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第1話「妖刀」

★ご覧いただきありがとうございます★

数ある小説の中からこのページを開いていただいたことにまず感謝!

この物語は「居合道」という武道を修める若者が、異世界を旅するお話です。

最初から無双する話ではありませんが、主人公が着実に成長していく様子を見守っていただければ幸いです。


気に入っていただけた方、ブックマーク、評価いただけると大変嬉しいです。一緒に冒険しましょう!!

拓磨@無外流 拝




―――居合道いあいどうとは。

剣豪、林崎甚助はやしざきじんすけを開祖とする、日本刀を用いた武道である。

あらゆる状況を想定し「後の先」を制することを常とした、抜刀の型を稽古する。

剣道と同じく公式な段位が存在するものの、世間様の認知度はイマイチな由緒正しきマイナースポーツである(泣)。



ーーーーーー


カレンダー通りの金色連休を満喫するはずだった5月晴れの昼下がり、俺は呆然としていた。

眼前に広がるのは、見渡す限り青々とした草原。

一切の人工物が見えず、さわやかな風が吹き抜けるその場所に、ただ一人。


「……なんだ、こりゃ?」




―――話は少々遡る。

俺はウッキウキなテンションでアーケード街を歩いていた。

なぜかというと、注文していた日本刀の「こしらえ」が完成したという一報が入ったからだ。

拵えというのはさやとかつばとかを含めた、皆さんがイメージするところの「日本刀」の外見一式のことである。


あれは半年前のこと、高校以来取り組んできた「居合道」という武道で、俺は晴れて五段を取得した。

居合道は基本的に1人で型の稽古をするのだが、演武を評価される大会もあって、2名ないし3名でお互いの技前を披露して優劣を競う。

そして俺が所属する「全日本剣道連盟居合」では、「五段以上の者は大会で真剣を用いなければならない」という決まりがあるのだ。


これまでは合金製の模造刀(切れない)で良かったのだが、真剣が必要になった俺はヤ〇オクで無銘の刀を破格で競り落としたのだった。

本来ならば刀身のみでも10万から20万円はするのが相場だが、5万円を割り込む安さだった。

その割に傷も無く、競り落とせたのは純粋に運が良かったからだろう。


それで、居合用に使うための外装、「拵え」を注文したという流れだ(そっちの方が高くついたが)。

以前一目ぼれして同じくヤフ〇クで競り落としていた、「蝸牛かたつむり図の鍔」をつけた拵え。

もう名前は決めてある。


生涯の愛刀の名は、「でんでん丸」だーーー


ダサい、と笑うなら笑うがよい。

どうせ、どこにも出さない名前だ。

一人で呼んでほくそ笑むのだ。

今夜はでんでん丸を抱えて頬ずりをしながら一緒の布団で寝よう。


妙なテンションで妄想を捗らせているうちに、歩みは武道具屋の前で自然と止まった。

「いらっしゃい!(まもる)くん!」

元気よく出迎えてくれたのは世の中に数少ない居合道具専門店「能州堂」の店主だ。

仕事は確実で、一人一人の手形まで取ってオーダーメイドの刀を仕上げてくれる。

この店主も居合をやっているので、客に求められているものがよく分かっている。

安心して注文することができるので、この地域のみならず全国から客が絶えない店だ。


「さっそく見たいよな。いい感じで仕上がったぞ!」

店主が細長いボール紙製の箱をカウンターに置く。

本城護(ほんじょうまもる)様」と立派な毛筆で表書きされた箱を、ドキドキしながらゆっくりと開ける。

その中には、さらに箱。

それを開けるといよいよ刀が……あん?見えない。

まだまだ緩衝材に包まれておる。

仙台銘菓「萩の月」ばりの過剰包装をバリバリと雑に開梱すると、ようやく待ちかねた愛刀とご対面を果たした。


蝸牛図のつば

蝸牛図の目貫めぬき

蝸牛図の縁頭ふちがしら

青貝あおがい散らし模様のさや

もろひねり巻きの黒柄糸くろつかいとの奥には時代色の鮫皮さめがわ親粒おやつぶが覗いている。


……なんてステキなんだ。

思わず分かる人にしか分からないような極めてマニアックな描写をしてしまった。

慎重に鞘から刀を抜くと、銀祐乗ぎんゆうじょうはばきから伸びる、細直刃ほそすぐはの刃紋にき流し棒樋ぼうひを彫る刀身がキラリと怪しく光った。

……美しい。


うっとりしている俺に店主が声をかけてくる。

「それ、軽くて振りやすい、良い刀だね。なんか預かってるときにいろいろ心霊現象ぽいのあったみたいだけど」

恍惚の表情で刀を眺めていた俺の眉間がピクっと動く。

「……はい?心霊現象?」

「この刀を研いだ職人さんとか、持った人がなんか変な夢見たらしいよ」

……いきなり不安になることを言わないでくれ。

「どんな夢……だったんですか?」

「なんかね、この刀を持って人やら獣やらを斬りまくる夢とか、刀から黒い煙みたいのが出てる夢とかだったって。これ、妖刀なんじゃね」

……なんてことを言うんだこのおっさんは。

「はは……まさか」

顔がますます引きつった。

「これヤフオ〇で買ったんだよね?出所怪しいし。まあ、人斬らないようにね笑」

なんてことを言うんだこのおっさんは本当に。

「斬るわけないっしょ!」


苦笑いとともに、持参した居合刀ケースに「でんでん丸」をしまい、肩に担いだ。

「段ボールはこっちで処分しとくからね。じゃあ、真剣に真剣稽古に励むように!」

つまらないダジャレ?の後にドンと肩を叩かれる。

「じゃあ、ありがとうございました。大事に使いますね」

店主に礼を言い、店を後にする。


まあ、妖刀かどうかなんて分からないし、それはそれで面白い。

妙な出来事は起こってから考えよう。

どうせ俺は霊感なんて欠片もない。

まずは、今日から毎日素振りして慣れなきゃな。

そんなことを考えながら店のドアを開け、表通りに出た。




―――はずだった。


店を一歩出た瞬間、突然真っ白い光に視界を奪われる。

「うおっ!」

思わずきつく目を閉じると、天地が分からなくなるような妙な感覚が襲ってきた。

なんだ、立ちくらみか……?

足元の感触が一瞬無くなる。

続いてゴオッという風が身体を下から上へと吹き抜けた。

急に襲われた浮遊感に平衡感覚を失い、不意に膝をついてしまった。


………ん?

膝に当たる地面の感覚が、妙にやわらかい。

立ち上がり、チカチカする目をゆっくり開ける。

だんだんはっきりしてくる景色は……前述のとおり。


「……どこだ、ここ………」




かくして、俺と愛刀でんでん丸の異世界冒険の旅が、唐突かつ強制的に始まるのだった。





第1話、お読みいただきありがとうございます!

日本刀、素敵だと思いませんか?

ちなみに「でんでん丸」は私が実際に所持している刀です。

さて、次話へ!


★ブックマーク、評価いただけると大変励みになります。

2/24 誤字報告いただきありがとうございました。修正しました。

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