5.フェルタール王国
メイドのリリーが勢い良く飛び出て行った後、お父様お母様も再び慌ててやってきててんやわんやになった。
そう。なぜこんなにみんなが驚いているかというと。転生する前の私ドロレスは、そりゃもう小さい頃からわがまま放題やり放題。
ピアノのレッスンもバイオリンも勉強もイヤイヤイヤ!と、ずいぶん家庭教師を困らせていたそうだった。
それに加えて、お茶がぬるいとメイドに怒鳴り、着たい服は1分ごとに変更しまくる。焦るメイドを見て、早くしろとまくし立てる。欲しいものは手に入るまで駄々をこねる。
そうか、その結果がこのゴテゴテギラギラ部屋なのか。
アクセサリーなんて、何が違うのか良くわからないくらい同じものがたくさんあるのだ。
そんなドロレスが「学びたい」と口にしたのだ。邸宅内がお祭りのようになった。いや、もはやお祭りだった。
さっそく家庭教師のスケジュールを組み始めるお父様。今まできっと大変な思いで勉強の時間を取っていたんだろうな。なんかすみません。
そうして、ドロレスには改めて勉強をする機会が与えられた。
家庭教師を呼んで習う科目は、歴史と現代、計算、読み書き、ダンス、音楽がメインで、後は派生して少しずつ覚えていく流れだ。
歴史と現代。
前世の私は大人だったから言えることなのだが、勉強って意外と楽しい。
学生の頃は面倒で本当に嫌だったのに、大人になるとなぜか楽しくなるこの矛盾。誰かわかってくれないかなー。
───フェルタール王国。
現在、帝国歴638年。
隣国も複数存在するが、1番大きな国である。
戦争は好まない。もししたとしても間違いなくこの国が勝つほど強いので、自らは仕掛けない。それがわかっているからか、隣国から攻めてくることもない。小競り合いは多少あるそうだけど。基本友好的。
昔は魔物がいたそうだが、100年以上前に当時のフェルタール国王が自ら戦の最前線に立ち、魔物の王を倒したそうだ。
その時、魔物の王は国王に呪いをかけ『35の歳になる直前、国王は死す』と残し消えた。
当時34歳だった国王とその側近たちはそんな馬鹿げたことを、と笑っていたが、国王35歳の生誕記念祭前日、突如息を引き取った。
国中が恐怖に怯え、当時まだ15歳だった王太子が教会に出向いた際、一度きりだがお告げを受けた。
『魔物の王が住んでいた洞窟に、1年に1度だけ魔石が生成される。その魔石を7つ集め【治癒の力を持つ女神】を召喚せよ。その者がすべての呪いを解き放つ』
このお告げを聞き、王城内ではあれやこれやと呼び出し方法などを試行錯誤し、7年後、魔石を7つ集め【召喚の儀】を行う。
だが失敗に終わる。
そう、今まで成功していないのだ。
故に、前王も前々王も35歳になる直前で急遽するため、跡継ぎ問題が深刻なのである。
少しでも結婚が遅ければ、王自身が死ぬときに王太子はまだ10歳にも満たないとか洒落にならない。国王を10歳になんて任せられない。なので王族の結婚は早い。18歳の時点で結婚して子供がいないと遅いと言われる。故にこの国の教育も子供の頃から厳しくされている。早く一人目を産まなくてはいけないので、側妃を多数従える王の時代もあった。第一子は必ず男の子が生まれるらしい。
ただし、【召喚の儀】で失敗した魔石はとても人が触れるものではない。あまり公にはされていないが、国王の第1子にのみ【魔力制御】の力が与えられるのだ。
それにより魔石の力を抑える。それでもまだ触るのが難しいため、魔力制御をかけた石留をつけた状態で貴族や平民に配られる。魔石はとても美しいそうだ。
ちなみにその石留に魔力が入っているわけだが、魔石を外せばただの金属になるため悪巧みに使おうとする奴はいない。外せば触れるのが困難な石とただの金属になるだけだもんね。
貴族には1人1つずつ。平民には1家庭に1つずつとなるが、扱いは自由にしていいらしい。
ちなみに魔石を1つ売れば銀貨30枚になる。
平民が家族四人で暮らしたとして、不自由なくたまの贅沢で暮らすなら銀貨25枚らしいので、みんな売るそうだ。
逆に貴族は、平民が商会へ売った魔石を買い取り、アクセサリーなどの装飾品にしていかに多く使ってるか等で見栄を張るらしい。
魔石とは言っても、魔法が使えるわけではない。
そもそもこの国には、魔法はない。
いや、正しくは魔法は【無くなった】。
魔物がいたころは魔法を使えるものもいたが、魔物の王を倒したことにより、人間に【魔力】を必要としなくなったため、徐々に消えていったそうだ。それで今使えるのは【魔力制御】のみ、国王と第一王子だけってことか。
「いいえ、まだ第一王子は【魔力制御】の力は発現していないそうです。今年は7つ揃う年なので、もう王宮内で儀式が行われているとは思いますが、儀式結果は王宮から発表があります。まぁ、おそらく失敗でしょうね。もし成功していたら即発表しているでしょうし」
家庭教師の先生が答える。
「そうなんですね。でもこのままだとあと1回の召喚が成功しないと、現在の国王は危ないですよね?」
「……あまり詳しく話すと不敬罪になりそうなので私の口からはなにも言えません」
……確かに。
もうすぐ国王死にますよね?とか不敬極まりないわ。