プロローグ
「ブー!」
トラックのエンジン音が鳴り響く。
だがこのトラックは異常だ。なぜなら赤信号なのに進んでいるのだから。
その前では一人の少女が横断歩道をわたっていた。
少女は目の前の光景に驚いて目を丸くしたまま立ち尽くてしまう。むりもない、こんな状況で平気な人間の方がどうかしている。
もうだめだ・・・・・・
間に合わない・・・・・・
また一つ、かけがえのない命が失われてしまう・・・・・・
「危なーい!」
(ヒーロー・・・・・・?)
少女は間一髪で勇敢な少年に救われた。少女がヒーローだと思ったのも当然だろう。
少年と少女は、少年が上、少女が下という形で道ばたに倒れていた。倒れていたといっても少女は地面に背中をつけていたが、少年はかろうじて手をついていた。つまり、二人は顔を向かい合わせにしている、ということだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・だ、大丈夫?」
「は、はい」
少年は少女をかばったためか頭から血を流している。よく見ると腕には擦り傷がある。意識はあるようなので、それほど重傷には見えないが救急車を呼んだ方がいいだろう。
野次馬が二人の許にぞろぞろと集まってきた。
二人に大丈夫かどうかを聞いた。それよりも、早く助けを呼んだ方がいいと思うのだが。
少年が「僕は平気なのでこの子をお願いします」と告げて、立ち上がった。
「あ、あなたは・・・・・・」
少女の声は少年には届かなかった。
声を発する前に少年は歩き去っていたからだ。
これが今から三年前のこと。