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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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69.女子会

 

「そうなのよ、言ったら言ったで『今やろうとしたのに何で言うんだ』って答えるし、言わなかったら『言われなきゃわからない』って怒られるの。私が怒られる理由がわからないわ」


「ほんとですよね!私のお父様は『女は後からまとめて昔の事を掘り出して怒る』とか言うけど、お母様はちゃんと言ってますわ。その時全然聞いてないってことを自爆してるようなものですわよね」


「プライドが高いって困っちゃいますよねー」



 日差しが暖かく感じ始めた4月。今日はニコルと一緒にモレーナの部屋にいる。いわゆる女子会のテンションになってきたので、言いたい放題である。

 モレーナは主にレイヨン公爵の話。近衛騎士としては素晴らしいけど、夫としてのダメダメっぷりを聞いてしまい、イメージをだいぶ崩される。あ、でも片鱗は見えてたかも。

 モレーナは公爵夫人になっても驕った態度にはならず、子供の私たちとも普通に話してくれる。公爵もオリバーも家にいないけど、私は顔パスで入れるようになっていて、今日は三回目の訪問だ。


「トランプ楽しかったわ。ドロレスの言う通り、2人より3人の方がより楽しいわね」


 前回来たときにトランプを持ってこなかった。二人でやってもいいけど、せめて最初は説明もしてあげたいから、他にもう一人呼べたときに遊ぼうと思ったからだ。


「お気に召していただければ良かったです。これ、無地のものですがよろしければ差し上げますわ。私はまだいくつか持っておりますので」


「あらいいの?じゃあまた来たときにやりましょう」


「はい」


 今年の初めに見たモレーナとは別人なくらい明るくなっていた。初めて会ったパーティーの時は大人しそうなイメージではあったが、そんな事を忘れてしまうくらいずっと笑顔だ。


「ニコルも本当に大変だったわね。騒動になったとは聞いたけど、婚約が成立していなかったなら本当によかった」


「本当ですわ。あの方の横にいるくらいなら一生牢獄暮らしの方がマシですわよ」


「牢獄より嫌な男!ちゃんと拝んでおけばよかったわ~」


 ケラケラとモレーナは笑う。


「モレーナ様、ドロレス様。私はお先に失礼します」


「ええ。元々予定があったのに来てくれてありがとう。なんのおもてなしも出来なくてごめんなさい」


「こちらの方が楽しそうでしたので問題ないですわ」


 そう言ってニコルは部屋を出ていった。


「それにしてもギルバートって男、何度聞いても苛立ちしか生まれないんだけどどうしましょうね」


「私も、この話をしてるだけで怒りしか生まれないんです。ある意味素晴らしい方ですわ」


 ギルバートの処罰は廃嫡もだけど、ルミエたち三人から奪い取った金額が完済するまで労働をさせられることになった。最初は牢獄という話だったが、マクラート公爵が『人から金を奪っておいてそれを湯水のごとく使いきったあいつには、そのお金がどれだけ働いて稼げるものなのかを一生かけてわからせたい』と願ったそうだ。

 これは慈悲でも何でもなく、ただ牢獄で何もせず暮らす方が楽に思えたからだとジェイコブは言っていた。この国には奴隷は存在しない。けど、それに近い仕事をさせられた上で給料は返済に使われるため、ゼロ。おそらく80になっても、彼の使った金額には到達しないだろう。つまり死ぬまで無賃労働である。




「ねぇドロレス。私がここに来る前に婚姻していたところから離縁した理由は聞いてる?」


 モレーナは微笑みを薄くし、少し低めの声で聞いていた。


「離縁したことはレイヨン公爵から聞いていますが、理由など詳しいことはうかがっていません」


 モレーナは少し考えたあとこう切り出した。


「私ね、子供が出来なくて離縁したの」




 モレーナは子爵家に生まれ、17歳で侯爵家の次男に嫁いだ。親の決めた結婚だったので相手のこともよくわからないまま家に入ったのだ。見た目ではわからないが元々体が弱かったため、妊娠は難しいだろうと言われていた。それでも侯爵家の次男は迎え入れてくれて、分家として暮らした。


 だけど世間の目は厳しい。

 貴族なら……貴族の女ならば、世継ぎを産むことがこの世界の常識だ。ギルバートの言うことを正論と受けとりたくはないけど、あながち間違いを言っているわけではなかった。

 そんな中、子供がいない侯爵分家。周りでヒソヒソと陰口を言われ続けたり、あからさまに子供がいないことをバカにしてくる者も多かった。



「最初は彼も『本邸ではないから気にしない』とは言ってたの。だけど、子供がいないという【普通じゃない】状況に彼は耐えられなかったのよ。離縁をお願いされたの」


「そんな……だって分家なのに」


「彼は素敵な方だったけど、このまま私が一緒にいても私は彼に一生『子供が産めなくてごめんなさい』という思いを抱えたまま暮らさなくてはいけなかったから、これでよかったのよ」




 私だって前世の子供の頃は【結婚して子供がいる家庭】というのは当たり前で、【結婚して子供がいない家庭】は例え夫婦仲が良くても『普通とは違う』と思っていた。

 そして大人になって、自分の職場の先輩が『普通と違う』と思っていたまさにその夫婦だった。そこで初めて【子供が欲しくてもできなかった家庭】に直接出会った。数年間病院に通っても子供に恵まれず400万近くが消え、不妊治療はギャンブルだとも話していた。今その先輩は子供を諦めたけど、今でもずっと自分に劣等感を持ち、モレーナが元夫に対して思っていたことと同じことを言っていた。表面上は明るく振る舞っている。


 日本で子供がいない夫婦は多くなってきた。多少のことは言われるかもしれないけどそれでも問題ない。


 でもこの世界は違う。世継ぎを産むことが貴族女性の役割だ。それが出来ないのなら、妻に置いておく理由がない。よほどの覚悟を持たないと【子供がいない貴族】などやっていけない。



 モレーナは出戻りになった。貴族社会の出戻りは大恥と言われている。当然彼女は実家の子爵家でもお荷物扱いされ、貴族がやらないような現場仕事をさせられた。子供ができない出戻り女と仲良くするのが嫌だったのか、友達もいなくなった。それでも彼女は明るく仕事をして、周りからの評判はとても良かった。離縁した以上、私にはもう嫁ぎ先は出てこない。それならば、楽しく仕事をしよう、と。


「現場仕事をしているときに、近衛騎士の方々が遠征で子爵領に来て訓練を行っていたの。両親は騎士の皆さんの対応をしていたけど、私は家族として扱われていなかったから挨拶も出来なかったわ。たまたま、本当に偶然今の夫と目が合ったの。そうしたら夫は目が飛び出るくらい大きく開いて、持っている剣をブンブン振りながら私のところに猛ダッシュで走って来たのよ。思い出しただけで面白いわ」


 モレーナはクスリと笑う。私も想像してみた。屈強でいかつい男が、鎧を着て剣を持って自分めがけて一直線に走ってくる……怖すぎる。


「そしていきなりこう言ったの。『あなたはジェシカの家族の者か?!』ってね。え?誰?ってなったわよ」


 そうか……モレーナは前妻のジェシカに似ていたんだ。


「『そんな方は知りません』って言ったら、呆然と私の顔を見続けたままで。その日はそのまま訓練に戻ったの。でも次の日また彼は私を探しに来た」



 訓練がある日は必ず会いに来た。モレーナの顔が前妻に似ていることも聞いた。でも自分が貴族の人間で、子供が出来なくて離縁したことは伏せていた。


 訓練が終わり、子爵領から出たあとも、何度かレイヨン公爵はモレーナに会いに行った。何度も何度も。そうしてそのうち、彼に惹かれているのだと自分自身の気持ちに気づいた。

 だけど私は出戻り。子供も産めない。近衛騎士団の団長であるレイヨン公爵という存在も元々知っていたため、私のこの気持ちは心の奥にしまっていこうと決めた。


「彼はよく私に前の奥さんの事を話してくれたのよ。息子さんの話も楽しそうにしてたわ。彼女はこの世からいなくなっても夫に愛された素敵な人だったんだな、って思った。そして私気づいたの。私は『前妻を一途に愛するこの人』に惹かれたんだ、ってね」



 そんな中、突然レイヨン公爵がプロポーズをして来たのだ。モレーナは驚き、嬉しいという気持ちを声には出さなかった。



「私こう言ったの。『実はここの領地である子爵家の令嬢です。体が弱く、子供は産めないと昔から言われていました。嫁いだところもありますがやはり子供は出来ず、離縁したのです。そんな行き遅れの女が、公爵家の妻にはなれません』って。そうしたら彼は『おおそうか!じゃあ文字も計算もできるんだな!それなら問題ないじゃないか。それにうちには息子がいるからな子供はいらん』ってあっさりと私の悩んでいたことを吹き飛ばしたのよ。わあ……とんでもないプラス思考だな、って」


「そこまで前向きに捉える人もなかなかいないですよね……」


 さすが脳筋だと思った。だけどそれは、鍵がかかったモレーナの心の扉を開けたのかもしれない。




 だけどモレーナはまだ聞きたいことがあった。


「どうしてもこれだけ聞きたくて。『私が前の奥様に似ているからですか?』って」


「……そうだ、って言ったんですか?」


「『確かに似ている。だから声をかけたのも事実だ。だけど話していくうちに君自身に惹かれた。君が望むならジェシカのことは忘れるようにするから』って彼は言ったのよ。えっ、あれだけ愛した奥さんの事を忘れる?何言ってるのこいつ?って思ったわよ」


 モレーナが惹かれたのは、前妻を愛するレイヨン公爵だ。私が嫁ぐことによってジェシカを忘れる?そんなことする必要ないじゃない!そう思った。ジェシカを1番に愛してほしい。ジェシカの忘れ形見であるオリバーのことも私より優先してほしい。そんな彼だからこそ、そうやっていてくれるのならば私は隣にいたい、そう思った。



「だから私は言ったの。『条件がございます。私のことを…1番に愛さないでください。あなたが愛するジェシカ様のままで。2番目も私じゃなくていい。あなたの大切な一人息子を。そして3番目に私を置いてくれるのでしたら喜んでお受けいたします』ってね」


「モレーナ様はそれでよかったんですか?」


「もちろんよ!だから私は安心してここに嫁げたんだもの。夫があの二人の話をしているその姿が一番好きなのよ、うふふ」


「こんなところで言わないで、レイヨン公爵様に言えばいいじゃないですか」


 未だに公爵とギクシャクしている。もうお腹も大きくなっており、産むしか選択肢がない時期だ。そろそろちゃんと話をした方がいいと思うんだけど……。



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