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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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初めての言葉 〜side.アレクサンダー〜

アレクサンダーのサイドストーリー(3/3)

 社交界パーティー。

 クリストファーと踊り終えた彼女のもとへ早足で向かい、ダンスに誘う。

 しかし彼女はいつもと同じ、僕とのダンスに集中してくれていない。でもそういう僕に媚びないところが好感を持てる。それを伝えると、彼女は自分も媚びたほうがいいか?と聞いてくる。それはそれで嬉しいと答えれば、若干顔が引きつっていた。



 そして、今一番聞きたかったことを聞いた。


「……君は、政略結婚をどう思う?」


「……貴族の結婚がそういうものだとは理解していますわ。出来れば想い合える人と共に添い遂げたいですが、よほどの性根が腐った人でなければ諦めるしかないです」


「政略結婚なら仕方がないと?」


「……」


 彼女はそう言った。その言葉を僕的にポジティブな思考に変えた。きっと彼女はそのような意味で言ったわけではないだろうに、僕はそれを自分のいいように解釈することにした。言質(げんち)として使おう。彼女が……そう望まなくても、きっとそのような状況になればきっと僕のことを見てくれるはずだ。

 僕のことだけを。 







 僕の誕生祭が迫って来たある日、ジェイコブの手紙を覗き込んだ僕は、平民の料理店に行くというジェイコブに無理矢理ついて行った。平民風の服を着るのも初めて。列に並ぶのも初めて。器に口をつけて食べるのも初めてだった。全部が初めてなのに嬉しかったのは彼女がいたからだろう。

 彼女はまた知らない男性を連れていた。こちらも凛々しい顔立ちをした黒髪の少年。彼は孤児院にいるが将来は学園に入るように、勉強をしているそうだ。彼女はこのウォルターという男性も愛称で呼んでいたので少々悔しかったが、こんなことではいけない。僕は国王になるのだから、そんな小さなことを気にしていてはいけないのだ。


 少しだけ揉め事はあったものの、彼女はとても冷静に判断した行動をとっていた。僕も少し協力できて、彼女にも感謝されて嬉しい気持ちで帰宅することができた。







 そして、まだ国王との約束が果たせていない僕の誕生祭。

 今回はジェイコブもオリバーも外し、客としてきてもらうことにした。

 全員の挨拶が終わると、彼女を探す。ジェイコブが彼女と話しているときに一瞬目が合った気がしたが、その後から彼女が見つからない。僕が誰かに掴まっているときだけ姿が見える。でも僕が行こうとすると見えなくなるのだ。……ジェイコブが何か吹き込んだのか?



 今回こそは。彼女と踊りたかったのに。結局最後まで見つけられぬまま壇上へ帰った。他の令嬢と踊るわけにはいかない。

 また父上と話さねば。










 年が明けて、母上に呼び出された。


「私のときもあったのだけれど、婚約者候補を呼ぶお茶会を開くわよ」


 そんなものがあるのか!それは……彼女も来るのだろうか?


「あの……ジュベルラート公爵令嬢は……」


「家格的に問題ないので呼ぶわ」


 良かった!ここで呼ばれなかったら絶望的だった……。




「ねぇアレク。今から私は王妃ではなくあなたの母として聞くわ。ジュベルラート公爵令嬢の事を好いているの?」


 母上が、もしかしたら初めてかもしれない。王妃からではないという質問をしてきた。母としての正直な意見が聞きたいのだろうか?僕は、自分の感情を出さないようにと教育されてきたのに、そのようなことを口に出していいのだろうか。でも……ここで言わなければ僕の望みは叶わない気がする。


「はい。彼女が将来婚姻を結びたいと思っている人です」


「それは、彼女もそう思っているのかしら?」


「……。政略結婚なら諦めると言っていました」


「そう」


 前回の彼女の言葉を良いように借りてしまった。彼女は、僕が教わった【普通の令嬢】とは違うのはわかっている。もしかしたらそれを望んでいないのかもしれない。ここからは完全に僕の言い訳とワガママが混じる。アレクサンダーとしての願いと、次期国王としての希望だ。


 彼女ならふさわしい。




「たしかにあの令嬢は賢い。ま、1度だけ協力するわよ」


「ほ、ほんとですか?!」


「ただし、あの令嬢がどう出るかはわからないわ。たとえ相応しくても明らかな拒否反応をしたら私は無理強いできない。私だって、次期同じ立場になる者の気持ちはわかるもの。それでもいいのかしら」


「はい、……ありがとうございます」








 母上の開いたお茶会には6人の令嬢が来た。どの令嬢も僕が現れた瞬間、目の輝きが変わった。変わらないのは、彼女と、いつも横にいるレベッカ嬢だ。


 ずっと令嬢たちの様子を見ていた。母上は確かに協力するとは言ってくれていたが、あくまで今回は婚約者候補を呼ぶお茶会。母上だって容赦なく令嬢に挑んだ。

 王妃という立場上、男にナメられることが多い。産業的な事、政治的な事、外交的な事など様々な内容を『女ごときが知るわけ無いだろ』という上から目線で遠回しに言われることもある。何度かそれが僕でも見てわかる状況に遭遇したものの、母上は見事に完璧に答えた。それだけ母上は努力を惜しまずに覚えたのだろう。大量の勉強をしている僕には嫌ほどわかる。僕だって答えられない内容もいくつかあった。

 

 案の定2人以外は、自分が母上に渡す品の事など詳しく知らなかった。僕がその立場なら、必ずどういうものかを調べてから渡す。それも出来ないというのは、自分ではなく親が取り寄せたものをそのまま持ってきただけだろう。


 その点、さすがはジュベルラート公爵令嬢とサンドバル侯爵令嬢だ。それくらいの知識をきちんと把握していた。彼女に限ってはハンコを持ってきていた。そういえば父上に話すの忘れてた……。あれはなんとか仕事に使えるようにしてもらいたいな。母上も演技が半分入っているものの、ハンコもロールケーキも、本気の喜びが垣間見れた。



 終了の時間が迫ってきた頃、母上は僕に退席するよう促した。特にその話は聞いていなかったので一応席を立ったが、気になってしまい声の聞こえる位置に隠れて様子を伺った。



 母上は、僕について話していた。





「私の息子、次期国王なのに【魔力制御】がまだ発動しないのよ。どう思う?このまま発動しないと国王になれないと言う輩もいるの」


「このまま魔力が出ないなんてことがあったら、アレクサンダーは国王になれないわ」




 令嬢を試すための言葉なのか、母上の本心なのか。

 心がズキズキと痛みだした。


 そうだ、僕はまだ【魔力制御】が発動されていない。歴史上この歳で発動していないのは僕だけだ……。そのせいで昔から、『あとは【魔力制御】が発動すれば完璧だ』『その力が出てこそ国王にふさわしい』と言われてきた。


【魔力制御】さえ出れば国王にふさわしい。


 それは、出なければ国王にふさわしくないということだ。

 何も言わせないよう必死に勉学に励んできたけど、どれだけ完璧になっても【魔力制御】が出ないと意味がない、と暗に言われてきた。


 やっぱり母上もそう思っていたのだろうか。僕が今まで頑張ってきた姿を見ていてくれていなかったのか。

 握りしめた手に力が入る。悔しくて悔しくて、歯を食いしばった。僕だって、発動を拒んでいるわけじゃないのに。なんで僕だけ……。こんなことなら、王子になんて生まれてきたくなかった。王子でなければ、こんなことで悩む必要がなかったのに。










「そもそも、魔力が無くてもアレクサンダー殿下は次期国王にふさわしいです。【魔力制御】はあくまで【召喚の儀】をするため魔石を運ぶ際に必要なだけであって、殿下が国王になれないという理由と何も関係ありません。必要なのは魔力ではなく殿下に備わった能力です」









 彼女の声が聞こえた。その内容を頭の中で何度も繰り返した。


 気づけば、僕の左右の頬に冷たい感触があり、それはそのまま重力に従うように雫となって下へと落ちていった。





 誰も言ってくれなかった。

 母上でさえ、【魔力制御】ありきの次期国王だと言った。

 皆、『発動すれば』と言っていた。


 誰一人、僕自身を『ふさわしい』と言ってくれなかった。


 だけど彼女は……。


『そもそも、魔力が無くてもアレクサンダー殿下は次期国王にふさわしいです』




 初めて僕を、僕自身を、【魔力制御】のない僕をふさわしいと言ってくれた。



 魔力を関係ないと言ってくれた。


 能力を認めてくれた。


 ずっと、ずっと欲しかった言葉。


 ずっと、ずっと求めていた言葉。






「っ……うっ……」


 声を上げて泣きたい。でも耐えた。声を殺して泣いた。止めようと思っても止まらない。何度も何度も拭いても溢れてくる大粒の涙。




 やっぱり彼女がいい。


 僕を……僕を認めてくれる、僕を叱ってくれる、僕の心の支えになってくれる彼女を……。




 僕はこんなに弱い人間だったのか。今まで気づきもしなかった。次期国王がなんてことだ。







「想像以上だったわ」


 ふと横に母上がいることに気づいた。もしかしたら、初めから僕が耳をそばだてていることに気づいていたのだろうか。


「私も馬鹿だったわ。たしかに歴代の国王が【魔力制御】を持っているのは当たり前だったけど、それは国を治めることとは関係ないもの。全く違う視点から来るとは思わなかったわ。【召喚の儀】さえ成功すれば呪いが解けて魔力なんて関係なくなる。次は必ず成功させましょう」



 母上はそう言うと、僕の頭を優しく撫でた。前回はいつ撫でてくれたんだろうか、僕の記憶にはない。


「あの子の言うとおり、あなたは【魔力制御】がなかったとしても国王にふさわしいわ。まさか11歳の子供に諭されるとは思わなかったわよ。……これからも精進しなさい」


「……っ、はい!」


 母上が僕にこんなに優しくなったのも彼女が開発してくれたいくつもの品々のおかげだ。

 彼女は僕の人生をすべて明るい未来に変えてくれた。


 僕は頑張るしかない。





 彼女が……僕に仮面を被ることなく笑ってくれる日を願って。

 

アレクサンダーのこじらせが始まります。

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