王宮のはなし~side.第一王子~
サイドストーリー・第一王子編。
ゴロゴロゴロ……
良く晴れた天気だったはずなのに、昼過ぎから急に黒い雲が広がり始めた。暖かい日が続いていたものの、今、気持ち的にも体感的にも冷たい空気が周りを鎮めさせている。
「陛下。なんとしてでも【治癒の力を持つ女神】を召喚してくださいまし。あなたがいなくなったら、わたくしは生きる力を無くしてしまいますわ……」
「わたくしもです。今回と次回の2回もあるとはいえ、出来れば今日無事に終わることを願っております」
母上である王妃と、弟の母である側妃が国王である父に訴えかける。
「わかっている。機会はあと2回のみだ。だが、今日すべてを終わらせるぞ」
この国の王、バルトロ・ランド・フェルタールが重々しい口調で心を落ち着かせている。
「父上。僕も想いは一緒です。今回でこの呪いを終わらせましょう」
ここで失敗したとしても、次回もまだチャンスはある。だが、失敗したならばまた7年間ずっとこの事が気がかりになってしまうだろう。
もし失敗したら。召喚のために何を修正し改善すればいいのかがわからない。やれることはやった。
「父上……兄上。僕も一緒に願います」
弟も僕の後ろに隠れながらもしっかり前を見据えている。
妹たちは何が起きてるのかわからないのか、そわそわしているだけだ。
この場所は、王宮内の地下にある、広くてなにもない部屋だ。
代々ここで召喚の儀が行われている。王族の血を持つ者のみが入ることを許される場所だ。
丸を作るように7つの魔石が並べてある。
現在【魔力制御】を使えるのが国王のみのため、台車に乗せられた魔石を微調整している。
全て並べ終えたあと、円の外側に出た国王は深呼吸する。
「あなた」
「父上……」
沈黙が続く。風の音も水の音もない無音の空間。誰も音を立てようともせず、微動だにしない。
ふと、誰が息を飲み込んだ。
国王が息を思いっきり吸い込む。
「魔石よフェルタール王国にその力を与えたまえ!【治癒の力を持つ女神】、いざ参られよ!」
ドゴォォォォーーーーーーーーン!
一瞬にして部屋が眩しくなる。隣にいる母上や、後ろにいる弟が見えなくなるくらいの真っ白で強い光だった。
大きな音が最初になったきり無音が続いている。
「このような状態は文献にもないぞ!成功したのか?!」
「陛下!どこにいらっしゃるの?!」
「成功ですの?!」
「父上、母上!」
「!!!」
周りの会話は成立するものの、全く周りが見えない。父上も母上も、弟も妹達もちゃんと近くにいるのだろうか?
数十秒後、周りを包んでいた光が一瞬にして消える。目が痛い。開けようと思っても一瞬の暗転でなかなか目が慣れない。
「成功……したのか?」
やっと目を開けることが出来たであろう父上が魔石の方にゆっくりと瞳を動かす。
「…………だめだったか」
ガックリと項垂れる父上の横で、母上が後ろに倒れそうになり慌てて背後に回り支える。
側妃も膝から崩れ落ちる。
弟や妹達がそれぞれの母親のところへ向かう。
今回も失敗だったのだ。
これで、現在の国王に残された召喚の儀はあと1回だけになった。
この日、過去の文献にも載っていないほどの雷が、大木に落ちた。
雷が落ちた日の話です。