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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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77.そろそろチート生活終了?

 私は今とても困っている。











 もうお菓子レシピがネタ切れしかけている……。





 いや多分、何度か量を調整しながら作れば出来ると思うんだけど。

 確かに前世では、弟たちのためにいろんなお菓子やケーキを作った。タルトもガトーショコラもアップルパイもスイートポテトもレシピサイトを見て作った。ただし、細かな分量を思い出せない。ラノベの転生した人たちがチート生活してるから私も「マカロン出来た♪うふ♪」とか言ってるはずだったんだけどな。現実とは難しいものだ。


 そして、絞り出すように思い出したスイーツを今ギャレットと作っている。誕生日会がもうすぐなのをすっかり忘れていて、何も開発してなかった。というか、別に開発する必要はないんだけど、『またみんなに新しいものを食べてほしい』という私のよくわからないプライドが邪魔しているだけだ。




「お嬢様〜こんぐらいっスか?」


「まだよ、もっと薄くして」


「うへぇ〜もう結構薄いのに」


 薄く伸ばす生地。丸く焼く。


 そうですクレープです。


 クレープが出来れば来年はミルクレープを出せる。再来年は学園に入ってしまうので料理開発をしている時間がなくなってしまうので寂しいけど、できることは今のうちにやらなきゃ。


「そう、それでフライパンから取り出して、冷ましてね」


「そんでこっちの分量違いも焼くんスよね?」


 今回は2パターン用意した。甘いクレープの生地と、おかずクレープのための生地だ。生クリームやフルーツが入っているのはもちろん大好きだけど、ツナマヨレタスとか、ハムチーズ、テリヤキチキン等の食事系クレープもとても好きだ。あ、マヨネーズも作り方思い出さなきゃ……。卵と酢と油が入っているのは覚えてるんだけどあと何が必要だっけ?分量……覚えていない……。



 甘いクレープとおかずクレープはロレンツのところに持ち込んで販売できないか交渉しようと思ってる。エミーのところの紙を取り寄せ、テイクアウトにして手で持って食べる。平民なら手頃で食べやすいクレープは人気が出るだろう。貴族はきっと手持ちでかぶりつくのはしないだろうから甘い方だけにして、お皿にキレイに盛ってナイフとフォークで食べられるように。あーあ、こんなときにもアイスがあれば最高なのに。



 今日はいろんなクレープを作るため、お父様もお母様も呼んでいる。そしてお兄様もいる。


 お兄様……学園はどうした……?


「もう終わったから速攻で帰ってきた」


 そうよね、お兄様はサボるわけないもんね……。




 さて、様々なクレープを用意したので、みんなで試食会をする。

 甘い方はオーダー式にして、生クリームを付けた上に乗せたい果物を料理メイドに伝え、それを入れて包んでお皿に置くというスタイルだ。カスタードも数日かけてなんとか思い出して作れたのでバリエーションが豊富である。やれば出来る私!誰か褒めて!

 おかずクレープの方はあらかじめセットした状態にしてある。手持ちで平民に出す予定だけど、今日は特別にお皿に持っている。テリヤキチキンとハムチーズレタスの2種類。





「ドロレスは何がオススメだい?」

「甘いものでお腹を満たしたいなら、バナナ+チョコソース+カスタード+生クリームです。軽めにするならシンプルにチョコソース+生クリームですわ」


「よし、他にもたくさん食べるから最初は軽めに行こう」


 お父様は何種類も食べる気でいる。


「あなた、私とシェアしましょう?いろんなものを少しずつ食べたいわ」


「おおニーナ!そうしようではないか。さすがだ愛しのニーナ」


「僕も!僕も一緒なら3種類食べられますよ!」


「そうだなダニロ、みんなで分け合おうじゃないか」


 この家族、本当にほのぼのするわ。たまに貴族なことを忘れる。貴族はシェアなんて普通しないからね。




「うわー、いちごチョコソース生クリーム美味しい」


「バナナチョコソースカスタード生クリームも感動の味だな……すべての素材が口の中で絶妙に混ざり合っている」


「カスタード生クリームだけでも充分美味しいわ」


 数種類をまとめて作ってもらい、お父様たちが食べ始めたのと同時にギャレットや料理メイドたちも手持ちで食べ始める。カスタードやいちご、チョコなどたくさんの食材が1つになっているクレープという見たこともない料理を口にし、あまりの衝撃的な美味しさに体をくねらせて美味しさを表現している。うん、評判は良さそうね。


 あ!しまった、先におかずクレープ出せばよかった……。


「あの、みなさん……甘い方を出したあとで申し訳ないのですが、食事の代わりになるおかずクレープもありますので良かったら食べてください」


 すでにセットしてあるのに存在を忘れ去られていたおかずクレープを出す。お父様達はお皿で、メイド達は手持ちだ。



「テリヤキチキンはしっかりとしていて食事になるのがわかる。これならたしかに平民にも人気が出そうだ。同じ皮?を使っているのに全然違うものになるなぁ」


「砂糖を抜いてるんです。なので、甘い方とおかずの方別々に作りました」


「さすがねドリーちゃん。私はこのハムチーズレタスがさっぱりして好きよ」


「僕はテリヤキチキンが好き」


「しょっぱいのを食べると、また甘いほうが食べたくなるな……」


「お父様、それは永遠に続くので肥満まっしぐらですよ?」


 人間とは不思議なもので、甘いものを食べるとしょっぱいもの、しょっぱいものを食べると甘いものが食べたくなる。これが続いてしまうと体重が恐ろしいことになるので自分自身を止める勇気を持たなければならない。だけどなかなかやめられない。


「流石ッスねお嬢様。うちら料理人のまかないにさせてもらいますよ。その中で合うものがあったら報告させていただきますよ〜」


 後ろに揃う料理人も首がもげるくらいに大きく頷く。おかずクレープは手軽だし、いつも真面目に働いてくれるメイドたちには美味しいものを食べてもらわないとね。















「僕は、イチゴとバナナとブルーベリーとりんごとチョコソースとはちみつと生クリームとカスタードと……」


「クリストファー殿下!入れ過ぎたら何だかよくわからなくなりますからせめて4種類くらいにしてくださいませ!」


 誕生日会当日。【クレープ】の説明をしたところ、誰よりも先にクリストファーがクレープを作ってくれるカウンターに行き、あるものすべてを乗せようとしている。それダメ!そんなにゴチャゴチャにしてたら美味しさ半減するから!


「えー、せっかく色んなのがあるのに……」


 口を尖らせるクリストファー。うぅ可愛い……可愛いがオススメできない……。


「何回かに分けて食べればいいのですよ。その中で自分の一番好きな組み合わせを見つけるのです」


「なるほど!それなら色々試して、一番美味しかったものをいっぱい食べよう!」


「ええ、そうしてくださいませ」


 クリストファーは悩みに悩んで4種類に留め、お皿を持ってレベッカの方に行き、仲良く話している。

 最近のあの二人はとても不思議だ。レベッカはクリストファーに会えばいつも頬を染めていたのに、今は全くその様子がなく、いつもの無表情レベッカになっている。一体どうしたのだろう。諦めた?いやそんなことはないと思うんだけどな。



「オススメのバナナチョコソース生クリームにしてみたけど、めっちゃ美味しいね!」


「私は生クリームとカスタードがとても大好きですわ!」


「リンゴを煮詰めたものとカスタードの相性も抜群ですわよ」


 フレデリックやニコル、エミーもご機嫌でクレープに手を付けている。


「エミー様、またもしかしたら紙の発注を少し頼むかもしれないのですが、紙自体を少し厚めに出来たりしますか?その紙を色紙(いろがみ)にしてほしいので、もし受注ができるようになったら連絡をくださいませ」


「ええ可能ですわ。その時はお手紙でお伝えしますね」


 ブラントレー子爵領の特産品の紙は書類などには使いにくいものの、その他の使い道が大幅に広がっている。クレープを売り出したら確実に色紙を使うので取引も増えるだろう。




 向こうからトリオがやってくる。


「ドロレス様!とっても美味しいですー!」


「落ち着けジェイク」


 ブンブンと楽しそうに手を振るジェイコブが持つお皿のクレープが落ちそうで、アレクサンダーがお皿を支える。保護者か?


「ドロレス様には本当に感謝してます!助けてもらったり美味しいものを食べさせてくれたり。僕はいつでもドロレス様の味方ですからね!」


「まぁ、ありがとうございますジェイコブ様!まだおかわりもできますからぜひ他の味も試してみてくださいね」


 婚約者の件もジェイコブは私を推さなかったし、ギルバートのことでとてもツラい思いをしていたんだから今はこうやって明るく話ができるのは嬉しい。ジェイコブが楽しそうにしているのを見ると自然と笑顔になる。



「美味しいなこの【クレープ】は。しかしよくわからなくなってしまった……」

「……」



 先ほどクリストファーに注意をしたばかりなのに、その兄のアレクサンダーが具材全部乗せをやりやがった。血がつながるとはこういうことか……。


「それでは味がよくわからなくなりますからダメですよ。もっと絞り込まなきゃ」


「む……せっかくだから色々乗せようと思ったらこうなったのだ……」



 血のつながりって、恐ろしい。



「……オリバー様はオリバー様で、果物しか乗ってないのですが」


 オリバーのお皿には、クレープの生地の上にいちごとバナナだけが山盛りになっている。もはやクレープではなくただの【皮と果物】だ。


「よくわからなくて……クリームとかはつけたほうがいいのですか?」


「そうですよ。こちらに来てください」


 オリバーをクレープコーナーに連れてきて、生クリームとカスタードを乗せる。そもそもオリバーのお皿にあるクレープは包まれていない。お皿に敷かれたクレープに果物が乗り、上から生クリームとカスタードがかかっている状態になってしまっている。クレープの定義とは一体……。


「はい、これで【クレープ】です。本当は包むのが【クレープ】なのですが流石に多すぎて無理なので、皮も一緒に食べてくださいね」


「わ、わかりました。……うわ!美味しいですね。ロールケーキみたいですけど、この薄い皮で包むように食べるとより美味しい」


 近くの席に座って一口食べるオリバーは、顔をほころばせながらもう一口、また一口とすぐに平らげてしまった。


「……先日は見苦しいところを見せてしまいすみませんでした」


 この間のモレーナ出産のときの話だろう。だいぶ揉めていたし、だいぶ私の場違い感すごかったからね。誰もそこにツッコんでくれる人いなくて切なかったわ。


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