ビアンカ 3
「…ア…カ、ビア…、ビアンカ!大丈夫か?」
目を覚ましたビアンカはアルトが心配そうにこちらを見ているのに驚いた。
「…?どうしたの?」
「昼食に呼びにきたら随分うなされて泣いていた。悪夢か?」
「え…?」
顔に触れると確かに涙が出ていた。しかし嫌な気分ではなくむしろ温かな気持ちだった。
「ううん。何か、懐かしい夢を見ていた気がするの。…心配かけてごめんなさい」
「そうか。それなら良かった。…弟も帰ってきたんだ。食事にしよう。動けるか?」
「ええ、大丈夫。…ありがとう」
リビングのテーブルには、ほかほかと湯気を立てる料理とリオが待っていた。
「初めましておねーさん!僕はリオ。よろしくね!」
「此方こそ初めまして。私はビアンカよ。突然お邪魔してごめんなさいね」
「ううん!兄さんに聞いたよ、落ちてきたんでしょう?おねーさんも大変だね」
「さあ、自己紹介はそれくらいでいいだろ。食事にしよう」
「はーい」
海底での食事はほとんどが海産物だ。肉も食べれないことはないが交易でしか手に入らないため流通量が少ない。陸のものは希少なのだ。
「これ、美味しい…」
「焼き魚か?陸でもよく食べると聞く」
「そうなのね。初めて食べた気がするわ…」
「おねーさん、ここら辺の魚は美味しいんだよ!たくさん食べてね」
「…ありがとう」
「そうだぞ、もっと食え。リオ、お前もたくさん食べるんだぞ」
3人の食事は終始和やかだった。記憶を無くしたからか、ビアンカにとっては初めて食べるものばかりで新鮮な気持ちだった。
「へぇ、おねーさん記憶喪失なの⁈」
「そうみたいなの。私にもよくわからない」
「早く思い出せるといいねぇ」
「まあ、こればっかりは言っても仕方ないだろ」
「ねえ、にいちゃん、先生のところに連れて行ってあげたら?」
先生とはアルト達の近くに住む医者のことである。なかなか腕が立つらしく時々遠方から患者が来るほどなのだ。
「そうだな。しかし、先生はまだしばらく帰ってこないだろ?」
「あー、そっか…」
年に一度の医者の集会に参加しているらしく今診療所には見習いしか残っていないのだ。
「…あの、私のことなら気にしないで。助けてもらっただけでも幸運だったんだし、陸まで送ってもらえたら後はどうにか自分で…」
ビアンカはそう言うが、実際陸に行くのも不安でしかない。かと言ってこのまま海底に居続ける訳にもいかない。
ついに、3人とも考え込んだまま口を閉ざしてしまった。
食事はとうに終わりただお茶を啜る音だけが響く。
そしてとうとうリオが口を開いた。
「…にーちゃん、叔母さんに相談しようよ」
リオ・レイ 12歳
お兄ちゃんを尊敬してる
1人で留守番するのはちょっと寂しい
綺麗な貝を見つけるのが上手