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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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43.料理長(仮)


 アレクサンダーの爆弾攻撃事件から半年以上が過ぎた。


 年が明けると行事が減り、穏やかな日々が続く。今年はフレデリックが作ってくれた手袋のおかげで、外に出るときは本当に助かった。平民には無地のまま爆発的に売れた。どうやら王宮からも1人1組の注文があったらしく、ルトバーン商会長がウハウハしていたそうだ。貴族からの注文も多く、大きな口を開けて笑っている商会長の顔が浮かぶ。


 孤児院にも行った。みんな意外と勉強していて、二桁の足し算と引き算、あとは歴史の勉強なども少しした。何度も練習しているせいか紙は少なくなっていて、月の発注枚数を増やすか迷うほどだ。

 私は先生みたいに前に立って教えていたんだけど、やっぱり子供たちに何かを教えたりするのが本当に好きだと改めて感じる。癒し。








 そして。

 私は。

 ついに。

 10歳になる。





 そう。社交界デビューができるようになるのだ!




 ついに!社交界のパーティーにも行けるんだ。1回行ってみたかったのよね!もう王子たちの誕生祭で貴族がドレスを着てわいわいするのは見てるけど、ちゃんとした社交パーティーは初めてなのよ。ダンスをする人は圧倒的に多いだろうし、みんなの優雅なダンスを見ることができるなんて素敵だわー。

 毎年行かなくちゃいけないのが正直面倒ではあるけど。





 ……そんなことしてる場合じゃなかった。誕生日会の試作を確認しなきゃ。



 毎年新しいお菓子というかデザートを出していたら、そのうちネタ切れしそうなのよね……どうしよう。新しいのを作るのは3年に1回にしておこうかな。









「へぇ~。こんなんでお菓子なんか出来るんスか~?」


 ここは厨房。ロレンツ料理長の横でしゃべってる小麦色の肌に薄い銀色の髪をしたチャラ男は、次期料理長(仮)のギャレットである。ああ、略したらギャル。見た目も話し方も名前もギャル男じゃん。


 そんな彼だが腕前は確かなようで、ロレンツ料理長に言わせれば『見た目と話し方が落ち着けば完璧な料理人』と言っている。

 見ていると、確かに動きも早いしてきぱきと行動している。彼の話し方がゆっくりと感じさせているだけなのかも。



「まずはメレンゲをお願いします。角が立つまでです」


「メレンゲってなんすか?」


「お前こないだメレンゲクッキー作っただろ。あれと同じくやれ」


「あぁあれか。了解っす」


 怒られながらも言われたことをちゃんとこなすギャレット。泡立て器めっちゃ早い。



「それとは別に、こっちは残りの材料を順番に入れて混ぜます」




 私、気づいてしまったんだ。

 小麦粉も卵も牛乳も砂糖も油もバターもバニラもある。



 ってことは、スポンジケーキが出来るってこと!!!これで私もさらにチート感出るんじゃないかしら?!

 スポンジケーキが作れるなら、デコレーションケーキもシフォンケーキもいける!



「メレンゲとそれを混ぜて、その四角い型に流し込んでください。そして表面に少し焼き色が付くくらいまで焼いたら取り出して冷ましてください。焼き時間は多分10~15分くらいです」



 クッキーしかないこの世界で型なんかあるかって?私の友達、フレデリックをなめてはいけません。ルトバーン商会は何でも屋です。



ーーーー

「こんな感じのって、どこかで作る方法ない?」


「それっぽいのを作れる工場があるから、そこでお願いしてみるよ」


ーーーー


 なんて会話をしてから約3ヶ月。何度も何度もワガママを言って迷惑をかけ作り直してもらった。そしてようやくこの四角くて平べったい型が出来たのよ。他にもいくつかお願いしてるので、今日のが完成して誕生日会が終わったら工場の人たちに差し入れをする。絶対に。それくらい迷惑をかけた自信がある……。




 焼けた生地を取り出し、冷ます。その間に生クリームを混ぜてもらおう。



「フレンチトーストの時よりもっと固めッスか?おまかせを~」


 ゆるいな。フンフーンと鼻歌を歌いながらギャレットは生クリームをかき混ぜる。彼が話すと、ここにいるときの時間のゆるさを感じる。とは言いつつもギャレットの腕前がすごい。泡立て器をめちゃくちゃ早くかき混ぜてる。あっという間に希望通りの固さになった。



 しばらく雑談をして、生地が冷えたのを確認し、生クリームをその上に乗せる。


「手前は多めで、先の方は薄くして巻いてください……そうです。これで完成です!【ロールケーキ】です!!」



 そう、ロールケーキ!!!!!あぁ嬉しい。本っっっっ当にこの世界のスイーツスキルの低さ!耐えられなかったわよ!型が出来るのを知ったときはもう無敵に思えたわ。その日一日中頭の中で『ケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキ』って叫んでた。頭おかしいなんて思わないで。だってケーキの存在すらなかったんだもの。




「これをこのくらいに切って……はいどうぞ」


「これ、味ついてなくないですか~?」


「大丈夫だから。そのままでバッチリだから」


「ふ~ん。…………うっま!!なにこのフワッフワの生地!それに生クリームが合わさると最強にうまいんスけど!!!」


「こんなしっとりした生地が出来るものなんですね……。お嬢様、いつにも増して脱帽です」


「あーこれこれ!美味しー!嬉しいなぁロールケーキが食べられて。あ、これを私の誕生日会で出したいのよ。アレンジできる?」


「任せてください。そのために日々研究してますから。それに今回はギャレットにも1つアレンジを作らせますね」


「俺ッスか?頑張ります~」


 こんな感じのノリだけど多分大丈夫だろう。残りの試作をお父様たちに持っていったらとても喜ばれた。今回は冷やしたりする待ち時間がなかったからね、お父様もいつ完成するのか把握できなかったんでしょう。サプライズ訪問でした。





 そして数日後、誕生日会まで1週間を切って、ロレンツ料理長からアレンジの完成が出来たと報告を受けた。






「これはまた……すごいものが」


 ロレンツ料理長とギャレットがそれぞれ1つずつ用意していた。


 ロレンツ料理長は生クリームの中に色とりどりのフルーツをぎっしりと詰め込み、断面が芸術作品のような美しさである。


「綺麗……」


「見た目もこだわって、美味しそうだけど食べるのがもったいないと思ってくれるようなものを作ってみました。ですが今回は……ギャレットに完敗です」


 あれ?いつから勝負になった?


「んなことないっスよ~。あ、俺のは生地薄くして~サイズもふたまわりくらい小さくして~塔にしましたっ!イチゴとかブルーベリーも乗せられるところにちょこちょこと置いたッス」


 そう言って取り出したものに衝撃を受ける。

 ここはデパートだろうか。ロレンツ料理長のもすごい美味しそうだったけど、ギャレットはまた別の角度から攻めてきた。

 小さめに作られたロールケーキをタワーのように重ね上げ、最上部の1個にはイチゴがちょこんと乗っている。

 下から段々と数が少なくなるロールケーキの平面部分には、カットされたイチゴやブルーベリーがこれまた見事な配置で全体の見た目のバランスを保っていた。




 この二人、何者?!


「二人とも最高!どちらも視点が違うから、どちらも素敵よ!基準のロールケーキも合わせて三種類出しましょう!」


「そしたら~、基準ロールを多めにして~、俺らの派手ロールは少量でいいッスかね?まずは基準ロールを食べてから、次に派手なのを選ぶ感じにすれば、基準ロールの認知にもなると思うッスよ。派手ロールはあくまで派生。そう覚えてもらうことが大事ッス」


 えっどこまで先を読んでるのこの人。プロじゃん。もうプロ過ぎてついていけない。商売も出来るんじゃない?ってゆーか基準ロールとか派手ロールって勝手に名前つけないでよ、ダサすぎるでしょ。せめてもっといい名前にして!




「じゃあそれでお願いするわ。ロレンツ料理長もギャレットもありがとう。あとはみんなで分けたり家族に持っていったりしていいわよ」


「マジッスか?!うち弟3人いるんで喜んで持って帰りま~す!」


「その前に料理担当のやつらに分けてからな」


「へいへ~い」


 軽口を叩くギャレットに、ロレンツは呆れ顔だ。

 しかし意外とこの二人の息が合ってる。そしてギャレットの腕の良さ。もしかしたら本当に立派な料理人になるかもしれない。




 ギャレットを下げたあと、ロレンツ料理長は残り、私に話をしはじめた。


「お嬢様。前に私を後押ししてくれたこと本当に感謝しています。あのあと考えに考えて、公爵様に『店を持ちたい』と伝えました。驚いてはいましたが、『娘と一緒に楽しく料理を開発する君の働きを見ていて、そういう気持ちが生まれる予感はしていた』と。ギャレットが一人前に育ったら、店を出す手伝いをしてくれると仰ってくれました」


「そう。踏み出す決心をしたのね。簡単なことじゃないわ。素敵よ」


「ありがとうございます。ギャレットもそろそろ独り立ちできそうなので、私も来年には店を出そうと思っています。空き家など、公爵様が調べてくださっております」


 あぁ、ロレンツ料理長がここをやめてしまうのは寂しい。試作は毎回とても楽しかった。でも、寂しいだなんて私がそんなことを言えない。彼は自分の夢に向かって進もうとしているのだから。



「もし今度お時間があるときで構いませんので、料理店の構想の相談をしたいのです。料理店がやりたいのは間違いないですが、まだ漠然としています」


「ええ、大丈夫ですわ。一緒に考えます」


「よろしくお願いします」


 そういうとロレンツ料理長はニコッと微笑んで、部屋を出ていった。

 楽しみだな、ロレンツ料理長の店。





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