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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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54.お子様ランチって何故にあんな魅力的なのだろう

「うぉぉ」

「わぁぁ」



 子供二人が目を輝かせて目の前のプレートを見る。試行錯誤を重ねた【お子様ランチ】だ。

 ご飯を真ん中に少なめに盛り付け、その回りにそれぞれ小さいハンバーグ、フライドポテト、卵焼き、りんごを添えてある。ハンバーグの下にはキャベツのバター炒め。トータルでも大人の量より少ないので、子供でも十分満足だ。大人用のハンバーグには入れてないにんじんのみじん切りを混ぜ込み、これで玉ねぎとにんじんの野菜が取れる。



「見て!僕のご飯の上に剣の旗があるよ!」

「私のはうさぎさんだよ!」


 子供たちはキャッキャと喜んでくれた。お子様ランチの概念もないから食事に旗がついているなんてビックリするだろう。


「あら、これはさっきの【折り紙】じゃない?こんな細かいのも折れるのね」


 プレートの端には折り鶴を添えた。前世で幼稚園の子が入院したとき、みんなで千羽鶴を折ったことがあるんだけど、子供たちが折る分で千羽になるわけないじゃない?どうしてたかって?幼稚園の先生が手分けで折るのよ!苦行かと思うくらいキツかったわ!だから、百羽二百羽なんぞすぐ終わるのよ私!


「そうです、こういうのも折れます。しかも指先が器用になると頭の回転にもよくやりますし、ボケ防止にも効果があるんです」


「じゃあうちの旦那にも折らせるわ!」


「……はい」


 旦那さん!弱い!!この世界の旦那さんは皆こうなのか?!このゲーム開発した人は旦那さんを尻に敷く女性が開発したのか?!旦那さん二人の顔が『これ以上やめて……』と私の目に訴える。すいません。


「おまたせしましたー。【豚汁定食】2つ【ハンバーグ定食】【しょうが焼き定食】です」


「待ってました!ハンナおすすめ【豚汁定食】!」


「うちの旦那が頼んだ【しょうが焼き】も良い匂いがするわ~」


 みんな食べ始め、歓喜の声が上がる。全てがご飯に合うおかずなので、箸が止まらない。


「……米のおかわりはあるか?」


「ええ。追加料金ですが可能ですよ」


 サマンサが金額を伝えると旦那さんたちがほっとする。


「あら、その金額で良いの?じゃあもう一杯旦那と、私も頼んじゃお」


「うちも夫が『食べたい』って目で訴えてるからお願い」


「かしこまりました!」


 旦那さんは尻にしかれているけど、ロレンツのところと同じでなんだかんだ仲良しなのね。良かった良かった。



「ねぇ、うちの子何も気づかずにハンバーグ食べきったわよ」


「うちもよ!『うめーうめー』言ってただけ。ビックリよね。今までの苦労はなんだったのよ全く……」


 食事後、もう1枚残った折り紙でダニエルが子供たちの相手をしていると、コーヒーを飲む親たちが話していた。とても良い反応だ。



 厨房からロレンツとアンが出てきて、ハンナと共に挨拶をする。


「今日は来ていただきありがとうございました。また来ていただけると嬉しいです」


「あらやだ、あなたが作ったの?!若いのにすごいじゃない!とっても美味しかったわ。絶対にまた来るわよ」


「もちろん!違うメニューも食べに来なくちゃね。うちの子もあなたみたいに素敵なお嬢さんに育ってほしいわ」


 アンは照れくさそうに顔を赤くしてお辞儀をした。その横でロレンツがアンの頭を撫でる。


「昼食と夕食の間には【カフェタイム】もやるわよ。とっても美味しい甘いものが食べられるから、是非来てね」


「あらハンナ、それ初めて聞いたわよ!明日も来なくちゃいけなくなるじゃない」


 そういいながらも楽しそうに話す知り合い家族は大満足で帰っていった。帰り際に子供たちからの「折り紙買ってー」が聞こえたので、きっとそちらも上手くいくだろう。




 それを見送ったロレンツは、ハンナと共にお父様の近くまで行き深く頭を下げた。


「まさか本当に、夢のまた夢である料理店を出すことができると思っていませんでした。ジュベルラート公爵様には頭が上がりません。何もかもお世話になりました。本当に、本当にありがとうございます」


「うちの夫の夢を叶えてくださり、ありがとうございます。より一層頑張っていきますので、これからもよろしくお願い致します」


「あの……私も、こんな素晴らしいご夫婦の元で働かせていただけるなんて想像もしていませんでした。ありがとうございます」


「私も!行き遅れになるところでした」


 アンとサマンサが駆け寄り、同じく頭を下げた。


「……俺も」


 ロレンツの後ろからひょっこりと現れ頭を下げるダニエル。


「いいのいいの。私の役目は、公爵領のみんながより良い生活をすることだ。働きたいものがいて、やる気があって、夢があって。それに見合うだけの能力があるなら、私が権力を使わないなんてもったいないだろう。……ということで、頭を上げてくれ。君たちにはもっと繁盛して税金を納めてもらわなきゃ。頑張りなさい」


「「「「「はい!」」」」」








 こうして無事にお祝いパーティーを終わらせて、いよいよ今日がオープンだ。



「俺が緊張する」

「なぜ?!」


 今日はフレデリックとエミー、ウォルターを連れてきた。なぜかフレデリックが緊張している。どこにその要素があるの?!



 エミーには平民の店だと伝えた上で「来てみる?」と聞くと速攻で参加の返事が返ってきた。子供の折り紙用に別で小さなテーブルが用意してあり、自分達の食事後はそこで一緒に折り紙の折り方を手伝ってくれる約束だ。ちなみに私もエミーも今日はお忍びファッションである。


「ってゆーか俺の方が緊張するんだけど。貴族令嬢二人と大商会の息子と孤児の俺って、おかしくないか?」


「ウォルト、今日は今月のあなたの誕生日のお祝いでもあるわよ。私の奢りだから。ってゆーかあなた今まで私のこと貴族として扱ってくれてたわけ?」


「いや」


「そこはせめて『はい』って言うのよ!奢らないわよ」


「うわ、貴族のくせにケチだな」


「私のどこがケチなのよ」


「フフフ、なんか楽しいですわね」


 エミーが笑いながらも店内に入ることを心待ちにしているのを感じる。



「しかし、ギリギリ1回目で入れそうだ」


 まさかの私たちの前に十数人並んでいて、みんな大人たちだ。ちょうど昼食前の時間帯ではあるが、早めに休憩を取る人もいるのだろう。興味津々な会話が聞こえる。


「俺の知り合いが昨日試食したらしいんだけど、めちゃくちゃ美味くて米のおかわりしたっていってたぞ」


「まじかよ。聞いたことない調味料使ってるって言ってたけど、大丈夫かよ」


「私、無難にサンドイッチにしようかしら……」


「それなら別の店でも良いじゃん」


「店の中からめちゃくちゃ良い匂いがするのよ」




 店がオープンすると全員が席についた。ダニエルも料理の説明に加わっているし、お薦めの仕方がプロ。「これはご飯がおかわりできちゃいます。こっちは口の中で肉の旨味がブワーっと……」と説明し、お客さんが唾を飲み込む音がする。


 私はしょうが焼きにし、他のメンバーも好きなものを頼む。え……エミー、ロコモコ丼にしたの……?大丈夫?


 次々に料理が運ばれてくる中、早速食べ始めた人たちからは叫び声が聞こえる。


「うっま!!」

「初めてだこんなの!」


 次々に嬉しい声が聞こえてくる。今店内にいるのは仕事をしている男性が多いので、ガツガツと食べ、あっという間に平らげていた。



「美味しいですわ。スプーンで食べるのも楽しいですわね」


「いやー、こんな料理が世の中に存在するのか!」


「孤児院に戻れなくなりそう」


 一緒のテーブルの他の三人も、美味しそうに食べている。エミーは恥ずかしげもなくロコモコ丼を食べていた。


「私の母親は平民だと前にお話ししましたわよね?どちらにしろ高位貴族ではないので、たまにお母様が料理をしてくれるときもあるのですよ」


「なるほど。それでこういう食事にも抵抗がないのですね」


 そういえばそう言ってたわ。納得。




「美味かったよ嬢ちゃん。またくるぞ」

「次は違うのも食べるわ」


 サマンサが会計をすると、次々に話しかけられていた。サマンサも少し照れながらもまた来てくださいと笑顔で見送っていた。




 お昼の時間になり、子供を連れた家族が次々に来店した。どうやらハンナの知り合いから聞いたみたいだ。

 料理提供までの時間は私とエミーで折り紙を子供たちに教え、フレデリックとウォルターが親にその折り紙の話をする。


「やだもう、こんな男前の子達に言われたら買いにいかなくちゃ!」


「来週なの?うちの子落ち着きないからずっと座っていられる折り紙は是非とも欲しいわ」


 ……10歳で顔が商売に役に立つあの2人は一体何者だよ……。


 お子様ランチはここでも反応が良く、旗にも興奮している。親が頼んだメニューも、初めて食べるものばかりだからか楽しそうに会話が弾んでいた。




「とても楽しかったですわ。私、子供たちと遊ぶのがこんなにも好きだなんて今日まで気づかなかったです。旗に描いた絵もあんなに喜んでくれるなんて、お父様にもすぐ報告いたします」


 エミーはとても喜んで帰っていった。

 店から少し離れた所に停めていた馬車で、ウォルターとフレデリックを送る。

 その中で、おそるおそるウォルターが話し出す。


「フレデリックさん、あの、もしまだ大丈夫なら、12歳になるときにルトバーン商会で働かせてもらえますか?」


「呼び捨てで大丈夫。その話は親父に通してあるから大丈夫だよ。計算と読み書きはできるようになった?」


「うん、出来るようになったよ」


「じゃあそのつもりでね」


 うなずくと同時に馬車は孤児院に到着し、ウォルターは降りていった。




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