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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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72.いつの間に手を組んだ?

「あともう1つ、私が開発して平民の料理店で提供している人気のケーキを持ってきました。【ロールケーキ】です」


 そう言って私は氷で保冷されている箱を渡した。いつものロールケーキだけど、私の誕生日会に来た人とジュベルラート公爵家、平民にしか出回っていないので王妃のところには流石に届いていないだろう。


 なぜこれを持ってきたかというと、【美味しいのは確実】【だからぜひにと王妃に持ってきた】という名目。ただしよく考えてみると、王妃に平民のケーキを堂々と持ってくる、ほぼ生ものだから日持ちしないので早く食べないといけない。さらに王族なので毒味をしてからじゃないと口に出来ないという若干めんどくさいお土産なのだ。でも私的には厚意として持ってきている。この場で喜んで受け取るにはちょっと困るんですけど……、という空気を読めないお花畑なものを持ってきてみた。美味しいけどね。


「平民の食べ物ですって……」


「王妃様にそんなものを食べさせようとしているのかしら」


「もっとふさわしいものを持ってこれないのかしら」


 案の定他の令嬢もその思惑に見事乗っかってくれている。そうそうそれでいいの、もっと言って!




「あら!これがロールケーキなの?!嬉しい、私一度食べてみたかったのよ〜。平民のお店には行けないもの。アレクサンダーもこれが好きなのよね?」


「はい、とても美味しいですよ。ぜひ母上には一度食べてもらいたかったので、今日ドロレス嬢が持ってきてくれてよかったですね!」


 令嬢たちはバッと一斉に王妃を見て目を見開く。うそだろ……という目でこの王族親子を見る。うん、私も思ってた以上にこの親子が盛り上がるとは思わなかったわ!

 確かにアレクサンダーが話をしてるだろうとは予想したけど、このお茶会という時間の限られたタイミングで渡すものとしては微妙なお土産だったし、なんなら「え、ええ……ありがとう……これは甘い物なのよね?私のお茶会で出す王宮のお菓子では満足できないってことかしら?」とか言われるのかと思っていたんだけど。……想像以上にワクワクした様子の王妃がいる。



 私が勝手に想像していた王妃は、嫌味満載、ひねくれ、傲慢だったんだけど……これって私がラノベを読みすぎたせいで勝手に王妃イメージが出来上がってたってこと?それだったらごめんなさいだわ。ちょっと大げさで策士なところはあるけど、意外とただの流行好きな女性?

 でもこのお茶会の意図をお兄様に聞いてるし……。王妃の考えが全然わからないよ!!




「ちょ!王妃様!」


「いいじゃないの」


 気づけば箱の中のロールケーキをティースプーンですくい、口に運んでいた。メイドは「毒味してません!」と叫びながら青ざめている。国中の女性の見本となる王妃の行動はとてつもなく行儀が悪いのだけれど、何故かその仕草さえ上品に見えるのが王族だという証だろう。


「アレクサンダーの言っていた通りとても美味しいわ!これは止まらないわね。またぜひお茶会にお誘いするから、そのときはまた持ってきて頂戴」


「はい、かしこまりました」


 あーもうだめだこれ、どうあがいても私、王妃のお気に入りになってしまうのでは?



 その後、気まずいお茶会が続いた。私にだけニコニコする王妃。必死で取り繕うとする令嬢。それを冷ややかな目で見る王妃。ほぼ何も発さないアレクサンダー。





 空気が重い……。






「もうそろそろ時間ね」


 お茶会のお開きの時間が近づく。令嬢たちもどことなくホッとした顔をしている。


「アレクサンダー、席を外してもらっていいかしら?」


「?……はい」


 急にアレクサンダーの退席を促す王妃。彼も疑問を持っていたもののすぐに頷き席を立つ。女性だけになったテーブルには張り詰めた空気が漂っている。


「私の息子、次期国王なのに【魔力制御】がまだ発動しないのよ。どう思う?このまま発動しないと国王になれないと言う輩もいるの」


 突然、重苦しい内容の話題に皆が息を呑んだ。


「このまま魔力が出ないなんてことがあったら、アレクサンダーは国王になれないわ。どう思う?そこのあなた」


 バチンと閉じた扇子で侯爵令嬢を指す。ビクッとなった彼女は、ここが最後のチャンスだと必死で言葉を探す。


「そ、そんなことないですわ。たまたま発動が遅いだけで、きっと国王になる時には発動しますわ!」


「そうです、きっともうすぐ発動します!出ないなんてことはないですよ!魔力が発動してこそ次期国王なんですから!」


 皆が必死で王妃に意見を出す。


「足りない部分は、わたくしなら………そばで支えますわ!それこそが夫婦であり王妃様の存在だと思います!」


 ヴィオランテも必死でアピールする。


 でも私はアレクサンダーが【魔力制御】がこれからも出ないのを知っている。知っているのに「いずれ発動する」って自信を持って言うのも気が引けるというか……。無難にアレクサンダーを褒めておけばいいかな?



「ドロレス、あなたはどう思う?」


 王妃は名指しで私に話を振ってきた。周りが私の方に振り向く。


「そもそも、魔力が無くてもアレクサンダー殿下は次期国王にふさわしいです。【魔力制御】はあくまで【召喚の儀】をするため魔石を運ぶ際に必要なだけであって、殿下が国王になれないという理由と何も関係ありません。必要なのは魔力ではなく殿下に備わった能力です」



 【召喚の儀】でヒロインが来れば、わざわざ力を発動させて洞窟から魔石を持ってくる必要もない。1年に一度王宮に運び込まれる魔石が、放置すれば巨大化するとかなら話は別だけど、それはまだわからない。というか、アレクサンダーはそんなのなくても国王にふさわしい素質が充分に備わっている。ゲームの中だって、国民に盛大に歓迎された国王だった。


 

 王妃が一瞬驚いたような目をしたものの、すぐに仮面を被った。みんな私の方を見ていたので王妃の様子に気づいた人はいないだろう。



「殿下に発動しないなどありえないわ」


「そうよ!殿下に失礼じゃない!」


 小さな声で私を責める令嬢もいるけど、私は未来を知っているのでそんな言葉にいちいち反応はしない。




「……ご意見をありがとう。それでは本日のお茶会はお開きにいたします。気をつけてお帰りください」



 王妃はそう言うと、あっさりと退席してその場を離れていった。王宮の人たちがそれぞれの令嬢に付き、帰りの案内をする。




「レベッカ様まで呼ばれているとは思いませんでしたわ」


「私の両親は第一王子派ですから。でも私は社交界でもクリストファー殿下とダンスをしているので、王妃様も薄々は気づいているとは思います」


 言われてみれば、レベッカにつっかかるようなことはほとんど言ってなかった気もする。簪がすごい気に入っていたからそのせいでもあるのかな?



「ドロレス様」


 振り返るとヴィオランテとその他の令嬢が私を睨むように立っていた。


「抜け駆けですか?」


「アレクサンダー殿下がいらっしゃるのを知っていれば、私だって殿下のプレゼントをお持ちしましたわ」


「自分だけ情報をたくさん仕入れて、王妃様や殿下に気に入られようとするのは卑怯ですわよ」


 口々に私への批判が始まる。私だってアレクサンダーが来ることも、王妃がその場でケーキを食べるのも予想外だったっつーの!


「わたくし、あなたと正々堂々と勝負をしたいのですよ。ですが、自分だけ贔屓してもらえるような状況はお控えください」


 ヴィオランテも静かな怒りの炎を燃やしている。



「皆様。さっきからドロレス様に対して失礼ですわよ」


 声の方に振り返るのと同時に、私の前にレベッカが一歩進んできた。



「ドロレス様が贔屓されてるですって?そんなの、当たり前だと思いません?王妃様にされた質問を答えられず、納得できる意見も出せず、それなのに負け惜しみかの如くドロレス様に詰め寄るなんて恥ずかしいですわね。それであなた方は殿下の妃になろうとされているのですか?そんな方が王妃になどなったらこの国は終わりですわ」


「なっ!」

「あなたには関係ないでしょ!」


 正論をぶつけられた令嬢たちがレベッカに必死に噛み付く。



「あなた方、本当に関係ないと思っていますの?アレクサンダー殿下と婚姻を結びたいのですよね?つまりは次期王妃。国の一番上に立とうとしているのに、国民である私に『あなたには関係ない』と?そうですか。あなた方のお気持ちはよーくわかりました。あ、お迎えの馬車が来たみたいですからどうぞお帰りください」


「…………っ!」

「あなたなんかに負けませんわ!」


 悔しそうな顔をする令嬢たちは、王宮の者に促されるままお茶会の場を後にした。



「レベッカ様、ありがとうございました」


「いいえ、私は私のやりたいことをしただけですわ。それに本性が出てくれたのは私にとっても好都合でした」


 レベッカはあまり笑みを見せないけど、フッと微笑み、向こうの草が生い茂る方を扇子で指した。






ーーガサガサ。

 壁のように植え付けられた植物が揺れたかと思うと、そこから出てきた白金色の髪の毛の人物に思わず驚いて声を上げてしまった。




「クリストファー殿下?!」


「ドロレス様、お久しぶりです!兄上と平民の料理店に行ってましたよね?行きたかったですよー!」


 頭に葉っぱをつけ、ニコニコと笑うクリストファー。その横にはレベッカが無表情で佇む。


「えっ……と、これは?」


 状況が飲み込めず聞いてみる。


「んー?僕は僕のやりたいことをやる、って感じです。レベッカ様は『協力者』として組むことにしたんです」


「えっ?どういうこと?!」


 思わずレベッカの腕をひっぱり、クリストファーから少し離れて小声で問い詰める。


「何があったんですか?婚約者になったってこと?でもそれじゃこのお茶会にレベッカ様が来るわけないですわよね?なんの『協力者』なんですか?」


 聞きたいことはいっぱいある。ゲームだってこんな展開はなかった。何?協力者?何が起こった?


「それはドロレス様にもお教えできません。でも悪事などではございませんので安心してください。……私は今の状況をとても楽しく思っておりますので」


 そう口にすると、私から目線を外し、少しだけ頬をピンクに染めたレベッカ。何かクリストファーとの約束でもしているのかな?……深く聞かないほうが良さそうだわ。


「お互いがそれで納得しているのならいいですけど、私、このお茶会に乗り気ではないのはレベッカ様もわかっていますよね?」


 私は王妃になりたいと思っていないのはわかっているよね?と暗に聞いてみる。


「……」


「レベッカ様?」


「……私はクリストファー殿下の望み通り動くまでですわ」


「ち、ちょっとレベッカ様!いくら好きだからって殿下の言いなりになっちゃだめよ?!絶対に後から苦労するわ!」


「レベッカ様、ドロレス様。話は終わりました?僕はやることが増えたので先に戻りますね」


 後ろの方から近づいてくるクリストファー。


「クリストファー殿下、またご連絡いたしますわ」


「レベッカ様、よろしくお願いします。じゃ」


 ニコニコ顔だったクリストファーは早歩きでその場を去っていき、それに合わせてレベッカも自分の馬車の方へと行ってしまった。



 あぁなんてことだ。知らない間にゲームには無いはずの出来事が起こっていたとは……。一体あの二人は何をしようとしてるんだ?私の未来、大丈夫かな?


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