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鈴花と妃菜が面倒なことになっている⑤

「じゃあ、亮祐(りょうすけ)先輩! 私はこれで帰りますね」

 場を荒らすだけ、荒らして妃菜(ひな)が帰る宣言をした。一体何がしたかったんだ。


 妃菜は手を後ろで組んで、体を少し、くの字に曲げていた。この格好だと、妃菜の胸がより強調されている。改めて、妃菜のスタイルの良さに気づいたな。だからどうだ、という話なんだが。容姿も、スペックもどちらも非の打ち所がないが、圧倒的に言動がアウトだ。


「おう、もう帰れ」

 できれば俺の家じゃないところに、っていても無理か。今日、ホテルにでも泊まるか。(一応言っておくがそっちのホテルじゃないぞ。俺が一人で泊まる用のホテルだ)


「また後でー」

 手を振りながら教室から出て行った。妃菜が出て行くと教室には居心地が悪くなるような静寂がもたらされた。本当は書道なんてこんな静寂でやるのだろうし、(機会は少ないが)書くときもこんな感じだ。


 なのにこの居心地の悪さは何だ? 責任でも感じているのか? 確かに妃菜がここに来たのは俺に責任がある。それは認める。だが、来て何をしたかは妃菜の責任で、俺は無関係だ。


 俺は和泉(いずみ)先生と鈴花(すずか)を見た。俺を責めるような目で見られるかと思っていたが、和泉先生は人の悪い笑みを浮かべており。鈴花は少し怒ったような表情をしていた。


 和泉先生、絶対楽しんでますよね? 俺は命の危険まで感じてるんですが・・・・・・って言ってもしょうがないですよね。


 そして鈴花、なぜ俺が怒られる? 確かに部活を荒らす原因を招いたのは俺だ。だが、来るとは思っていなかった。これは不可抗力だろ。


嘉神(かがみ)、帰らなくていいのか?」

「永遠に帰らなくても大丈夫です」

「そんなこと言うな、一人の家は寂しいだろ? 誰かがいてくれるっていいことじゃないか」

「体験談ですか?」


 あっ、しまった、と思ったときにはもう遅かった。和泉先生は「大丈夫、次こそはいい出会いを見つけて、そのままゴールイン。明後日は本気を出す。いける、頑張れ、和泉怜央(れお)! ・・・・・・」などとブツブツ言っている。これはもう手遅れだ。


 和泉先生、明後日頑張ってください。と心の中で激励しておいて、俺は鈴花と顔を合わせた。まだ怒っている。怒っているといっても、実際はほおを膨らませているだけなので本気で怒っているわけではないだろう。


「亮祐君!」

「ど、どうした?」

 急に名前を大声で呼ばれて驚いてしまった。鈴花が俺の名前をこんな風に呼ぶのは今までにあったか?


「あの子とは本当に付き合ってないんだよね?」

「だから、そう言ってるだろ。俺だって迷惑してるんだ」

 頭をかきながら返答した。迷惑ばかりしてるかというと、助かっているところもある。それでも、迷惑の方が大きい。


「ふーん」

 ほおの膨らみがなくなった。鈴花は俺の答えに頷きながら納得したような声を出した。俺は安心していいのか?


 すると今度は何か言いたそうに、少しもじもじし始めた。今日の鈴花はどうしたんだ?


「亮祐君・・・・・・」

「なんだ?」

「い、今ね・・・・・・す、好きな子とかいるの?」

「いねぇよ。俺的に今は、彼女とかはいらないかなって」

「そ、そうなんだね・・・・・・」


 鈴花の顔が少し残念そうになった。俺何かいけないことを言ったか? 高校生になったら彼女を作るのが普通とか? よくわからんが、それは多分辰弥(たつや)とかの十八番だろう。俺には関係ない。


「で、でも、これから先は?」

「まぁ、先のことはわからんな。できるかもしれないし、できないかもしれないし。俺次第じゃね」

「わからないんだね!」


 するとさっきまでの悲しそうな暗い顔は消え去った。逆に、明るい笑顔が浮かんできた。まるで、雲の後ろに隠れていた満月が、その姿を現したようだ。って、今の俺、キャラに似合わず、いいこと言ったと思わないか? 妃菜の悪影響で頭がおかしくなってきたかもしれないな・・・・・・


「じゃあ」

 鈴花がいったん間を作る。


「私も、可能性があるのか?」

 鈴花の顔から自然な笑みがこぼれていた。その笑みは楽しそうなものではなく、嬉しそうな笑顔だった。


 さすがの俺も多少ドキッとした。鈴花ってこんなにかわいかったんだな。今まで一緒にいたが、気づかなかった。そう言えば、校内の男子の中では結構人気があるっていうのを辰弥から聞いた記憶がある。んなことすっかり忘れてたな。


 多分普通の男子ならこの笑顔を見せられたら一発なんだろうな。それこそ、鈴花のファンがこの笑顔を見たら昇天してしまうのではないか? まぁ、俺はどっちでもないが。


 俺にももちろん感情はある。じゃないと生活はできないからな。ただ、自分でもわかっているが、人を避けてきたことで多少人から与えられる好意などの正の感情に疎くなっている。もしかしたら、そのせいで妃菜を拒んでいるのかもしれない。


 でも、別に俺はそれをすぐに直したいとは思っていない。鈴鹿に言った「今は彼女はいらない」というのもその考えから来ている。将来的に直したいと思うことはあるかもしれないが、それは今ではない。


 鈴花が俺と反対方向に顔を向けた。一瞬何があったのか? と思ったが、手で顔をパタパタと扇いでいるようだったので再び照れているのだろう。


 そんな正の感情に疎い俺でも気になることがある。「可能性」って何なんだ? それは何の「可能性」なんだ? もしかして、鈴花・・・・・・


「プルルルル」

 そこで俺のスマホの着信がなった。俺はポケットからスマホを取り出して、画面を見た。知らない番号だ。一体誰だ?


 通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。

「はい、もしもし」

「先輩! 私以外の女と何て会話してるんですか!」


 鼓膜が破れるほどの大声が聞こえた。慌てて音量を下げる。

 誰なのかはすぐにわかった。そうか、こいつのことなら俺の番号を知っていても不思議ではないか。(普通は不思議だろう)


「会話とは?」

「あの阿婆擦れとしてた会話のことですよ!」

 阿婆擦れとは鈴花のことだろう。確かに俺はさっきまで鈴花と会話をしていた。


 だが、

「どうして、んなこと、妃菜が知ってるんだ?」

「それは先輩のスマホを通して、ずっと盗聴してたからに決まってますよ!」


 なるほど、確かにそれなら遠くからでも俺のしていた会話を聞くことは可能だろう。それなら納得だ・・・・・・なわけねぇだろ。


「なんで盗聴してんだよ」

「だって、恋人がどこで何してるか気になるからGPSで居場所を見るってあるじゃないですか?」

「あぁ、聞いたことあるな」

「だから、恋人が誰と何を話しているか気になるから盗聴するのもありだと思うんですよ」


 おぉ、一理ある、わけない。完璧に犯罪だな。恋人でも何でもない間柄の人のスマホに勝手に盗聴用のシステムを入れて、それを無断で聞く? って言うよりも、恋人間でもアウトだろ。俺のスマホを警察に持って行ったら、あいつは確実に捕まるな。よし、持って行こう。


「そんなことはどうでもいいんで、先輩には私っていう彼女がいるじゃないですか!」

「彼女ではない」

「あっ、そうですね。妻ですね」

「そういうことでもない」


 誰がそこに突っ込みを入れんだ。


「私は先輩がどうしてもって言うなら、最低限、本妻でもいいですよ」

「それ以上は何があるんだ?」

「私一人を愛してくれることです」

「もう切るぞ」


 「あぁ、ちょっと」という声が聞こえたが、これ以上戯れ言(ざれごと)に付き合いたくなかったので通話を切った。本当にこいつはどうかしている。人を盗聴? でもそんなこともできるんだな・・・・・・って、感心してる場合か。


「ったく・・・・・・あっ、そう言えば、すず・・・・・・」

 鈴花を呼ぼうとしたら、俺が電話している(犯罪の告白を受けている)間に和泉先生と話していた。


 まぁ、そんなわけないか。鈴花もたまにはふざけたり、からかったりするんだな。イメージがなかったから驚いた。


「おい、嘉神。勧誘の話をするぞ」

「はい、はい」

 話し合いをしている最中に寝てしまいそうなほど疲れた。すぐに終わらせて帰ろう・・・・・・帰りたくない。


 家に帰ったら、おそらくあいつがいるんだろうな。これからどうなることやら・・・・・・

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