44.王族と貴族と平民ごちゃ混ぜ
「まぁ!この柔らかな生地と生クリームの相性が最高ですわ!」
「このフルーツの断面を見てくださいまし!美しすぎます!」
「僕はこの小さいの、一口で終わっちゃいましたー!」
「ドロレス様の誕生日会は本っっっっっっっ当に楽しみにしておりますの!年に一度の楽しみですのよ!」
誕生日会当日。今年も新しい食べ物を開発したおかげで大好評だった。今までで一番かもしれない。口々に私へと報告に訪れる。
今年はアレクサンダーもクリストファーも正式に招待状を送った。だって送らないとまた面倒なことになるじゃない?私の精神の維持のためにあらかじめ送ったわよ。
アレクサンダーは今年の令嬢たちの誕生日会やお茶会に行けるときは行くようにしたらしい。うん、成長したわ。ついでにプレゼントも差別をつけるな、とジェイコブ経由で伝えていたため、無難なものになってくれた。ありがたい。
クリストファーも何回か招待状を受けていろんな令嬢のところに参加している。その話を聞くたびにレベッカがそわそわしていて落ち着かないので、毎回なだめるのに苦労した。しかし、苦労など知らないクリストファー。
「レベッカ様、お久しぶりです。手袋の案をありがとうございました。あれから王宮の図書館で調べて、不死鳥の素敵な絵がありましたので、それを元に縫ってもらったんです。持ってきたので見てください」
「まぁ!とても素敵ですわ。飛び上がる勢いを感じるような素晴らしい刺繍ですね」
「ええ。ルトバーン商会の職人が縫ってくれたんです。お気に入りですよ!あ、レベッカ様、誕生日会の招待状送ってくださいね。なんとかして行きますから」
「えっ!ええっ?!本当ですか?!もちろん、送りますわ!」
なんて呑気に話している。私たちお茶会組のあの慰めに消えた時間を返してくれ!それにしても仲良くなったわね。ゲーム開始後の腹黒は深くならずに済みそう。去年その片鱗を見ちゃったたけど。
そんな私は今、ルトバーン商会の次期商会長であるフレデリックと話をしていた。
「ようやく普通に参加できるようになったわね」
「ほんとだよ、誕生日会に出たいっていったのに2回も出られなかったようなもんだからね」
周りに聞こえないほどの声で話す。
「そうそう【ルームソックス】なんだけど、職人たちが突然やる気出したんだって。何でだと思う?」
「え?手袋が売れたからとか?」
あれだけ頑固に職人魂をぶつけてきたのに、どうして急に寝返ったんだろう。
「それがさ、職人たちの奥さんや娘さんたちに【ルームソックス】の試作を渡して冬に履いてもらったらめちゃくちゃ喜んだらしく、それを見て『靴職人はこんなもの作らない』とは言えなくなったんだって。そして奥さん娘さんに喜んでもらうためにやる気が出たの!面白すぎでしょ!」
「アハハッ!やだもう大きい声で笑っちゃったじゃないの!」
「雇い主の俺たちの意見なんて全然聞かなかったくせに、自分の奥さんたちの意見でコロッと変わるんだもん!女は強いよほんと!」
どこの世界でも女に敵わないのね。そんな簡単に考えが変わるなら、最初から全員の奥さんに意見してもらうように言うんだったわ。盲点だった。
「ドロレス様、私もあの【ルームソックス】を部屋で使いましたわ。冬のあの底から冷えるような寒さ、かなり減ったのでとても良かったですわ」
「あれは革命ですわよ。部屋の中だけにしていたのですが、お母様に見つかってしまって。これがなにかを根掘り葉掘り聞かれたあげく、あれだけ寒いのが苦手なのに『早く冬が着て発売しないかしら!』なんて言ってましたわ。フレデリック様、今年の冬は発売出来そうですか?」
エミーとニコルも口々に教えてくれた。少々の改良点はあったものの、大筋今の試作で問題なさそう。今年の冬は確実に売れるわ。
「はい、間に合いそうです。手袋と同じ3色展開にして、装飾は別注文ですね。……あと、あの……ずっと気になってたんですけど、俺は平民なので『様』は付けなくても大丈夫ですよ」
どうやらずっと気になっていたらしい。え、もう2年経つんですけど今さら?
「フレデリック様。私たち貴族は基本的にお相手の方に対して『様』をつけるのが普通ですの。下働きの者など、立場が分かれている場合はつけないわ。どこかの暴力男にも貴族なので仕方なく『様』をつけますの。ですが学園に平民が来ても私は『様』をつける予定です。でも『様』をつけて呼ぶ人の中にも、きちんと尊敬を込めて呼ぶ方がおります。フレデリック様、あなたのおかげで私たちは冬に手を冷やさずに過ごせました。そして次は足もですよ。さらに今日のロールケーキの型。全部あなたが関わってていますわよね?そしてあのルトバーン商会の次期商会長。あなたに『様』をつけることは全く問題ございませんわ」
「ニコル様、そう言っていただけてとても嬉しいです、……あっ、これ泣く」
「ち、ちょっと!フレッド、こんなところで泣かないでよっ!立ち位置的にいじめてるみたいになるから!」
3人の令嬢とフレデリック。笑顔の3人の令嬢と泣くフレデリック。貴族3人と平民。
この状況をわからない人がいたら確実に勘違いされるやつ!
「ドリーごめん……いつも突拍子もないアイデアを言われて……でもなんとか乗り越えて……でもまた次々と……まさか貴族の方に褒めてもらえるなんて……こんなの涙が止まらないじゃん……あ、止まらないです」
「今ここで敬語にする必要ある?!そしてだいぶ私の悪口あったわよね?私のことよね?!私もいつもフレッドに感謝してるわ!」
結構私のこと悪い意味でぼやいてるんですけど!ごめん!今度は欲しいものがあったらもうちょっと余裕もって言うから!……え、そういうことじゃない?
ニコルの称賛に瞳を潤ませ、上を向くフレデリック。慌ててハンカチを渡す私。そして微笑むだけのニコル。泣かせた責任とりなさいよ、ニコルってば!
「君がルトバーン商会子息なのか?」
後ろにアレクサンダー、ジェイコブとオリバーがいた。今日はオリバーを招待客として呼んでいるので、護衛任務ではない。
「ええそうですわ。フレッド、こちらがフェルタール王国第一王子、アレクサンダー殿下よ」
それを聞いたフレデリックが慌てて頭を下げた。
「おっ、お初にお目にかかります。ルトバーン商会長男、フレデリックと申します」
「フレデリックか……。頭を上げてくれ。今日は王子としてではなく一人の男性として来ているので、あまり堅苦しいのは好まない」
「はい……失礼します」
ゆっくりと頭をあげるフレデリック。それでもまだ顔の緊張は抜けていない。
「ルトバーン商会には大変世話になった。トランプも手袋も、忙しい中、最優先で作ってくれたと聞いた。とても感謝している。父上もそう言っていた」
「も!もったいなきお言葉です!これからも精進して参ります」
「そんなに固くなるな。今日だけは例え非礼があったとしても、僕は全く思い出せなくなるのだ」
アレクサンダーは【私】と【僕】を使い分ける。【私】は王族として大勢の前で話すときなど。【僕】は私たちだけで話すときなどだ。今日はきっと、王子としてではないことを伝えたかったんだろう。王子感半端ないけど。
「また新しいものを期待してるからな」
「おまかせください。より精進いたします」
フレデリックも少し緊張が取れたのか、さっきより柔らかく話した。
「ドロレス様!ロールケーキとてもおいしいです!もう3つも食べました!」
「私は……これで7つ目です」
無邪気に食べる報告をするジェイコブと、手にロールケーキのお皿を持って申し訳なさそうに言うオリバー。
「好きなだけ食べてくださいませ。本日中に食べてくれることを守ってくれるのでしたら、持ち帰っていただいても大丈夫ですわよ」
さすがにこの時期なので、クッキーみたいに常温で保管できない。持ち帰りの提案をするために、氷室にある氷を砕いて皮袋に包んで保冷剤代わりを作る予定だ。
「私も持ち帰ってよろしいですか?……モレーナ様にお土産にいたします」
えっ、モレーナに?!オリバー、少しずつ様に歩み寄ろうとしてるの?良い兆候だわ。後押ししなくちゃ。
「もちろんですわ。いくつでも持っていってください!」
オリバーは少しホッとした顔をする。いきなりの再婚でまだ心で100%は認めていなくても、行動で向き合うように進んでいる。よし、私もアレクサンダーとの婚約を回避するぞ!




