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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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53.プレオープン

「お父様、お母様。あらかじめ言っておきますが、お米と一緒に食べるための料理なので貴族と全然違いますからね?」


「わかってるから。私だって平民の料理くらい勉強してるぞ」


「そうよ、もう何回言うの?私と夫はお忍びで平民の料理店に行ったことだってあるんだから」


 暖かくなってきた五月の半ば。

 今日はついに、明日開店を迎える料理店のお祝いパーティー。ロレンツが招待してくれて、我が家でも足を運ぶことにしたのだ。


 貴族の食事とは、おかずと一緒に主食を食べない。おかず自体が主食だから、薄味で、フルコースみたいなのよ。そんな人たちが【ご飯と共に食べるおかず】を食べたら確実にしょっぱいと言うだろう。なので馬車の中でずーーっと注意点として言い続けていた。




 今日は、お祝いパーティーとは言うものの最終チェック。注文の取り方、注文の仕方、料理の提供スピード、会計などの一連の流れを全て行う。これがちゃんと出来なければ、店が成り立たない。

 私たちの他にも、ロレンツの妻であるハンナの知り合いの家族2組に声をかけていた。それぞれ5歳と4歳の子供がいて、お子様ランチの練習にもなる。



 しばらく走ると料理店の前に着いた。両親とお兄様が降りて私も降り、店のドアを開けると大きくて明るい声が店内に響き渡った。


「「「いらっしゃいませ!」」」


 とても元気な声に、前世の居酒屋やラーメン店を思い出す。懐かしいこの感覚。 

 今日の最終チェックでは、私たちだけは知り合いとして対応しないことにしている。平民向けの店だけど、貴族が万が一来たときに、ちゃんと対応出来るのかを見るためだ。



「4名様ですか?こちらへどうぞ」


 席に案内され、サマンサが水を運んでくる。なんと案内はダニエルがやっていた。あれだけヤンチャだったダニエルが敬語で対応している。すでに感動が止まらない。


 注文はサマンサが取る。


「この【ロコモコ丼】はなんですか?」


 お父様がわざとらしく聞く。


「こちらは深めの器に入っています。下にご飯が入っていて、その上に【ハンバーグ】という肉を細かくした後に野菜を混ぜ込み再度丸めて焼いたものが乗ります。その他にキャベツを軽く炒めたものと、目玉焼きが乗り、ソースをかけています。器を持って、スプーンで食べます」


 しょうが焼きにもキャベツを使うので、レタスではなくキャベツを乗せることにした。はじめのうちはコストを抑えるって大事よ。

 なぜ食べ方を説明するかというと、貴族に【丼】なんて別世界の食べ物だから。知らずに注文して来た丼を見たら『なんだこれは!こんなもの下働きが食べるものだ』なんて言われたら面倒じゃん?だから予め伝えるの。


「【しょうが焼き】は?」


 お母様も同様に質問する。


「【生姜】という香辛野菜を使っています。風邪や体が温まるという効果のあるもので、それと複数の調味料に漬け込んだ豚肉を焼いていて、添えたキャベツと共に召し上がってください。主食のご飯が進みます」


 サマンサが完璧すぎてこれまた感動。


「僕はハンバーグにします」


「私もハンバーグで」


 私とお兄様がハンバーグ、お父様がロコモコ丼、お母様はしょうが焼きにした。お父様、本当にロコモコ丼で平気?丼だよ?




 しばらくすると、順番に料理が運ばれてきた。全員のが揃ったところで食べ始めた。料理を運んできた段階で箸やスプーンなど使うものを説明してどれにするか聞くスタイルなのだが、お父様はスプーン、お母様はなんと箸を選んだ。お母様、箸使えるの?!


「米なんて久々に口にしたなぁ。このハンバーグの肉汁がジュワッと噴き出して米と合う!卵を崩したら、あぁこれもまた絡んで上手い。キャベツと一緒に口に入れると、さっぱりするから一気に食べられるぞ」


「こちらのしょうが焼きも、少しピリッとした感じと濃いめの味付けがお米がすすみますわね。こちらもキャベツと食べれば栄養も取れるわ」


「ハンバーグ美味しい。今度うちでも出してよ」


「いいぞー!ギャレットに頼むか。たまには米も食べたいもんだ」


「この食べ方見られたらメイドたちに怒られるから、たまにですわよ?」


 等と言っているけど、お父様とお母様が想像以上にガツガツ食べていることに私はビックリしている。お母様なんて普段おちょぼ口で食べているのに、今日はしょうが焼きとキャベツを一気に箸で大きく開いた口の中に放り込む。驚いているのは私だけじゃない。調理場から顔を覗かせるロレンツとハンナも「えぇ?!」って顔をしている。


「えっ……お母様……結構、食べますね?」


「あら。何度も言ったじゃない。私たちお忍びで平民の店に行った、って。それに私今日コルセットつけてないわ。久しぶりにたくさん食べられるのよ。公爵邸では少ししか出ないから、たまに思いっきり食べたくなるのよね」


 お母様ってそういう感じだったんだ!知らなかった。いつもはおしとやかにうふふと笑って優雅に紅茶を飲む姿しか知らなかったから……てゆーかコルセット無しでそんなに細いの?!どうなってるのその細さ!


「ニーナのこういう貴族らしからぬところに惚れてしまってねー、貴族の時と、そうでない時のギャップを愛してしまったんだよ」


「まぁ、トニーったら。そんなあなたも愛しているわ」


 ……なんだろう、まだ甘いもの食べてないのに甘い空気が店内を充満させている。


 そんな空気の中、ハンナの知り合い夫婦が2組来店した。それぞれに男の子と女の子がいる。


「あらいらっしゃい!」


「ハンナ、ようやく開店するのね!おめでとう!」


「楽しみにしてるわよ」


 ダニエルが席に案内し、サマンサがメニューの説明をする。


「【お子様ランチ】はお子様だけの特別メニューです。いろんな料理がたくさん乗っていますが、大人の料理に比べて少なめになっていますので安心してください」


「それは助かるわ~」


「えっ!僕のは特別なの?」


「そうよ、子供しか食べられないのよ」


「それにする!」


「私もおこさまらんち!」


 夫婦も同じように食べたいものを注文すると、ダニエルが折り紙を持ってきた。


「これなーに?」


「これはね、【折り紙】っていうの。今からこれを作るんだよ」


 そう言ってダニエルが手にしたのは猫の顔をつけた折り紙だ。


「猫ちゃんの顔かいてある~」


「こっちで一緒に折って顔を描こう」


「うん!」

「僕も!」


 ダニエルは二人をつれて、そばの小さなテーブルで折り紙を始めた。その間にサマンサは親たちのテーブルに行く。


「お子様たちって野菜は食べますか?」


「全っっっ然!何度言っても食べないわ。にんじんもピーマンも玉ねぎも」


「ちなみに【お子様ランチ】にはにんじんと玉ねぎの入ったハンバーグですよ」


「あらそうなの?あの子達食べるかしら?」


「無理でしょ。絶対食べないわよ」


 ハンナの知り合いの奥さんたちは口を揃えて言う。さて、どうなるかしら?


「それにしても……料理店に入ってもいつも大人しく座っていないから、今日はゆっくりできるわぁ」


「うちもよ!あの色のついた紙、見たことないわよね?」


「あれは【折り紙】と言って、折るといろんな物が出来るんですよ。花とか動物とか。来週にルトバーン商会から出ますよ。価格も安価ですわ」

 席を立ち、私はその家族たちのところへ説明をしに行った。


「へぇー、あれを渡しておけば目を離しておいても大丈夫そうだわ。他の色もあるの?」


「ええ。全部で10色あって、折り方の本も販売しますわ。字が書いていないから、子供でもわかるはずです。これ、そのうちの一枚をルトバーン商会から頂いてますの」


「あのルトバーン商会からなんて、お嬢さんすごいねー。確かにこれは分かりやすい」


「安いならありがたいわね。……あなた、どうしたの?」


 それぞれ隣に座る旦那さん二人はずっと黙ったままだ。何か嫌いなものでもあっただろうか?


「……あちらに座っているのは……ジュベルラート公爵様で、こちらの方はそのご令嬢様だよ……」


「「えっ?!!」」


 ガタッと席を立ち上がり、奥さん二人は頭を下げる。


「も、申し訳ありません!失礼な態度を!」


「ハンナ!今日来るってなんで教えてくれなかったの?!」


「そういえば言ってなかったわ」


「「ハンナ!!!」」


「あ、あの大丈夫です。頭を上げてください。それにうちの父を見てください……あれどう見ても貴族として来ていないの、……わかりますよね?」


 私がこっそり向こうのテーブルを指せば、お父様は口にソースをつけながら大きい口でロコモコ丼をほおばっている。恐る恐る顔を上げてお父様のほうを見る奥さん二人。


「ぷっ……、あ、すみません。あまりにも美味しそうに食べるもので……」


「うちの息子と同じ……」


 二人で顔を見ながら笑いを堪えている。


「そうですよね?今あんな感じなので、無視して大丈夫ですわ」


「「……わかりました」」


 納得できたのか、彼女たちは席に座った。


「ママ!見て!猫ちゃん」

「僕のも!」


 それぞれの両親に自分の折り紙を見せ、満足げに席に戻ったところで、【お子様ランチ】の登場だ。



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