7.断捨離って意外と着てない服が多くてビックリする
孤児院前日。私は自分の部屋の断捨離をしていた。
「これももういらないわね。あと……これも、こっちはまだ使えるかな」
前のドロレスが集めに集めまくったアクセサリーやドレス、靴やハンカチなどを分けていた。こんなにいらない。何でリボンだけで50種類以上もあるのよ。しかも遠目で見たら何が違うかわからないようなものばかり。
「これはさすがに子供たちにはだめよね。細かいものがついてるし、変に高そうなものを渡してもなんか違う気がするのよ」
そう。今のドロレスが使わないものを孤児院に寄付することにしたのだ。孤児院には15人ほど、1~12歳ほどの子供たちがいる。ちなみに12歳を超えると、飛び抜けて得意なものがある子は貴族の養子になったり、得意なものが無い子でも住み込みでの仕事につけるようになる。
あまりにゴテゴテしたものや小さいものがたくさんついているもの、高価なものを教会に置きっぱなしにしても強盗や誤飲とかいろんな問題で危ないもんなー。私お金持ちよ!って自慢しているようなもんだよね。私的にそこまでの人間になりたくない。
普段着るものも日本人の私からしてみればほぼドレスみたいな服なので、これを渡したところで孤児院の子が普段着にできるわけもない。
考えに考え抜いた結果、自分の髪と瞳に合うようなリボンを十数本残し、後は全部寄付。あと、カチューシャもいくつか。そしてあえてのゴテゴテドレスを数着。これは普段着にしてほしいと言うより、たまにお遊びでお姫様ごっこにでも使ってほしいと言う願いだ。
でもなー、男の子が好きそうなものがないんだよ!あぁ不覚!男女平等にしてあげたいのに、男の子にあげられるものがないじゃーん!
ヒーローもの?いやこの世界にヒーローいないよね?そもそもヒーローいないのにごっこができるわけない。
コンコン。
「準備は順調か?」
ドアからお兄様が顔を覗かせる。
「お兄様!今孤児院に寄付するものをわけていましたの。ただ、女の子にプレゼントするものはあっても男の子にプレゼントするものがなくて……」
「そうか。うーん、なんだろうなぁ」
お兄様も悩み始める。勉強しかやってこなかったお兄様に答えが出るはずもない。二人の沈黙が続く。
「あの、よろしいですか?」
メイドのリリーがふと思い付いたように話し始める。
「なにか思い付くものがあったのか?」
「遠慮なく言って!」
私もお兄様も興味津々で目を輝かせながらリリーの方を見つめる。その動作に若干リリーが狼狽える。
「申し訳ございません。大したことではないのです。もしお坊ちゃまの服の中で飾りもほぼ無いようなもの、もう着なくなったものがあればそれを寄付していただけるとお喜びになるかと思います」
「僕の服?服なんかもらっても僕が着るようなものは孤児院の子達に着る機会はないんじゃないかな?」
「いえ。どこかに着ていくわけではないのです。これに関しては……坊っちゃまがお許しになればのお話ですが。実は私も孤児院で育ちました。孤児院に寄付をするということで考えた時に、男の子が普段何をしているか思い出したのです」
「えっ、リリーは孤児院だったの?知らなかった……」
「えぇ。言ったらお嬢様に死ぬまで嫌味を言われ続けそうでしたのでお伝えしていませんでした」
うぅ……なんかごめんなさい。私じゃないけど私が今はドロレスなので謝ります。
「話を戻します。男の子は基本外で遊んでいます。もちろん女の子も外で遊んでいましたが、比ではありません。外で泥んこになって遊びます。ですが服がたくさんあるわけではないので、汚した後の替えの服が無いんです。ですのでもし可能であれば、飾り物のついていないズボンやシャツなどがいいかと思います」
お……。答えがとんでもなくシンプルだった!そしていちばんド正論だった。私はなぜそんなシンプルなことを見逃していたのだろう。
「僕は構わないよ。もう着なくなったサイズもあるし。一応父上に確認はするけど、理由が孤児院ならきっと喜んでくれるだろう。だが、飾りの無いものを渡したところで彼らはその服を遠慮せず着てくれるものなのか?」
「……たしかにそうですね。いきなり貴族の服を渡したところで、汚したらどうしようとか思ってしまうかもしれないです」
お兄様の意見も正しい。いきなり貴族が服を持ってきて、綺麗に畳まれている見るからに高そうな服を彼らに渡し「僕のお古だから汚しても大丈夫だぞ」と言ったところで、孤児院で暮らしている子供たちは悩んでしまうだろう。
「あ!それではこういうのはどうかしら!もし人数分用意ができるのなら、渡したときにその子達のサイズに合わせてハサミで切っちゃうの!その場で!私たちがね!」
貴族から高価な服なんて渡されても困る。汚してもいいとは言われても、いざ汚したときに「なぜ汚した?!」と権力で言われたら平民の孤児院でなど太刀打ちできない。きっと似たような理不尽な被害を受けた子も孤児院の中にはいるだろう。
だから、目の前で切っちゃうのよ!貴族が自ら自分の高価な服を切って、「こうしてもいいんだぞ」という印象を与える。それを見せることによって【この服は丁重に扱わなければいけない】という考えを頭の中から取り外してあげるのよ!
「確かに、それなら自分のものとして変な気遣いも生まれないか。よし!いらない服を集めてくるぞ」
普段は感情の波があまりないお兄様は、頬を赤らめながら口角を上げ「どれにしようかな」と楽しそうに呟き、早足で部屋を出ていく。
「リリーありがとう。こんな基本的なことを忘れていたわ。これで女の子にも男の子にも喜んでもらえそうね」
「とんでもございません。私は希望をお伝えしただけです。坊っちゃまもお嬢様も、孤児院の子供たちの立場になって考えていただき、感謝してもしきれません。きっと彼らも喜ぶでしょう」
リリーは昔を思い出して瞳を潤ませる。きっと孤児院の暮らしは私が想像する以上の大変さだったのだろう。1日1回服を着替え、お風呂に入り、1日3食、働いて金銭収入など、私たちの普通で当たり前のことが彼女たちには夢のような生活なのかもしれない。
私は公爵家の娘になった。同じような暮らしにはしてあげられないけど、何の罪もない子供たちがせめて普通の暮らしが送れるように手助けをしたい。それが公爵家に生まれた運命だと思う。
そうよ!お金を持っているなら、やれることがたくさんあるわ!!
前世であれだけ精神的苦痛を味わい、残業も沢山したのに、手取りの低さに嘆いたことが何度もあったわ!でも今なら何でもできる!自分の生活が充実していれば他の人に目が向けられるのよ!
生活は今のままで充分。必要最低限の経費は仕方ないとして、それ以外は人の役に立とう!
そのためには婚約回避だーー!