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第10話「修行」


翌朝、宿の裏の放牧場で俺とリンちゃんは向かい合っていた。

お互いの手には昨日買った木剣。リンちゃんはもちろん二刀の双剣だ。

さすがに日本の観光地によくあるような木刀は売っていなかったので、

近い形の曲刀を買って夜な夜な宿で木刀らしく削る加工をする羽目になった。

「マモルの言うことが本当なら、あの刀でなければ能力は使えないはずよね。まずはお互いの実力を確かめましょ」

俺は内心ビビッていた。居合をやっているとはいえ、基本的には型を演武する武道であって打ち込みの稽古は決まった技の動きでしかやっていない。

「マジでお手柔らかにお願いします……」

俺の嘆願を聞いているのか聞いていないのか、リンちゃんが深く息を吸い込む。

「行くよ!」

リンちゃんが剣をクロスし、身を低くしてダッシュしてくる。

「ハッ!」

右の剣を横凪ぎに振ってくるのを、かろうじて木刀で受ける。

続けざまに左から連撃。リンちゃんの木剣はあっさりと俺の隙だらけの左脇腹をとらえた。

「ぐえっ!」

情けない声とともに脇腹をおさえてのたうち回る。

木剣とはいえ、クリーンヒットした痛みは息が止まるくらいだった。


「アンタ本気でやってんの?」

リンちゃんが木剣を肩にトントンと担ぎながら、呆れたような顔で言う。

俺の長年の居合は……型の武道は実践では役に立たないのか……。

「も……もう一本……」

さすがにこんな無様なままでは終われない。

痛みが引くのを待ち、次の仕手を願う。

今度は上段から双剣を同時に振り下ろしてくるリンちゃん。

む。この打ち込み型は知っている。

俺は木刀を受け流しに振りかぶりつつ、斜め前方へ一歩踏み込み、紙一重で剣撃を避けた。

無防備になったリンちゃんの背中に木刀を袈裟に振り下ろす。

無外流「稲妻」だ。型の通り、寸止めした。

リンちゃんが構えを解いてこちらをギロリとにらむ。

「……さっきとまるで動きが違う。アンタどういう稽古してんのよ」

俺は居合の稽古としてやってきたことをかいつまんで説明した。


基本的に居合は一人で型の稽古だ。たまに二人ペアになって立ち合いの型もやるが。

あらゆる型を教わり、それを反復する。

ダメなところがあれば、師匠が指摘してくれる。

それの繰り返しだ。そうやってこの10年以上、稽古してきた。

「つまり、決まった攻撃に対してしか対応できないってことじゃない」

「だって現実に実戦なんてないし」

「そりゃアンタの世界の話でしょ!」

ええ、全くその通りです。

「実戦では、敵は思い通りになんて攻めてきてくれない。アンタの能力がどう発動するのかも分かんないんだから、まずはそれなりに強くならなきゃね」

あの能力があれば無敵のような気もするが、確かに未知すぎる。

もし絶体絶命なのに発動しなかったら?途中で切れてしまったら?

頼りすぎるのも危険だ。

「じゃ、鍛えましょ!能力無しでその辺の魔獣を普通に倒せるくらいには」

「だから、お手柔らかに……」

リンちゃんの顔が明らかに悪い笑顔になった。

その後、リンちゃんの地獄の実践稽古は夕方まで続いた。



――――そうして。

リンちゃんとのどぎつい立ち合い稽古を毎日行いつつ、

ギルドの依頼にも目を通し、街の周辺の魔獣狩りもやった。

稽古では、リンちゃんの絶妙な手加減?もあって、大したケガもせず、それなりの立ち回りができるようになってきた。

ギルドの方は、依頼一回あたり金貨1枚は稼げたので、宿賃を引いてもプラス収支だった。

空いた時間で文字を教わったり、この世界の常識を聞いたりした。

お礼にジュースやら昼飯やらを毎度要求されたが、リンちゃんは実に根気よく俺に付き合ってくれた。

そういえば、自分で狩ったラッシュボアの肉も、あの店で食べたな。


俺の怪しげなスローの能力についても、リンちゃんの協力もあって、少し分析できた。

でんでん丸をただ抜いても、スローは発動しない。

それは真剣を携えたリンちゃんを相手にしても、同じだった。

ギルドの依頼でラッシュボアを狩りに行ったときには、

こちらに気付いていないボアに斬りかかっても発動しなかったが、

俺に向かって突進してくる個体に刀を抜いた時に発動した。


―――おそらく、だが。仮説はこうだ。

俺に敵意をむけてくる相手に対して。

もしくは、ごく近接にいる俺の仲間を襲う相手に対して、俺が殺意とともにでんでん丸を抜刀すること。

この数週間の経験から、そう仮定した。

俺の命の危機、そしてあのときのリンちゃんの危機。


そして、発動時間は、俺の体感で3秒ほどが限界。

物は試しと、自分に向かってくる魔獣を一匹あえて斬らなかったことがあったが、そのくらいでスローが切れてしまった。

あの時は死ぬかと思った。

リンちゃんが助けてくれなければそのままゲームオーバーだっただろう。


……いずれは、この能力も自在にコントロールできるようになるのだろうか。

あと、心の中でこの能力に名前をつけた。ここぞというときに、かっこよく公表しよう。




―――そして、あっという間にイガルさんとの約束の期間、1ヶ月が過ぎようとしていた。





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