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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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48.就職活動

 年が明けた。

 ルトバーン商会の【ルームソックス】は爆発的に売れた。昨年の手袋が売れたせいか、その効果を実感した人たちが「今年は足だ!」と意気込んでいたそうだ。女性だけかと思いきや、意外と男性にも売れており、サイズの研究余地がありそうだと商会長は言っていた。


 私もフレデリックからもらったあの超可愛いブーツを毎日部屋で履いていて、メイドたちから限定色だと羨ましがられた。もちろん彼女たちも即購入していた。



 12月のアレクサンダー誕生祭……は、なんと私が高熱を出し、行かなかった。ちょっとラッキーとも思ったよ。

 しかしずっと健康だったのにいきなりよ。体感的には39度くらいかな。動けないの、全然。久しぶりにこんなツラい思いをした。


 3日ほど高熱にうなされ、やっと下がって落ち着いてきた頃にお兄様が部屋にお見舞いに来てくれた。そして耳元で小さな声でこう呟く。


「【治癒の力】使えばよかったんじゃない?」















 そうだった!私【治癒の力】持ってるじゃん!使えばあんなにうなされることなかったのに……なんでもっと早く教えてくれなかったのよお兄様。






 そんなこんなで、まだ寒く手袋が重宝される2月。今日は公爵領と王都の境目辺りの繁盛している街に来ている。公爵邸からもほど近く、貴族でなければ歩いて行こうと思えるくらいの距離だ。


 一緒に来ているのはお父様とロレンツ。ロレンツは無事に退職し、新料理長のギャレットの引き継ぎを行っている。




 今日は下見……そう、ついに物件が見つかったのである!


 その物件の前に着いたロレンツから気の抜けた声がする。


「うへぇ……これはすごいですね」


「店自体は小さいけれど、住居スペースがあるから住むところには困らないし、住み込み雇いも出来るぞ」


 中を軽く見ると、しばらく使っていなかったのか埃だらけの店内。でもしっかりとした造りになっているし、テーブルや椅子も埃だらけではあるが傷や傷みはない。店内もとても広く、ゆったりとした時間を味わえそうな雰囲気だ。

 客数は……満席で20人くらいかな。これくらいなら忙しくてバタバタしなさそう。従業員も少なくて済むわ。

 店の奥には休憩室のようなスペースもあるし、一度外に出るとこじんまりした建物が2つある。中を見れば、1つは一家族が普通に住めるようになっていて、それより少し小さいもう1つの建物はアパートのように従業員が住み込みできそうな部屋が複数あった。前に使っていた人が住み込み従業員を雇う目的で造ったのかも。


「これなら嫁さんと暮らすには充分です。従業員も雇えそうだ」



 えっ、ロレンツって結婚してたのね!?あれだけ試食会とかやってたのに全然知らなかった……。




「あの、いきなり聞くのもあれなんですけど……素晴らしすぎるこの物件はいくらですか?私も一応貯金はしていたんですが、なんか……足りない気がします」


 ロレンツは恐る恐るお父様に聞く。ここまで設備が備わってる物件なんて、そう出てこない。だからこそ、私も並の金額ではないことくらいわかる。



「んー、このくらいでどう?」


 お父様は紙に金額を書き、ロレンツに見せる。それを見たロレンツは目を丸くする。


「えっ?!そ、そんな安いわけないじゃないですか!」


 私もちらっと覗けば、破格の金額が書いてあった。いくら放置されていた物件とはいえ、掃除すればいい程度のものだ。私も色々と相場を調べたけど、お父様が提示しているのは相場の3割ほどの金額である。破格!


「これなら貯金が少し余るだろ?」


「確かに余りますが、これはさすがに……もっとしますよね……?」


 明らかに疑っているロレンツ。いや、子供でもわかるくらいの破格だ。

 お父様はまたウーンと唸り、親指と人差し指を顎に当てて悩んだふりをする。ふりである。あれは絶対なにか決定打があるわ。


「ロレンツ。君には公爵家でとても世話になった。厨房の雰囲気も良く、最近はデザートを作り出した。そんなお前が退職して新しい道を踏み出そうとしている。なら、退職金として受け取ってくれないかな?これは、公爵家当主の私の仕事だ」


「で、ですが……もう少しお支払しないと私の気が」


「ならばこうしよう!今後10年、1ヶ月のうち1回、私が家族がこちらへ食事に行ったときは無料で食事を出してもらう、というのはどうだ?それを返済だと思えば割に合うだろ?そしてお前も気が晴れる」


「ジュベルラート公爵様……うぅ、ありがとうございます。あなたには厨房に下働きで入ったときから本当にお世話になりました。そして今回も。感謝してもしきれません。本当に……ありがとうございます」


 涙をこらえ声を震わせ、公爵邸で働き始めたときからお世話になった、と言っていたロレンツはお父様に感謝の意を伝える。

 お父様もそれを笑顔で頷き、ロレンツ料理長の話を聞いていた。


 信頼って、素敵だな。




「何の店を出すんだ?」


「あ………………………………まだ決めていません」


「先に決めとけ!」


 ロレンツはお父様に怒られることになった。










 午後。

 そのままの3人で孤児院へ向かった。今回はいつもの定期訪問ではなく、個人的な話だ。


「アン、仕事は見つかった?」


 12歳になったアン、サマンサと向い合わせで座る。


「いいえ……なかなか住み込みは見つからないですし、あってもちょっと危なそうなところでやめました」


 孤児院は12歳になったら出る。厳密に言えば出なくてもいいけど、12歳になればある程度の仕事先があるのでその歳に出るように促す。だらだらと孤児院で寄付を受け取り、働かずにいる者を防ぐためだ。


「サマンサは?」


「以前ルトバーン商会で雇ってくれるかもしれないとフレデリックさんが話してくれたので、もう少しして見つからなければフレデリックさんにお願いしようかと」


 彼女もなかなか見つからない。男性なら力仕事などたくさん募集はあるが、女性の場合は貴族向けの仕事募集が多く、礼儀がある程度しっかりしていないと受からない。孤児院のみんなには厳しいだろう。

 この二人は誰よりも勉強をしているのは大司教から聞いている。だから就職活動を怠けているわけじゃない。



「あのね、私からの提案なんだけど聞いてもらえる?アンは料理がやりたいって言ってたじゃない?今横にいるロレンツという者が今度料理店を開くのよ。春くらいかな?そこで働く気はない?公爵邸で長く働いていた料理長で、腕はスゴいし身元保証もバッチリよ。見た目は怖いけど全然怖くないから」


 座っているだけなのに、体格から威圧を出しまくるロレンツは申し訳なさそうに頭を下げた。


「見た目がこんなのですいません……。まだ何を出すかを決めていないので、君が求めている食事なのかはわからないけど、それでもよければどうかな?いずれ店を持ちたいって話を聞いたけど、辞めるまでに技術を備えれば絶対に役に立つよ。うちには妻もいるし、安心だと思う。真面目に働いてくれるなら大歓迎だよ」



「そんな好条件で……私は孤児なんですけど、……雇っていただけるんですか?」


「やる気はある?」


「もちろんです!」


「なら問題ないよ」


「あっ、ありがとうございます!嬉しいです!よろしくお願いします!」


 アンは花が咲いたような明るい笑顔で元気良く答えた。


「あのー、料理が出来なくてもそこで働くことってできますか?」


 横から手をあげてサマンサが尋ねる。


「んー、料理店だからなぁ。注文を取るとか、そういうのならあるぞ。君も働きたいのか?」


「私、計算は誰よりも早いです。記憶力もあります。料理はできないかもしれないけど、野菜の皮剥き程度ならやってるんで、……私もそこで働けないですかね?」


 サマンサはそう言った。

 試しに適当な二桁の数字を足したり引いたりしてもらうと、この歳では完璧なくらいすぐに答えが返ってくる。これなら売り上げ計算やお会計にピッタリだ!


「サマンサがいるなら私も心強いんだけど」


「ロレンツさん、ダメですかね?」


「サマンサがいれば、売り上げ計算、会計、税金計算が一気に楽になるわよ。ついでに注文とるのも上手いかも」


 私もフォローを入れる。計算ができる人間は圧倒的に必要。


「いいよ。全く問題ない。ただ、アンだけだったとしても最初は給料の保証ができないから衣食住付きでおこづかい程度の給料になっちまうけど、それでもいい?」


「全然問題ないです!」


「じゃあ決まりだな。5月には開店したいと思っているから、3月には店の部屋に引っ越して、店の準備を始めるぞ」


「「はい!よろしくお願いします!」」
















「アン姉ちゃん……ここを出るの?」







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