表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
80/242

71.プレゼントは商談と紙一重

「みなさん、私のお茶会へようこそ」




 あの手紙から1ヶ月が経ち、私はいま王宮内の庭園にいる。王妃とのお茶会がついに開催された。


 今日は6人令嬢がいる。公爵家2人、侯爵家3人、伯爵家1人だ。ヴィオランテ、レベッカもいる。おそらくこのメンバーは第一王子派の貴族だろう。ちらっと周囲を見渡せばソワソワして落ち着きのない4人と、全く興味のないレベッカ。


 そう……だって王妃の隣にアレクサンダーがいるんだもん……。来るって聞いてなかったんですけど。

 みんな頬を染めて上目遣いでアレクサンダーを見ている。私とレベッカ以外は。

 レベッカに関して言えば、もはや「好きな人の兄」の認識しかない。今日だって来るつもりもなかったんだろうな。

 そういえばこないだの社交界パーティーでクリストファーと何があったのか聞いてないや。あのあともレベッカは誕生日会にクリストファーを招待したみたいだし、特に酷いことを言われたわけじゃないのかな?


「今日は僕の母上のお茶会に来てくれてありがとう。時間はゆっくりあるので、みんなで楽しんでください」


 お互いにお辞儀をし、席につく。わードキドキする。前回も大勢の前で話しかけられたけどさすがにこの少人数で王妃と話すのは緊張するなぁ。さすが王妃だけあり、考えを見抜けないような微笑みの仮面を被り続けていた。


 今回王妃とお茶会をするということで、このチャンスを逃すまいとみんながプレゼントを持ってきている。私はそんなことはお父様に言われるまで気づかなかった。

 必要だと知ったのが一週間前で、何も高価なものが用意できない。だからといって「なんとしてでも取り寄せなさい!」っていうこともしなかった。うーん、貴族失格?

 他の令嬢は我先に渡そうと並び始める。あ、私最後になっちゃったわ。


「こちら、今回希少な布地を南国の方からお取り寄せしました。普段は国外に出さないようなものだそうです。この日のために用意いたしました」


 わぁ!大振りな花のデザインが南国っぽい薄手の布地だ。めっちゃアロハシャツにありそうな模様。この世界何でもアリなのね……。流石にアロハシャツは無理だとしても夏のワンピースとかに最高だわ。私も取り寄せてほしいー!めっちゃかわいい!


「これ南国から取り寄せたのでしょ?南国ではどのように使っているの?」


「え?……えっと……服などに」

「南国ではこの布地でどのような服を作るのかしら?」


「……申し訳ございません……詳しく調べて後ほどお伝えします」


 ん……?これもしかして、渡したものが何なのかを詳しく聞いてくるパターン?



「あ、あの……私はこちらの珍しい宝石を取り寄せいたしました。貿易船でしか注文ができない、高価な宝石が来れる国のものです」


「へえ。なんという国名かしら?」


「……えっと」


「私に贈るためにあなたが取り寄せてくれたのよね?だったら、わかるわよね?」


「……いえ……申し訳ありません、父が手配しました」



 な、なんだこの恐ろしいやり取りは。これでアレクサンダーの婚約者にふさわしいかのテストをもう始めたってこと?渡し終わった令嬢たちの顔が真っ青なんだけど!そして私最後なんだけど!超絶不機嫌な状態で私対応しなきゃいけないの?!アレクサンダーの方を見ると、なぜか目が合った。え、私見られてた?変だった?



「こちら、取り寄せた【簪】と言います。長い髪の毛をまとめるときに使います」


 レベッカの声に思わず視線を戻す。この世界に簪あるの?!一本簪の先に、この世界では珍しく揺れる装飾がされていて、デザインがとてもかわいい。パールのようなものがついている。


「どう使うの?」


「寝る前の少しの時間に私はよく使います。これだけで長い髪をまとめて留められます。髪の毛のアレンジでも使えますのでアクセサリーのような感覚で使えます。ダンスを踊るときなど、装飾部分が揺れてとてもキレイです」


 そう言ってレベッカはゆらゆらと簪を揺らしたあと、自分の髪をパパッとまとめた。私は簪つけるの苦手だったから、レベッカの手際の良さに驚く。なぜ日本人の私より手慣れているのか。王妃も興味津々にそれを見ていた。


「自分で出来るものなのね?面白そうだわ」


 横でメイドが苦い顔をする。王妃の髪を整えるのはメイドの仕事であり、王妃がそんなことに手を出してはいけない。だけどもう興味が簪に行っているため、メイドも言うに言えないのだろう。


「この国では馴染みのない簪ですが、私は簡素なものを部屋で使ってるだけです。このような素敵な簪をパーティーなどで使って、王妃様が流行の最先端になるのはいかがですか?」


 『流行の最先端』に、僅かに反応をする王妃。基本的に王妃は興味のあるものには乗り気なタイプだ。トランプも手袋もルームソックスもすぐに取り寄せているんだからね。そんな流行に敏感な人が、パッと見使い方がわからない1本の棒である簪を女性たちに広める。なんと魅力的な提案だろう。


「さっそく使わせてもらうわ。帰りにでもどこで取り寄せたのか教えてちょうだい」


「かしこまりました。ルトバーン商会での取り扱いになりますので、後ほど書類をお渡しいたします」


 用意周到!そしてルトバーン商会だった。私全然知らなかったよ。いや、ルトバーン商会なら何でもありそうだな……そのうち着物とか出てきたりして。



 ああ、もう私の番か。レベッカのおかげで機嫌良くなったかしら?目立たず地味に挨拶して、まだ用途が決まっていないもの、やんわりと王妃が困る程度のもの2つを持ってきている。



「あらドロレス、社交界で話して以来ね、お久しぶり。元気だったかしら?アレクサンダーとのダンス、とても素敵だったわよ」






 あ、想像以上に攻撃が大きかった……。

 いきなりの名前呼び、私より先に王妃からの声かけ、以前にも親しく話したと思わせる言い回し。さらに社交界デビューで初ダンスをアレクサンダーと踊った私。他の令嬢が驚いたように私を見る。ヴィオランテは見てるというか睨んでる。あーもう嫌だぁぁーーー!




「私からは、【ハンコ】をお持ちいたしました」


「ハンコ?」


 以前アレクサンダーが国王に伝えるって言っていたのに何の音沙汰もないから自ら売り込みに持ってきちゃったわよ!お父様から仕事の山を押し付けられてる国王なら絶対ハンコは気になる品物のはずだし。


「あ、それは僕も知っています。名前が書かれていて、インクをつけて押すとサインのような跡がつけられるんです」


「ふぅん。それで、何に使うのこれ?」


 アレクサンダーのサポートもあるけど、やっぱり詳しく聞いてくるのか……。


「ルトバーン商会の者が開発いたしましたが、今はまだ明確に使う目的はございません。ですが、専門の職人が長い時間をかけて、ペンで書いたと勘違いするような滑らかな文字を彫ることに成功いたしました。偽物など早々作れません。この【ハンコ】がサインの代わりになれば、この国の書類仕事が大きく変化します」


「具体的には?」


「王宮での書類仕事はとても多いです。ですが、国王陛下や王妃様は書類を書くというよりも確認作業のサインだけを書くことが多いと聞きました。それも山のように。ペンでずっとサインを書くのって、お辛くないですか?」


「ええそうよ、一日中その仕事だけで終わることもあるわ」


 この国のトップは、部下が作成した書類に目を通してサインをすることが主だ。椅子に座り続けひたすらサインをする。


「そんなときにこの【ハンコ】です。国全体に浸透していない状態では馴染みがなく混乱してしまうと思いますが、いずれ全国民に広がれば正式なものとして使うことができます。紙にこれを押すだけでいいのですから。時間短縮、手の疲れを改善。そして、世界に1つしかない自分だけの、自分だけのための【ハンコ】になります」


「私だけのための……」


 流行に敏感な王妃は興味を示している。だってこれ、今ここに一つしか存在しないものだから。



「お名前だけは彫ってありますが、王家の紋章まではさすがに彫っていいものか許可を取っておりませんでしたので入れていません。ですがご希望であればそれも彫らせることが可能です。より精密なものになりますので模倣品など作れるものはいないでしょう」 


 ルトバーン商会ではすでに紋章も彫れるようになってるけどね。あの複雑な紋章が彫れるなら、もう何でも彫れるわ。商会の職人の本気を見たわよ。


「僕はとても魅力的なものだと思っています。僕も欲しいです」


「あら、アレクサンダーも興味があるのね?ちなみにアレクサンダーの分も作れるの?」


「はい、こちらにございます」


「陛下の分は?」


「お持ちしています」


「さすがねドロレス。私たち家族のことをわかってるじゃないの」


 あーーよかった3人分持ってきておいて。

 あ、でも私の印象を悪くするには持ってこないほうが良かったか……。



 アレクサンダーは王妃のことを怖い怖い言っていたけど、王妃が自分の息子を溺愛してるのはなんとなくわかっていた。そして私が初めて国王に話しかけられたアレクサンダー誕生祭のフォローの入れ方も、おそらく王妃は国王のことを手のひらで転がしている。

 だけどそこには嫌悪の気持ちではなく、愛ゆえの関係性だなと感じた。


 この国は、女性が強いが夫婦仲は良好という特徴がある。その象徴である王族もきっとそうだろうと予測しての3人分だ。これは多分私がこの世界をゲームという前提で客観的に見ることが出来るからこその判断だった。ハンコは是非とも早く国王に許可を出してもらいたい。

 

「今はまだ使用目的が明確ではありませんので、お披露目をされていない王女殿下を除く3名分ですが、ご希望であれば王女殿下、側妃様やクリストファー殿下、第二王女殿下の分もすぐにお渡しができるようになっています。ルトバーン商会に是非声をおかけください」


「そういえばまだルトバーン商会に手紙を送っていなかったわ、ごめんなさい。ルームソックスもとても助かったわよ。お礼の手紙を今日書いて送るわ。【ハンコ】を使って、ね」


 王妃はニッコリと笑った。

 仮面を外した笑顔の気がする。……私って今日、商会の人間として来たみたいになってない?



「僕の分もあってとても嬉しいです!ドロレス嬢、ありがとう」


「ええほんとね、私のお茶会なのに私の家族の分も用意してくれるなんて、本当に気の利く女性だわ。自分が何を持ってきたのかもちゃんと説明できるのは当たり前だとしても、目の前に見えるだけのことに取り繕わず、その裏にある大切なもののことまで気を配る。大勢の者の上に立つものとしてとてもふさわしいわね。みんなもそう思わない?」


 王妃は他の令嬢に目線を送る。鋭いその目線は『私の意見に頷け』と言わんばかりだ。その恐ろしい目線に肯定の言葉以外は許されない。


「はい……」

「そうですわね……」


 あー……これがお兄様の言っていたことか。早く実用化されないかなと思って3人分渡してしまった私がバカだ……。

 

いや、王妃だけの分を渡したとしても「私だけのために世界に一つのものを作ってくれたのね」とか言いそうだから結局同じになりそうな気がする。

 こうやって有無を言わさない感じでこのお茶会を過ごさせる気なのかな?私も他の令嬢も酷すぎない???



 思っていた以上のご機嫌モードになってしまい、私は本来の目的を忘れていた。だめだこれ、私勝手に自分の好感度上げちゃってる気がする。

 アレクサンダーも横でニコニコしてるじゃん。周りの令嬢の悔しそうな顔とか、これ私のせいじゃないよね?!私は自分の持ってきたハンコの宣伝をしただけだもん!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ