52.折り紙
いつもよりは短いです
「私……初めてですので緊張しますわ」
「大丈夫!エミー様はこれの良さと、取引の希望を伝えるだけよ。あとは私が全部やるから」
今、私とエミーはルトバーン商会の応接室にいる。
遡ること2週間前。
料理店で孤児院の子供たちと掃除をした帰り、エミーから手紙と箱が届いていた。
私が前にお願いして、2年越しに完成した【折り紙】。やっと!出来た!完成品が届いたのである。
エミーの家、ブラントレー子爵の領は紙の生産が主な収入源。しかし表面が重要書類に使えないようなザラザラの加工技術であり、そのせいで取引が少ない。いわゆる貧乏貴族だ。
だけど8歳の誕生日会に持ってきたそれは、和紙のような紙だった。これならば、文字を書かずに紙で遊ぶ事なら出来る。そして取引が出来るなら子爵家も万々歳だ。
だからエミーには『異なる色を10色作ってほしい。形を四方同じ長さに出来る?』と持ちかけたのだ。それにエミーが了承し、やっと今年完成した。綺麗な色をつけるのにずいぶんと苦労したらしい。
その折り紙の取引を、ルトバーン商会に持ちかけるためにここに来たのだ。そしてエミーも連れてきた。ここに来る前にうちで折り紙の使い方をエミーにも教えた。
「お待たせしました。ドロレス様、そしてお初にお目にかかります、ルトバーン商会長のデニス・ルトバーンと申します」
「初めまして。ブラントレー子爵家長女、エミーと申します」
お互いが立って挨拶をすると、すぐに椅子に座り、早速商談だ。
「ドロレス様。今日はどんな儲け話ですか?」
ルトバーン商会長が最近はもう表の顔を消し去っている。完全に【儲け話が聞きたいただのおじさん】だ。
「こちらをご覧ください。これは【折り紙】と言います」
「【折り紙】ですか。色が付いた紙なんて使うことあります?」
「この紙は『書くため』ではなく『遊ぶため』に存在するのです」
「……ほう」
ルトバーン商会長の目が変わる。光った?一瞬光ったよね?
「まずは私がやりますので、見ていてください」
そう言うと、手元の紙で鶴をおってみる。みんな必ず折ったことのある鶴。あっという間に出来た。私の幼稚園の先生スキルを活かせる!!幼稚園でどれだけ折ったと思ってるんだ!もはやプロよ、私?
「おお。素晴らしいですな」
「あともう1つ。……はい、これは船です。この帆の部分をつかんでください。そして目を瞑ってもらって良いですか?…………はい、じゃあ開けてください」
「あ、あれ?私は帆を掴んでましたよね?えっ?」
……大の大人の男が、初歩中の初歩である折り紙のだまし船に驚いてるのって新鮮すぎる。
「他にもたくさん折れます。無限大です。もちろんこれは子供でも折れます。親が働いている間や、大人同士で仕事の大事話をするために少しの時間だけ静かにしてほしいとき、1枚渡すだけで夢中で折ります。沢山の折り方を記した本も売るのです。文字がなくても、絵で書けば子供は読めます」
「なるほど……。子供にも大人にも都合が良い、と」
「ええ。ですが、これは子供だけの物ではありません。指先を使って折ることによって手先を器用にする練習にもなりますし、年配の方は脳を活性化させ、ボケ防止になります」
「ほう。宣伝方法は?」
「5月に私の知り合いが料理店を開くのですが、子供向け料理も出します。注文した子に2枚ほど無料で配布をし使ってもらおうと思っています。そこでの反応を確かめてルトバーン商会で販売をしたいな、と。あとはよろしければ店舗に私の折ったものを飾らせて、『こういうのが折れます』という見本を作る。どうでしょう」
「そういうのがあれば分かりやすいですな」
「それに1回折った紙を元に戻して使うことはないので、買った紙がなくなれば、また買いに来ます。子供がいる家庭が主なターゲットですね」
エミーも真剣に商売をする。その後も色々と【折り紙】の販売方法や仕入れなど、詳しい話をした。
「よし、試しに3ヶ月だけ取引してみましょう。販売は5月の料理店オープンの1週間後。期待してますよ。宣伝」
「任せてください!」
「ありがとうございます!」
トランプの時のように、自身が体験していないのできっと慎重になったんだろう。それでも取引が出来るようになった。頑張って宣伝しなきゃ!
「エミー様は絵が得意なので、私が教えた通りに折り紙の折り方を描いてもらい、それを複製して販売しましょう。そのうちひとつだけ簡単なものを料理店で配布します」
「もちろんですわ。私も手伝います!」
「その原本を持ってきてくれれば複製はこちらで行いますから安心してください。エミー様も初めてにしては良い商談でしたよ」
「ありがとうございます……」
少し照れくさそうにエミーは頬を染めた。うん、とてもよく頑張ったわ。エミーは本当にまだ子供なのだから。私みたいに中身がアラサーじゃないものね。
私はその後いくつか難しいものを折ってルトバーン商会に置いていった。
数日後、『どうやってこうなったのかが知りたい』と商会員たちが折り紙をバラし、元に戻せなくなった、と謝罪の手紙が来た。
エミーには再び我が家に来てもらい、折り方を記すための本を作っていた。
「エミー様、本当に上手ですね」
「上手かどうかは別として、描くのが好きなんですの」
「……今から私がこの折り紙を切るので、ここにかわいいものを1個ずつ描いてもらえませんか?」
「え?かわいいもの?いいですけど、何に使うのですか?」
こんなところに天才がいた。むしろ私よりチート。子供たちが100%喜びそうな絵柄だ。
「今度出す料理店で、子供用の食事を出しますの。ご飯の上に旗をさして可愛くするのよ」
「それは素敵ですね!それなら、男の子用と女の子用でそれぞれ描いた方がいいですわね」
「賃金は払うので、結構多めに描いていただきたいのですが……量はこのくらいで……」
「いいですわよ。私、絵を描くのが好きですからこの程度なら全く苦ではありませんわ」
そう言ってエミーは可愛らしく胸の前でガッツポーズをした。かわいいなぁ。
旗に描く絵を決めたり、折り紙本の目標の3分の1まで描き終わり、今日はお開きになった。
「お土産ですわ、エミー様」
「まぁ!ロールケーキではありませんか!嬉しいです!!これは頑張らなくてはいけませんわね」
「また何回か来てもらう形になるけどよろしくお願いするわ」
「ええもちろん!」
こうしてエミーは帰路についた。
私ももっと折り紙の折り方を思い出さなくては。
今描いてもらっているのが初心者向け、それとは別に上級者向けの本を作る。これなら、子供がいる人は両方買う可能性がある。二重で儲けが出るはずだ。商売って楽しいな。
夕食が終わると部屋に閉じ籠り、ひたすら折り紙の練習をした。部屋の中が折り紙動物園のようになり、おかげで次の日はだいぶ寝不足になってしまった。




