85.乙ゲーの中は乙ゲーで溢れているのか
「あっそうだ、フレデリックに誕生日プレゼントがあるの。少し早いけど。はいこれ」
「わあ、ありがとう」
フレデリックが包装紙に包まれたものを私から受け取る。
色紙は今までよりもっと濃い色付けが出来るようになり、用途が更に増えた。木箱自体に貼り付けたり、包装紙として使ったり。
私が商会で方法を披露すると大々的に店頭で宣伝し始め、平民の間で【プレゼントを紙に包んで見えないようにして渡す】が一般的になった。ルトバーン商会長の宣伝の底力を感じる。木箱は高いから貴族向けかな?
でもこの調子ならエミーも喜んでくれそう。
「これは?」
包みを開け、手に取るフレデリック。
「ペンケースなの。前に買い物に行ったときに見つけて、とても使いやすそうだと思って。誕生日に渡せないかもしれないから」
ファスナー付きのペンケースで、全開にすると本見開きのように出来るタイプのものだ。ファスナー自体は存在しているものの、需要が多くないことはこのペンケースを見たときに気づいた。そういえば服は紐で締め上げるし、ペンは紐や布で包んで持ち運ぶ。ポーチや小物入れについていれば便利だと思ったけど、私達貴族がそもそも自分で持ち歩かないのでその必要性が薄れる。
包みを開けたフレデリックがペンケースを手に持ちいろんな角度から眺めている。
「これを引っ張って」
「おお!わ!こんなに開くの?見やすい!絶対試験に受かって、学園で使うよ!いつも紐で縛って持ち歩いてたからさ」
「喜んでくれてよかったわ」
「あ……ねえ、来月はいつ空いてるの?」
「え?んーと、後半なら何日か空いてると思うわ。どうしたの?」
来年は学園に入るので勉強の量が増えた。ある程度は予習していきたいからだ。だからフレデリックの誕生日に渡すタイミングがなく、今日持ってきたのだった。
「じゃあさ……、また二人で街に行かない?ロレンツさんの店にも行きたいし、ぶらぶらと街中を歩きたいんだけど、だめかな?」
「いいわ、行きましょう」
何も考えず、ただ自分の気持ちに従ったら自然と肯定の言葉が出た。
「やった!じゃあ日にち合わせて絶対行こうね」
「ええ、連絡するわ。じゃあまた」
馬車に乗り込む。こうやって時間に余裕があるのも学園に入るまでだわ。学園が厳しいわけではないけど、授業が固定で入るわけだから今までとは違ってくる。
むしろ今まで自由すぎたのか。
そう思いながら、来月の予定を確認しつつ帰宅した。
そして6月末。
「お待たせ」
「ううん、俺も今来たところ」
なんだこのデート感は。
「ロレンツさんのところでクレープ販売はじめたんでしょ?」
「そうなの!手持ちで歩きながらでも食べられるように、持ち帰り専門にしたのよ」
前回言ってたディナータイムを1時間延長していたので、忙しいかなとは思いつつ今年の頭にテイクアウトでクレープを提案したところ、下働きで働いているカイが立候補して担当になった。二人新たに下働きを雇ったそうで、うち一人は孤児院にいた子だ。だいぶ大きな店になってきたわね。でもその代わりにシフトが作れるようになって、前より余裕を持った働きが出来ているみたい。
メニューは甘い系で5種類の具材を好みで注文する。日本での一般的なサイズよりもひと回り小さくし、先月頭には販売開始した。カイはクレープを焼くのも盛り付けもうまく、しかもカイ自身爽やかでキリッとした青年なので女の子にキャアキャア言われながら販売している。
安価にしたので今までにない食べ物にリピーターも多く、大成功と言えるほど売れていた。おかげでエミーのところの色紙も包み紙に使うため、定期取引になったのだ。
「先月から開始したけどウォルトと食べに来なかったの?」
「初めて買うときはドリーと一緒に食べたかったから我慢してたの」
なんの恥ずかしげもなくサラリとそう発言を放つフレデリック。そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃん……。ドキドキと早く打ちかけた心臓を落ち着かせる。
「いら……あ、ドロレス様!いらっしゃいませ!フレデリックさんもこんにちは。ご注文ですか?」
「そうだよー。俺はね、バナナチョコ生クリーム」
「私はいちごカスタード生クリームで」
「かしこまりましたー!」
笑顔の爽やか少年の元気な声に、甘い香りのクレープ。窓の縁には内側からクレープの絵が描かれている色紙を貼り付けて全体が華やかだ。
……そりゃあ女の子が来るのはしょうがない。だって画になるんだもの。
「かっこいいよね、カイ」
「そうね。女の子がクレープ買いに来る気持ちがわかるわ」
「わかるの?」
「そりゃ私も女ですから」
受け取ったクレープを持ち、歩き出す。フレデリックはずっと、ウェーブのかかるふわふわな髪の毛をいじっている。
「俺もカイみたいに短く切ろうかな……」
「なんで?そんな良い髪してるのに?」
眉毛にかかるほど前髪をおろし、後ろは紐でくくるくらい長いフレデリックと違い、カイは眉毛より上で髪の毛を分け、襟足は短い。
「このままでいい?」
「うん、この髪型のほうが似合ってるわ」
「ドリーが言うならこのままでいいや」
「犬みたいだし」
「……喜べない」
可能なことならその頭を撫でくりまわしたい。わしゃわしゃしたい。なんでもっと子供の頃にやっておかなかったんだろう。さすがに12歳にもなると羞恥心が生まれてしまい言い出せなかった。
「クリームついてる」
「え?あ」
私の口の端についた生クリームらしいものを指摘され、取ろうとするも先にフレデリックに指で取られる。
そして「ほら」と言われ、指で取ったクリームを見せられると、何事もなかったかのように彼は口に入れた。気にする様子もなく彼はそのまま自分のクレープを食べる。
え。乙女ゲームですか?
いや乙女ゲームだけどさ!今の何?今のは恋人同士がやるやつ!
っていうかなんなんだフレデリックは……乙女の夢と理想と希望と妄想の完成形じゃん……。この人なんでこんなにサラッとやるわけ?先月のとか!段々と恥ずかしくなってきたわ!顔が熱いしフレデリックの方を向けない。タラシめ!心臓がバクバクと動きすぎてクレープが食べられないよ。なんでフレデリックはそんなに平気なの?ああもう、ほんと調子狂って困る……。
その後も街中をフラフラし、珍しい素材や部品に盛り上がったり、大きな石に腰かけて商会の話をしたり。他愛もない話で盛り上がっているとあっという間に帰る時間になった。
「今日も楽しかったよ。また二人で出かけよう」
「そうね、また会いましょう」
二人して笑顔で、それぞれ帰路についた。
夕食時。
「そういえば、いつにも増してお父様が帰ってきませんね」
最近お父様の帰りが遅い。いつもなら何が何でも夕食を一緒に食べられるような時間に帰って来ていたものの、最近は週に2回一緒に食べられればいいほうだ。
「……どうしても片付けなくてはいけない案件があるらしい」
寮生活から自宅通いに変更したお兄様はそう話す。何かあったんだろうか。あと2年で今の国王の最後の召喚の儀だから、色々とやらなくてはいけないのだろう。実際は召喚が成功するので国王は助かるけどね。
「甘いものを差し入れしてあげなくちゃね」
ギャレットに頼み、ロールケーキを作ってもらって帰宅したお父様のところへ届けるようにお願いをしておいた。
数日後、バギーの試作が出来たとのことでルトバーン商会へ向かった。
「ドロレス様、こちらです」
ザカリーが持ってきた試作品は、色や素材に若干の違いはあるものの、それはもうほぼ私の知ってるバギーだった。本当にこの世界の人たちのチート能力凄すぎない?なんで転生者の私よりチートなの?発売までに1年くらいかかると思っていたのに……。
「素晴らしいわ……あなたもバギーもとんでもなく素晴らしいですわね」
「あ、ありがとうございます!自分の子供のことを考えたらもうそりゃ絶対完璧なものを作ろうと躍起になりまして、仕事全部他の人にやらせてこれに集中しました!」
楽しく話しているけど、ん、今とてつもなく酷いこと言ってたような……。
「ドロレス様、大丈夫です。ザカリーの投げ捨てた仕事は手当付きで他の人に分配しましたから」
横でルトバーン商会長が補足してくれた。よし、それなら私は何も言わない。
「あともし出來ればなんですけど、両端に引っ掛けるのをつけて、光を通さない布を張って日陰用の屋根を出したり戻したり出来るように作れますか?」
「おおなるほどですね。それはつけられそうですのでやってみます。数台試作を作ってありまして、今月頭から20kgの重しを乗せて1日4時間ずっと動かしています。あと2ヶ月それを繰り返し、全く問題ないなら今度は商会の中で生後半年以上の子供がいる家庭にお試しで使ってもらう予定です。やはり発売するからには安全性を大事にしたいので発売は年末か来年の頭くらいになると思いますが、……遅いですか?」
最初は堂々と話していたものの段々と発売時期の話になって不安になってきたのか声が小さくなるザカリー。
「全く問題ないわ。むしろこんなに早く素晴らしいものを作ってくれたあなたに感謝します」
だって私、学園に入ってから発売になるかと思ってたくらいだもの。この調子なら学園前に発売ができるかも。ザカリーはそれを聞いてあからさまにホッとしていた。そんなわがまま貴族じゃないんだから急かさないわよ。お試し期間もとても重要ですからね。
「もし試作に少しでも不備があったら教えて下さい。もし無ければ、商会の方のお試し期間で感じたことを紙に書いておいてください」
「かしこまりました!絶対に成功させます!」
「は……はい」
意気込みが半端ではないザカリーの圧に若干引きつつ、また新しい楽しみができたと楽しい気持ちで来年を迎えられそうだ。




