ビアンカ 2
「おい、大丈夫か!」
急いで少女の元へ近づいたアルトは彼女の意識がないことに気づくとさらに慌てた。
落ちてきたのは7.8時間前だろう。こんな場所で意識が無いままならとっくに死んでいるはずだ。
しかし、抱き上げた少女にはまだ温かみがあり、鼓動も感じられた。
「まだ助かる…」
アルトは少女の周囲に何もないことを確認して家へと急いだ。
ーーー
「おかえり…って、えっ人⁈」
「リオ!急いで客間のベッドの用意をしてくれ!」
「う、うん。わかったよ!」
まず魔法で体を乾かしベッドに寝かせた。家の中は水ではなく空気で満たされているため少女は呼吸しはじめた。
気を失っているだけらしく体に異常はなさそうだった。
「にいちゃん、この人大丈夫なの?」
「ああ、おそらくな。保護魔法がかけてあった。水中にいたせいで使い果たされているがな。誰か落ちる前にかけたんだろう」
「そっかあ。陸の人みたいだね?黒髪だし。何かあったのかなあ…」
「目を覚ましても詮索するなよ。ベッドの準備ありがとうな。ほら、貝拾い行ってこい」
「はーい!」
リオが出ていきしばらくして少女はようやく目を覚ました。
そして、ゆっくりと体を起こし口を開いた。
「あ、の…ここは…?」
「ここは海の底のリマシアという国だ。貴方は国境間に倒れていたんだ。昨晩陸から落ちてきたようだが…」
「リマシア…?」
「聞いたことないか?まあ、海底でも田舎だからな。俺はアルト=レイだ。君は?」
そう尋ねると少女は不思議そうに瞬きをし答えた。
「私は、ビアンカ…。ビアンカ…あれ、なんだっけ。私、海の中に落ちて…え、なんで落ちたの…?」
ビアンカは自分に記憶がないことに気づき驚愕した。名前以外思い出せないのだ。
「記憶喪失か…。大丈夫だ、ビアンカ。きっと思い出せるさ」
「ありがとう…。あなたが私を助けてくれたの?」
「いや、助けたと言ってもここに連れてきただけだ。君には保護魔法がかかっていた。そのおかげで君はどこも怪我なく落ちてきたんだろう。…これも心当たりはないか?」
「ええ…全く何も」
「ゆっくりで大丈夫だ。また、何か思い出したら言ってくれ。もう少ししたら弟が貝拾いから帰ってくる。食事の準備をしてくるから、寝ててくれ」
そう言ってアルトは部屋を出た。
ーーー
アルトが出た後、1人になったビアンカは不安でたまらなくなった。どうしてここにいるのか、自分に何があったのか、これからどうしようか…等々不安の種は尽きない。仮にこのまま陸に行ったとしても何もわからないのだ。自分を知る人がどこにもおらず不安でしかない。
考え事に夢中になったビアンカはそのまま眠りに落ちていった。
アルト・レイ 25
銀髪 黒目
隠れ筋肉の持ち主
弟と2人暮らし
※海の中だけど服着てます。魔法でどうにかなってます。