んでくださってる皆様、感謝感激です!


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(私自身はほぼ宣伝活動をしていないので)

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