出会いは突然にとよく言うが突然すぎる③
俺は小豆沢さんの後を少し遅れてついて行った。すると小豆沢さんはリビングであたりを見渡していた。
「広ーい。先輩ってここに一人暮らしなんですよね」
振り向きざまに聞いた。羨ましいのだろうか。
何で知ってんだ・・・・・・俺の中では小豆沢さんはすでに危険人物扱いになっていた。だってそうだろう、住所を特定され、居住方法もばれていてはそう思うのも無理はない。
「・・・・・・すまんが、なぜ俺にかまうか教えてくれ。俺は君のこと何も知らないんだ」
「なるほど先輩の一人称は『俺』なんですね。なるほど、なるほど・・・・・・あと、『君』じゃないですよ。さっき名前を言ったじゃないですか」
ポケットからメモ帳を取り出して何やら書き始めた。メモ帳の表紙には「亮祐先輩♡メモ」と書いてあったのが見えたが、多分俺の勘違いだ。
質問に答えてくれ・・・・・・先ほどから頭をかきすぎて寝癖よりもひどい状態になっていた。
俺の精神的な体力もそろそろ尽きてしまいそうだ。
「・・・・・・で、何でだ」
呼称を変えるのが面倒だったので質問の内容だけ繰り返した。
小豆沢さんは「うーん」とうなりながら宙を見て考え込んでいる。
「もしかして、先輩は三年前のことを覚えていませんか?」
三年前どころか昨日の記憶も怪しい。
若年性アルツハイマー病というわけでも物覚えが悪いわけでもない。ただどうでもいい日常のことは極力覚えないようにしているだけだ。どうでもよくない日常はほとんどないのだが。
「覚えてないな」
目を輝かせている小豆沢さんを見て、もしも覚えている、と言ったら抱きつかれそうだと感じたのでそう言った。もっとも本当に覚えていないので嘘ではないが。
「はぁ、まぁしょうがないですね」
がっくりと肩を落としながら少し残念そうに言った。別に俺は何も悪くないはずなのに少し罪悪感を感じてしまった。
「それなら三年前交通事故に遭いそうな超絶かわいい美少女を助けた記憶はありますが」
一部突っ込みどころがあったが無視をして思い出そうとする。
交通事故・・・・・・ああ、んなこともあったな。
気の迷い? から生じた過去だったので消滅したい部類の過去だ。
おいおい、まじかよ。
察した、と言うよりも察するほかなかった。これでわからなければ鈍感にもほどがある、と言いたくなる。
だがそれだと自分のことを「超絶かわいい美少女」と言ったことになるが、やはりそれは無視した方がいい。
「それなら忘れていい。俺も忘れたいからな。だから恩返しなんていらない」
右手を振って「バイバイ」の合図をした。それ以上に雰囲気的に帰るべきなのは、普通の人なら察することはできるだろう。
だがここにいるのはどうやら普通よりも少し? 物わかりが悪いようだ。
「そんな、忘れるわけないですよ」
と言いながら笑顔で手を振り返してきた。何かの挨拶か何かと勘違いしたのかもしれない。
誰かこの頭お花畑をなんとかしてくれ・・・・・・俺はガラにもなく誰かに助けを求めたい気分だった。