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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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距離を縮めたい 〜side.アレクサンダー〜

アレクサンダーのサイドストーリー(2/3)

 あぁ。また半年以上が過ぎた。

 あれから彼女の言うとおり、出来るだけ招待された誕生日会やお茶会に出向いた。みんなとても喜んでくれていて、純粋に楽しく話ができた者もいれば、明らかに媚を売ってくる者もいたりして少し面倒だと感じつつ、でも今後のためだと対応した。相変わらず彼女からのお茶会の誘いは来なかった。

 でも今回は誕生日会の招待状が1ヶ月前には届いた。嬉しい。彼女と合うのは久しぶりだ!ジェイコブからいつもいつもいつも楽しそうな話ばかり聞かされて、悔しかったんだから。



 今回はクリストファーもお披露目が終わったので堂々と参加ができた。いつものメンバーで気兼ねなく話せるのはとても楽しみだ。


 彼女の誕生日会では新たな食べ物が開発されていた。みんながそれに夢中で、ジェイコブに連れられて僕も見に来た。だけど目は彼女を探している。


 向こうで話しているのは……ニコル嬢と……あの男は誰だ?見たことがない。貴族ならある程度把握しているけど、あのような顔立ちの整った歳の近い人はいなかったはず。しかも彼女と仲が良さそうに話しているじゃないか。なぜだ?あんなにも仲の良い人なんて今までいたか?

 ザワザワと胸の中で何かが熱くなる。不安な気持ちが彼女の方に向かって足を速めた。



 少しだけ会話が聞こえてくる。

 ルトバーン?あのルトバーン商会の子息か。

 自分の心が急かしている。彼女にすら話しかけずに彼の方に口を開いた。


 商会子息の彼は、彼女に僕の名前を聞いた途端驚いたように挨拶を返した。


「おっ、お初にお目にかかります。ルトバーン商会長男、フレデリックと申します」


 平民でありながらも咄嗟にちゃんとした挨拶ができるのか。さすがルトバーン商会だな。

 確かに商会にはお世話になった。母上が丸くなったのはあのトランプのおかげだろう。実際に僕も感謝している。



 フレデリックたちがケーキを取りに行ったのを見計らって彼女に聞きたかったことを尋ねた。そう、さっきからずっと心にチクチクと刺さる違和感だ。



「ドロレス嬢は、あのルトバーン会長子息と親しいのか?」


「ええ、そうですわね。よくお茶会とか商品の開発の相談に乗ってもらっていますわ」


 ということは僕よりも会っているのか。王族である僕よりも平民のほうが回数が多いのか?それに、一番聞きたかったのはこれだ。


「……愛称で呼び合うほどにか?」



 男女の愛称呼びは婚約者くらいしか使わないと聞いていた。だから彼らはそういう関係なのかとずっと気になっていた。けど、平民と公爵令嬢だ。そんなことがあるわけないよな、と自分に言い聞かせながら尋ねたのだ。




「愛称と言いますか……私の方から許可しましたの。上の者から歩み寄れば仲良くなれると思いまして。とても素晴らしく話の合う友人ですわ」


 話が合う?それだけなのか?それだけでそんなに親しく、彼女はフレデリックに笑顔を向けるのか?僕はまだ彼女の心から笑う姿を見ていない気がする。社交界前のダンスのときなど、一瞬顔を崩したのを見たくらいだ。なのになぜあの平民にはずっと笑顔なんだ?僕だって……僕だって彼女に呼んでほしい。


「それならば、僕のことも『アレク』と呼んではもらえないだろうか」


「えっ」


 彼女は驚き、すぐに断りを入れてきた。なぜだ。僕だって君と仲良くなれるのではないのか?



「私は殿下の婚約者でもなければ、親しい間柄でもありません。そうなれるわけがありません」


「そうか……。では命令としてなら聞けるのか?」


「……そのようなことを【命令】として下すのであれば、私は従わざるを得ません。殿下が【命令】で愛称を呼ばせていることをお気になさらないのであれば、呼ばせていただきます」


 失敗した。断られたことで悔しくて、思わず【命令】と言ってしまった。僕は王子だ。僕が命令すれば、彼女は従うしかない。

 なんで、彼女の前だけはうまくいかないのだろう。彼女の前だけはうまく取り繕えない。王子ではなくただのアレクサンダーになってしまう。胸が苦しい。彼女に愛称で呼んでもらえると思ったのに。


 そんなことを考えている場合じゃない!早く謝ろう。


「……ドロレス嬢の言う通りだ。聞かなかったことにしてほしい」


「かしこまりました」


「僕はいつもドロレス嬢に叱られてばかりだな。そんな令嬢なんて僕の周りにはいないよ」


 彼女のような、僕が間違ったら否定をしてくれるような存在は母上か教育係しかいない。みんな僕を肯定するから。でもここにちゃんといた。僕を見て、僕のことを叱ってくれる人が。


 その後に母上の話をすると彼女は笑った。

 僕が知らない初めての笑顔。

 今まではずっと仮面の笑みだった。だけどこの今の瞬間だけは、彼女が僕の話で笑ってくれた。


 嬉しい。なんでこんなに嬉しいんだ!初めて見た。思わず僕自身も笑ってしまいそうだった。
















「ジュベルラート公爵令嬢は本当に素晴らしいわね」


 社交界デビューのパーティーの数日前、ポツリとつぶやいた母上のその言葉を僕は聞き逃さなかった。

 母上は冬に手袋をルトバーン商会から刺繍をしてもらったのを購入し、すぐに使用していた。冬の間はどこにいてもその手袋を愛用し、その暖かさを母上から存分に聞いていた城のメイドや執事たちも手袋を買ったそうだ。


「母上……あの、ドロレス嬢のことですよね?」


「ええそうよ。今までの手袋がなかった冬にはもう戻れないわよ。今年はルームソックスが出るって話もあるし、あの子は寒いのが苦手な私のことをどこかで調べたんじゃないかってくらい最高なものを開発してくれるわ。なんと聡明な令嬢だこと」


 これは、彼女のことを相当気に入ってくれているのではないか?


「僕も、彼女はとても聡明だと思っています。彼女は僕が道を踏み外しそうになったとき、必ず僕を道へ連れ戻してくれます」


「あら……。あなた、ジュベルラート公爵令嬢に注意でもされるようなことをしたの?」


 しまった、墓穴を掘ってしまった!しばらく見ていなかった魔物が出てきてしまうのではないか!?焦って否定をしようとするものの、母上の鋭い目線で声が出ない。



「ま、人間ならたまの間違いくらいしょうがないわ。陛下だってよくやらかすし」


 父上……。でも父上のおかげで命拾いした。



「社交界パーティーでは、ダンスを……踊らなくてはいけないのですよね?」


「当たり前よ。あなたの存在を見せつけてきなさい」


「あの……最初に踊りたい人がいるのですが、そのまま誘いに行って大丈夫なのですか?」


「……。誰?」


 扇子で口を隠す母上。何を考えているのかわからない。ジトッとした目で僕を見ている。


「……ジュベルラート公爵令嬢です。っ!彼女は、公爵家の令嬢としてとても完璧です!聡明だし、ダンスも上手です。っだから、最初に踊るならやはり……皆の手本になるような人と踊れればと」


 言いながら段々と恥ずかしくなって声が小さくなる。


「……彼女なら、いいわよ。私が上手くやってあげるわ」


「っ!あ、ありがとうございます!」


 ホッ。母上が認めてくれた。彼女ならきっと母上に認められると思ってた!




 これで社交界デビューで彼女と踊ることができる!


 嬉しかったのもつかの間、当日母上についていき、無事にダンスの誘いをした。だけど彼女は、ダンスの途中で他の令嬢も誘えと言ってきた。

 なんで?他の令嬢となんて踊りたくない。僕と今踊っているのに、この時間を楽しんでくれないの?


 思わず、ポロリと本音を口にしてしまった。


「ドロレス嬢だけがいいんだ」


「えっ」


「君とだけ踊りたい。そう思ってしまうのは駄目なのか?」


 彼女は驚いた顔をする。その目を逃すまいと見つめる。


 だけど彼女は、思わず出た本音を一時の感情だと言った。そんなことない!なぜ君はそう思うんだ?

 それなら僕だって、一時でないことを示そう。君はもし、そうなったらなんて言うのかな。僕の方を見てくれるようになるのかな?



 今は納得したことにして、ダンスが終わったら他の人を誘った。みんな目を輝かせ、頬を赤く染め、上目遣いで見てくる。そんなことをされても君たちには全く興味がない。他の男にでもやってくれ。

 僕とのダンスのあと、彼女はどこかへ行ってしまった。まだ話したかったのに。







 数日後。父上と二人で話をする。


「ほう。アレクも将来のことを考えるようになったか。だが、政治的なものもある。お前が望むとおりになるとは限らないぞ」


「はい。もちろん僕一人の意見だけで決まるとは思っていません。ですが、申し分のない令嬢なら父上もきっと理解していただけると思います」


 次の僕の誕生祭で、婚約者候補の令嬢をダンスに誘うと伝えた。人数は伝えていない。過去を遡っても、側妃は1人か2人はいた。

 だけど。僕は側妃なんていらない。横にいてほしいと思うのは一生一人だけ。それを示したかった。


「参考程度にはしておこう」


「ありがとうございます!」





 だけど、彼女は来なかった。確かに参加は自由なはずだけど、次期国王である僕には会いに来てくれないのか?今日はとても大切な日なのに。父上にだって伝えたかったのに……。


「今日はどうしてもドロレス嬢と踊らなければいけなかったのに、何故来ていないんだ?」


 横に仕えるジェイコブに聞く。


「ドロレス様なら高熱で動けないそうです」


「なに?なんでそれを早く言わないんだ!」


「それより、なんで踊らないといけないんですか?」


「父上との約束があるからな……彼女と僕との今後のことに関わる」


「それって……」


「というかドロレス嬢は大丈夫なのか?病気とかではないのか?」


 高熱で動けないなんて平気なのか?!一刻も早く彼女の様子が知りたい。


「早く切り上げて彼女の見舞いに行けないのか?」


「はぁ?冷静になってください。アレク様が行ったら大騒ぎですよ!ドロレス様は動けない体で出迎えなきゃいけなくなるんですよ?熱が下がらなかったらどうするんですか?」


 真っ当な意見を言われてしまい、何も言い返せない。


「む……ではどうすればいいんだ」


「何もしないでください。熱を出して動けない人に余計に気を使わせないでください」


「僕が何がすると気を使うのか?」


 心配してるだけなのに。


「あなたは誰ですか?」


「……。だ、第一王子だ」


 そうだった。僕が感情のままに動くのはダメだったな。


「わかりました?」


「はい……」


 出会った当時のジェイコブとは似ても似つかないほどに僕と意見を言い合うようになった。彼もまた僕にとっては必要な人間だ。また助けられた。








 彼女の11歳の誕生日会は顔を出してすぐに帰らなければいけなかった。ほとんど話もできず、クリストファーが僕にくっつき、あちらこちらと動くものだからあっという間に帰宅してしまった。今年は仕事が多い。他の人の誕生日会なども顔を出してすぐ帰らなければならないほど、勉強も仕事もぎっしり予定が入っていた。


 あぁ、次にまともに話せるのは社交界パーティーか。あと2ヶ月。最近ずっと会っていない。彼女は元気にしているのかな。


 そんなことを思っていると、ある日、書類を渡しにきたクリストファーからとんでもないことをお願いされた。



「社交界デビューの日、初ダンスはドロレス様を誘います」


 その発言に僕は驚きを隠せなかった。なんだと?お前は彼女を姉として願っているのではないのか?!本当は僕から奪おうとしているのか?あ、まだ僕のものではないけど……でも!


「勘違いをされそうなので先に言いますけど、僕はドロレス様とどうこうなりたいとかはないですよ。僕がやりたいことをやるためには彼女が盾になってくれないと困るんです。兄上のことを応援してますから」


「そうか……ならいいが、彼女に危害を加えたら許さないぞ」


「そんなことはしません。では」


 クリストファーはにっこり笑って、仕事部屋から出ていった。




 しかし彼女をどうするつもりだ?クリストファーは何を考えているのだろう。






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