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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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58.子供たちの話を真剣に聞いてくれる大人って素敵

「うちの商会員が悪事をしている、と?」



 社交界パーティーの少し前にフレデリックから手紙が届いており、やはり自分では調査できないと知らせが来た。そこで、私とジェイコブはパーティーの数日後にこうしてルトバーン商会に出向いたのだ。



「その可能性があります。とても失礼なことは充分にわかっていますが、ルミエにわからないように在庫と売上チェックをしてほしいのです」


 私もジェイコブも二人で頭を下げた。


「お二人とも頭を上げてください。……私は商会員を信じているので、こういうことはやりたくないのですよ。そんな不正はないと思っていますし。何か証拠でもあるのでしょうか?」


 わかってはいたものの、商会長はやはり腑に落ちない様子で私たちに視線を向ける。


「……実は直接的な証拠がありません。今わかっているのは、公爵家令息と人目のつかない様なところで会い、このくらいの大きさの包みを渡しているのを確認しました。それを後日、公爵家令息は闇市に売りに出していました」


 私は手のひらで包みの大きさを示す。


「闇市に?何でまたそんなところに……」


「闇市はお金がすべてであり、この国にしかないものを買い取って他国に流すのが主な仕事です。この国にあって他の国にないもの、そして売りさばくのに充分な品物といえば……魔石くらいではないですか?」


「確かにその言い分は理解できますが、それがうちのルミエが盗ったという証拠にはならないでしょう」


 ルトバーン商会長はまだ私たちの意見を信じていない。こんな子供の意見などそうそう信じないのは当たり前だ。それは想定内である。


「ルミエは大家族の末っ子で、決して裕福ではなく小さいうちから働いていると聞きました。その仕事ぶりが一生懸命で素晴らしく、すぐに魔石の在庫管理の担当になり、今は上の立場の責任を負っていますよね」


「ああ、魔石のみの在庫管理担当ではあるが、彼女の働きぶりは大人顔負けですから。計算も早いし文字も書ける」


「彼女のつけた帳簿などのチェックは?」


「最終的には私です」


「それは、直接売上などと照らし合わせてですか?」


「いや、計算のミスがないかはチェックするが……」


「魔石の在庫管理は厳しいと聞きましたが、今魔石を数える担当は?」


「ルミエだけですが」


「商会長は直接数えてないんですか?」


「あぁ、信頼していますから」


「いつから数えてないですか?」


「ルミエの有能さがわかってからだから……もう4年ですね。……まさか」


 ルミエがルトバーン商会に来たのは8歳。今年で14歳。ギルバートと同じ歳。4年前ということは彼女は10歳。私たちはまだ7歳の頃だ。私が転生する前から在庫管理はルミエ一人に任せられていた。



「逆にお聞きしますが、平民の、しかも裕福でもない末っ子の娘が公爵家令息に渡し、それを闇市で買い取ってもらえるようなものって何があると思います?しかも複数回」


「平民でも宝石の1つくらいは持っていたりしますが……彼女はうちの住み込みなので、家に帰ることもないでしょうし、売れるもの……思い付きません……」


 ルトバーン商会長が下を向き頭を抱え始めた。


「そんな、あのルミエが……」


「商会長、まだ私たちは直接証拠を掴んでいません。なので魔石の数を数えることはルミエがやっていないことの証明にもなるはずです」


 そう、やっていないのならやっていない証拠として私たちに突きつけてくれればいい。ただ、合わないとなるとルトバーン商会が大ダメージを食らう。確かにゲームではジェイコブルートでの解決する事件ではあるけど、あと4年も先の話だ。このまま見て見ぬふりが出来るはずもない。ずっとお世話になってきて、ルトバーン商会もフレデリックも大切なんだ。大切な人たちがそんな被害を受けてほしくない。



「……本来なら、ジュベルラート公爵様を通さなくてはいけない案件ではありますが、ドロレス様のおかげでうちの商会が潤ったのも事実です。今回は【魔石の定期的な個数点検】ということで、私とフレッドでやりましょう。1週間後、また来てもらえますか?」



「「ありがとうございます!」」


 再び私とジェイコブが頭を下げ続けると「頭を上げてくださいっ!」とオロオロする商会長がいた。









 そして一週間後。

 再び私たちはルトバーン商会に来ている。今回はフレデリックも同席だ。


「ドロレス様。数を確認いたしました」


 どうだった?ちゃんと数は合ってた?ゲームのあの窃盗事件なの?それともルミエは関係なし?


 確たる証拠もないのに商会員を疑った私にはそれなりの責がある。もし何もなかったら、私は彼女に最大限の支援をしよう。





「……数が合いませんでした」


「!!!」

「やはり!」


 私の不安な予想が当たってしまった!!これがきっとジェイコブルートの窃盗事件なんだわ。恐らく私が言わなければ魔石の件は誰も気づかなかったはず……。そしてこのままルトバーン商会が被害に遭っていたかと思うと想像しただけで寒気がした。


「正直全く信じていませんでした。1、2個なら数え間違いもあるだろうと思いましたが、2回数えて26個も足りませんでした」


「そ、そんなに……」


 思っていた以上の数字に私たちは驚愕した。魔石の1個はとても価値が高い。ルトバーン商会では今1000個近くの魔石を管理しているそうだが、そのうち26個も無いなんて……。失くしたとかのレベルではない。


「お忙しいところありがとうございました。ただ、まだルミエには問い詰めないでください」


 ジェイコブがそう切り出した。その内容にルトバーン商会長は疑問を抱く。


「なぜです?」


「これはルミエの直接的な証拠にはなりません。このまま問い詰めた場合、『魔石がなくなった』というだけであり『ルミエが盗った』理由には出来ないです」


「む……しかしこのままだとまた盗られてしまうのではないですか?」


 ルトバーン商会長は渋い顔をする。


「実は、12月のアレクサンダー殿下誕生祭の日に二人が会う約束をしています。公爵家令息……正直に話すと僕の兄上なのですが、彼は訳あって社交界パーティー以外は出られません。その二人が会った後に、もう一回在庫の数を数えてほしいのです。それが少なくなっていれば確定です。その時は僕たちが彼女を問い詰めますので、同席をお願い致します」


「しかし、これは私たち商会の話であって……」


「僕の兄上の話でもあります。そして次期宰相の予定である兄上がこのようなことをして許せるわけがありません」


「わかりました。ですが、何かいい方法でもあるのですか?」


 ルトバーン商会長が聞くと、ジェイコブはニヤリと片方の口角を上げた。


「もちろん。最後の最後まで、細部に至るまで計画を立てています」








 ……ジェイコブこわっ。







 帰り際、フレデリックに声をかけられた。


「ドリー、あのさ」


「なに?どうしたの?」


 フレデリックは何かを言いたそうにしているも口にしない。いつもまっすぐに正直に話すのにどうしたのかしら。



「あのさ!……この間は疑ってごめん。ドリーのこと、好きだとか言っておきながら信じることができなかった」


「いいわよ、フレッドにとって自分の家族のような人たちを私は疑ったんだもの。当然だわ」


 フレデリックが疑うのは当たり前であり、外野である私が商会員を窃盗の犯人だと名指ししたのだ。フレデリックが謝る理由など一欠片もない。


「それでも、俺はドリーのことが好きだからドリーを信じるべきだった。……まだまだ俺もダメだなぁ。全然大人になれないや」


「フレッド、大人になるにはまだまだ早いわよ。何歳だと思ってるのよ」


 いくらこの世界が精神年齢が高くても、まだ11歳だ。大人になれるわけがない。日本ならまだ反抗期すらなっていない。そんなこと言ったらギルバートは一生大人になどなれないわ!


「とにかく、俺はドリーが1番だからさ……今回は本当にごめん……って!!」


「これで許してあげるわ」


 頭を下げたフレデリックのおでこに軽くデコピンした。手のひらでおでこを擦っている。


「痛ぇ……」


 そう言いながらもお互いが吹き出して笑った。ああ、やっぱりフレデリックといると心が落ち着く。とても楽しい。



「二人とも。とっっっっても仲がよろしいようで!」


 壁にある柱からジェイコブが頭から足までぴったり半分だけ出し、こちらを覗いていた。あれ?!先に帰ったよね?!


「馬車を入り口に回してるので戻ってお茶でも飲もうと思ってたら……僕は何もみていませんよ、二人のイチャイチャなど」


「ち、ちょっと!イチャイチャなどしていませんわ!」


「はは、やっぱりそう見えました?」


「フレッド!誤解!誤解されるから!ジェイコブ様どうか誰にも言わないでください……」


 何故か否定をしないフレデリックに対し、余計なことを言うな!と私は彼の口を手で押さえる。フレデリックは真っ赤になって私の手を剥がそうとする。


「じゃああの料理店にまた連れてってください。今度はランチの時間帯がいいですねー」


「わ、わかりましたわ!必ず行きましょう!」


 慌てふためく私とフレデリックを横目にさらっと交換条件を突きつけてくるジェイコブ。それくらいならやるわ!

 するとジェイコブが私の方に寄ってきて耳打ちする。


「僕はちゃんと、ドロレス様じゃない人を推しましたからね、感謝してください」


「え、それって婚や──」


「僕はドロレス様に助けられましたから。ドロレス様は立場的に有力ですけど、望んでいなさそうでしたので。いくら主が偉い人でも、僕は僕の思うままに事を進めたいと思います」


 もしかして……アレクサンダーの側近のあなたが、婚約者候補に私以外を推薦してくれたってこと??そう聞き返す前に彼は私の耳元から離れ、部屋の方へ向かった。


「ジ……ジェイコブぅぅ~~~~~!」


 うわーんなんて良い子なのーー!!もう何度でも料理店に連れていくわよ!むしろ住む許可出すわ!!

 部屋の中に入ろうとするジェイコブに思いきり駆け寄って後ろから抱きついた。ジェイコブがすごくビックリしてるけど今だけ許して!


「ありがとうありがとう!私の人生が切り開ける可能性が増えたわ!」


「ドリーわかったから離れて!俺だってまだなのに」


「ドロレス様、苦しい……死ぬ……」


フレデリックが私をジェイコブから引き離そうとするも、私はそれどころじゃない。


「塵も積もれば山になるのよ!ジェイコブ様!これからもよろしくおねがいします!!」


「わ、わかりました…から……腕を」


 シナリオ補正で結局婚約者になるのかもしれないと諦めかけてたのに、こんなところに味方がいてくれたとは。しかもアレクサンダーの側近じゃん!超強力!!そうよ、少しずつ塵を集めて山にしていけば良いのよ!嬉しい。


 そのすぐ後に、ヘッドロックをかけてしまったジェイコブにしばらく謝り続け、料理店へ一緒に行く約束をして別れた。未だにアラサー気分が抜けていない私からしてみれば、ジェイコブは弟のようにかわいいくてつい抱きついてしまったよ。ごめんね。





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