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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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76.お土産のセンスはNothing

 レイヨン公爵邸から帰宅して数日後、私とお父様宛に手紙が届いた。


 かなり危険な状態ではあったものの、モレーナは無事出産したそうだ。かなり時間がかかりレイヨン侯爵は寝ずに待っていたらしく、モレーナが出産した後に自らも倒れ、「奥さんが死ぬ覚悟で産んで慌ただしいのに、お前が倒れて他に迷惑かけるんじゃねーよ!!!!」と助産師に怒鳴られたらしい。助産師って凄いわ。……技術も口も。


 

「モレーナ様……よく頑張った……無事で良かった!あーもう!本当に良かった!」


 ゲームに彼女の存在はあったから大丈夫だろうと自分に言い聞かせてはいたけど、やっぱり心配ではあった。私が色々とこの世界をいじってるのも事実で、それが影響して万が一のことがあったら、と思うと気が気でなかった。

 手紙を読みながら涙ぐむ私にお父様は優しく頭を撫でる。


「落ち着いたら会いに行こうな」


「はい……もちろんです」


 これでレイヨン公爵とオリバーもいざこざが解消されればいいんだけど。まだレイヨン公爵の発言の原因もわからないし……。それに、これって多分ゲームのオリバールートの分岐点よね……。私またここで関わってしまっていいのかしら。

 とりあえずモレーナがオリバーたちと心を通わせてくれればいいなと思う。それくらいならやってもいいよね?え、だめかな?



「ほら、もうそろそろ準備しないと。今日はロレンツのところに行くんだから」


 そうだ。私が色々と心配していてもしょうがない。私がどうこうできる話ではないんだから。気持ちを切り替えなくては。

 今日は孤児院の子どもたちと、ルトバーン商会親子、ウォルター、それに以前プレオープンのときに来てもらったハンナの友達親子二組でロレンツの料理店に行く。

 あれから何度か料理を試行錯誤し、バイキングに出すメニューが決まったのだ。

 んー……中華系の調味料がないか、また街に探しに行かなきゃ。バイキングによくあるエビチリとか青椒肉絲とか好きなのよ私。和食と洋食がメインになっちゃったけど、結構品数も揃えられたのでよかった。



 日本でよくあるような豪華なバイキング並に揃えることは難しかったので、至ってシンプルである。でも料理店にかまどを2つ増設したので出来ることが増えた。

 フレデリックにお願いした四角いフライパンも完成し、卵焼きが作れるようになった。


 そしてメインは、唐揚げ!!

 試食で作ったとき、久しぶり過ぎて涙が出た。みんなもその美味しさに目を丸くし、私が泣いているのはそのあまりの美味しさゆえの感涙だと勘違いしていた。まぁそれでいいや。揚げ物をする場所が常時確保できたことで、多種類のメニューも加えた。豚の角煮や肉じゃがも作り、鍋ごとバイキング用テーブルに出し定期的にかまどに戻し温めることにした。


 パスタは結局3種類。ハンバーグ、野菜の肉巻きなども作ってある。

 箸休めにほうれん草のおひたしなど。

 サラダバイキングも用意して、野菜もバッチリ。あとは普段から平民がよく食べる料理を周りに聞いて増やした。


 パンは薄く切って何枚も並べてオリジナルサンドイッチを作るのをオススメにし、米は大きな器を渡してオリジナル丼にするのも可能にした。


 スポンジケーキを四角に2枚作って果物と生クリームをはさみ、たくさんカットしてデザートも用意済み。果物ももちろん置いてある。


 日本で見慣れた私からしてみれば物足りない感じだけど、他の人たちは驚きながら料理を見ていた。


「え?先にお金を払えば、いくら食べてもいいの?」


「まじかよ……。俺肉ばっかり食べるぞ……」


 大人も子供もぽつりぽつりと呟く。



「一応今日はお試し会なので料金は半額にします。バイキングの説明をどうぞ」


 私はサマンサにバトンタッチする。


「はい。バイキングは先払いで自分たちで料理を取りに行き、席で食べます。大人はこのお皿、子供はこのお皿を使ってください。取るときは料理のところにあるトングを使ってください。いくら食べても追加料金はありません。ですが残せば正規料金の5分の1の追加支払いがあります。食べられるぶんだけ取ってください」


「パンにレタスやハムをたくさん挟んで自分だけのサンドイッチにしたり、肉料理を米と食べると最高ですよー」


 ダニエルはおすすめの食べ方を説明する。パンと米の消費も促さなくちゃね。



「ではみなさん!食べましょう!」


「わー!」


「あれ食べたい!」


 孤児院の子どもたちは一斉に料理の方へと駆け寄る。年長組は年少組の面倒を見ながらそわそわして料理を見渡し、どれにしようかと目を輝かせている。懐かしいなーこの風景。バイキングって楽しいんだよね。わかるよ。



「ドロレス様はまたとんでもない商売を思いつきますなぁ」


 お皿に肉料理をてんこ盛りにしたルトバーン商会長はニコニコしながらやってきて声をかけてきた。


「食事は楽しまなくちゃ。値段だけ聞くと高いと思われがちですが、それより『どれだけ食べても追加料金無し』の方が魅力的ですから。食べざかりの子供や、力仕事の男性にはピッタリなんですよ」


「本当にそうですね。私も店に入って料理を見たら、高いと思っていた考えが一瞬で吹き飛びました。どれだけ肉を食べても家計に響かないので、ベルに文句言われなくてすみますよ、ハハハッ!」


「あんた、そういうのはその腹をなんとかしてからいいなさいよ」


「あ、……うっ!」


 奥さんに、自分の大きな腹を思いっきり平手打ちされたルトバーン商会長は涙目になっている。


「ルトバーン商会長……。先に野菜を食べてから肉を食べるといいですよ。最終的に脂肪になりやすい成分の摂取が少なくなりますから」


「そ、そうか!じゃあそうします!」


 手に持っているお皿の上の肉を端の方に寄せ、野菜をたくさん盛り付けていた。

 先に肉を食べられるだけ食べるよりも、野菜である程度お腹を満たし、それから肉を食べたほうがトータルの摂取カロリーは減る。血糖値も上がりにくくなると言われているけど、私そこまで詳しくないので細かい内容は伝えないことにした。……それに、肉より野菜を食べてくれたほうがコスト的にもありがたい。




「唐揚げ美味しい」


 お兄様は米と一緒にパクパクと唐揚げを食べる。まさに今育ち盛りの男の子だ。持ってきた唐揚げがすぐに無くなる。


「お兄様、これかけてみてください」


 唐揚げの横には、ネギだれを置いてみた。長ネギを刻んだものに、醤油と酢、砂糖などを混ぜている。これがあるとまたご飯が進むのよ。


「うわー、こんなのかけたら止まらなくなっちゃう」


「私にも一つ……あら美味しい、さっぱりとするわね」


「母上!僕のです!」


「いいじゃないの」


「だめですよ!自分で持ってきてください!」


 お兄様とお母様でかわいい親子ゲンカが始まっていた。その横でお兄様の唐揚げをお父様がつまむ。


 ……この人たち本当に貴族なの?マナーとかどこ行った?


 自分の家族なのに、なぜこんなにも微笑ましいのだろう。前世の私とお父様お母様はほぼ同い歳だもんな。


 フレデリックとウォルターは仲良くなっていて、2人で別々のものを取りに行きシェアして食べていた。うめーうめーと声が聞こえる。


「ルトバーン商会長、ウォルト……ウォルターはどうですか?仕事うまくやれてますか?」


 商会に入ってからあまり連絡を取っていなかったので少し気になっていた。 


「ウォルターは孤児院でよくあれだけの計算と文字の読み書きを覚えられましたね。天才かと思いました。今は商品知識はまだですけど店内の案内をさせたりしています。見た目があれですから、そりゃあもう歳の近い女の子たちはお客さんも商会の人間も喜んじゃって。本人は浮かれず真面目ですが、かえってそれがさらに好感度上がりまくってます。お客さんの女の子たちはみんな小遣いを握りしめて安価なものを買いに来ますよ。とてもありがたい」


 お、おそろしい……この間12歳になったってのに……。わかってたけど、もう周りの女子たちをメロメロにしてしまっているのね。イケメンの恐ろしさを実感するわ。


「それは……良かったです。顔は確かに整ってますが、仰るとおりとても真面目なので今後もっと役に立つと思いますよ」


「ええ、とても期待してますよ。うちの息子共々成長が楽しみですなぁ。学園に行ってしまうのが惜しい」


 ルトバーン商会長は楽しそうに笑った。





「フレッド、ウォルト。バイキングはどう?」


「最高だよ。好きなものを好きなだけ食べられるんだから!まだあと2回は取りに行けるよ」


「ドロレス様、あんたすごいや。こんなの普通思いつかないだろ。……ドロレス様にはこんな孤児の俺にいろんなことを教えてくれて本当に感謝してるよ、ありがとう。なんというか……俺は何も返せていないからさ、俺たち孤児院の奴らばっかり良い思いして申し訳ないよ」


 ウォルターは口に詰め込んだ食べ物をゴクリと飲み、私に向かって軽く頭を下げた。


「ウォルト、私はみんなに楽しんでもらいたいだけ。それにあなたにはこれをもらったわ。とても嬉しかったわよ。あなたは入学の試験で3位以内を取れるよう頑張ってね」


 左手首につけたミサンガを見せる。ウォルターはそれを見ると照れくさそうに笑う。


「頑張らなきゃな……色々やってもらったのに3位以内に入れなかったらもうドロレス様には顔を見せられないよ」


「ちなみに俺も学園に入ることにしたから、上位争いは負けないからね!」


「そうだった、フレッドもいたんだった……」


 二人ともお互いをニックネームで呼び合うようになっていたのか。このくらいの歳の子って、大親友みたいな存在がいたりするよね。この二人にはその言葉がよく似合う。とても楽しそうに会話をしているなぁ。



「そうだ、ドロレス様にもう一個言いたいことがあるんだった」


「なぁに?」


「こないだフレッドからお土産もらったんだけど、何あれ?!いらねぇんだけど!俺住み込みなんだから、どうせなら使えるものくれよ!何なんだよ!顔よりデカい木彫の熊!!誰のどんなセンスだよ!」


 前にアンティーク店に行ったときに、日本にありそうな木彫りの熊がドドーンと置いてあり、しかも売れていないから値下げを3回ほどしていたのでかなり安かった。フレデリックとノリで買ってみたものの、……まぁそうなりますよね。可愛いとは思ったんだけどな。


「ウォルト、せっかく俺たちが選んだお土産に文句言うなよな〜。運ぶの大変だったんだぞ」


「そうよ、可愛らしい顔してるじゃないのよ」


「あいつのせいで机の半分が埋まってるんだよ!運んだときに気づけ!お前らもう少しセンスあるものをくれよ……もらった手前捨てられないじゃんか……」


「ぷっ。せっかく選んだのにもう捨てる前提で話さないでよ」


 あれが机の上を占めているのを想像して思わず吹き出した。だけどどんなに邪魔でも、床には置かないウォルターの優しさを感じる。


「そうだぞウォルト。タオルでも服でもかけておけばいいだろ」


「そんな用途じゃねーだろ」


 ……今度はちゃんとしたものを買ってこよう。





 バイキングお試し会は無事終了し、特にハンナの友達夫婦の旦那さんたちはとても満足そうに帰っていった。孤児院の子どもたちも、普段口にできない食べ物ばかりで終始ニコニコしていた。


「周りに広めておいてよ!」


「もちろんよ!週1で来るわ」


 ハンナも友達に宣伝を忘れない。



 少々の改良点はあったものの、これでこの店のディナータイムは大盛況間違いなしだわ。

私の中の、男の子の親友といえば、

大野くんと杉山くん

です。映画の杉山くんに何度も感動しちゃう……。

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