42.空気が読めないことを【K(空気)Y(読めない)】と言います
長くなってしまいました。すみません(-_-;)
クリストファーの誕生祭兼お披露目パーティーが終われば10月の社交パーティー。それが終われば12月のアレクサンダー誕生祭があるので、結構怒濤の王宮訪問ラッシュだ。
私は来年から社交界なので、お父様やお母様、お兄様のように今後は秋から冬にかけてほぼ毎月王宮へ行かなくてはならない。面倒だ。
だが私以外の貴族たちはこの行事がとても素晴らしい事だと思っているので、面倒で行きたくない私は迂闊に発言できない。
そして今日はアレクサンダーの誕生祭だ。もらったイヤリングをつけ、馬車に乗り込む。
「それにしてもドロレス、そのイヤリングはなんというか……凄いものをもらったな」
「ええ。私には高価すぎて触りたくもありませんわ」
「まぁそう言わずに。うーん、この先の未来に少々不安があるんだよな……万が一が起こるとさすがに私でも止められない」
「何な嫌な予感でもするのですか?」
「今のところは私の考えすぎかもしれないから、さっきのは忘れてくれ」
なんだろ。このピンクサファイヤがいわくつきだったとか?えっそんなのやめてほしいんですけど。外したい。でもこないだつけてくるって言っちゃったしな。
王宮に着くと、相変わらずの人だかりだ。今回はお披露目パーティーではないので全員の強制参加ではない。けれど王子と繋がりを持ちたい貴族や、王妃の座を狙う令嬢の貴族はやっぱり来たいわけで、ほとんどの貴族が参加するのだ。
入場し、アレクサンダーが壇上に上がって挨拶をしたあとは例年通り誕生日の贈り物をする。クリストファーに手袋を渡したので、一応アレクサンダーにもあげておこうと思って一緒に包んだ。それを開けて、渡す。
「ありがとう。ジュベルラート公爵殿」
「ジュベルラート公爵、その手袋はルトバーン商会でもう購入できるのか?」
おっと後ろから国王が立ち上がってしゃしゃり出てきたよ?
「ええ。どの服にも合わせやすい3色があり、そこに別料金で刺繍や宝石を取り付けたりお好きな模様にできます」
「クリストファーが大層喜んでいてな。着けてるとだいぶ寒さが違うそうだ。刺繍もとても素晴らしかった。ぜひ買わせてもらおう」
「ありがとうございます。ルトバーン商会にも陛下のお言葉、お伝えしておきます」
……私がセールスしなくても国王が無意識に貴族へ宣伝してくれるパターンなのでは?手間が省けたけどなんというか……、まいっか!ポジティブに考えよう。棚ぼただ。
そしてルトバーン商会、今年もごめん!忙しくなるよ!
さてさて。今回こそは最後まで楽しみたい。今日は絶対にお父様から離れない!美味しいものをたらふく食べたいけど、なんかもう面倒事に巻き込まれなくないので大人しくする。
お父様についていけば、挨拶回りがほとんどだった。見知った顔だったり、初めて合わせる顔だったり。念のため転生直後の勉強のときに全貴族の名前は覚えたけど、さすがに写真がないので顔はわからなかった。
そんな中私は無言でお辞儀をしたりするだけなので、とても楽。お世辞も結構言われたけど微笑むだけで解決したので無事に終えた。
…………
終えたのだ。つまり、お父様とお母様がダンスに行ってしまった。
ええー!せっかくピタッとくっついてたのに!お兄様どこ?!また控え室にでも逃げたわね!もうっ!私も行くわ!
そう思ってドアに手をかけようとした瞬間、後ろからくる寒気を感じた。顔が歪む。
「ごきげんようドロレス様」
振り向く瞬間に仮面を被り、微笑む。
「ごきげんよう、ヴィオランテ様」
この子なんで私に話しかけてくるの?私の事嫌いなんじゃないの?
「アレクサンダー殿下ならあちらにおりますわ。お声をかけてきてはいかがでしょうか」
「なんですって?『私は余裕ですから、どうぞ好きなだけ殿下にアピールしてきては?』ですって?」
「いえそんなこと一言も言ってないんですけど……でも令嬢たちがもうアピールしていますので、遅れをとらないように行かなくていいのですか?」
またしても言葉を曲げて解釈する人だわ。むしろどうやって曲げるのか私も勉強したい。
「あのような方たちと一緒にしないでくださいませ。わたくしは本気なのです。地位や名誉だけではなく、アレクサンダー殿下をお慕いしてるのですから」
意外と真面目な言葉に、少しだけ好感を持てた。アレクサンダー自身を好きなら、将来王妃としても立派にやってくれるだろう。
王宮内だし、あまり口にするのもどうかと思ってたけど、これは伝えておくべきかもしれない。
「ヴィオランテ様。私、絶対に王妃になりたく──」
「ドロレス嬢、久しぶりだな」
アレクサンダーがいつもの二人を引き連れてやってきた。バカ!タイミング考えてよ、もう!
私とヴィオランテはカーテシーをする。
「そちらは……カルメル公爵の令嬢か?」
「はいっ!カルメル公爵家次女のヴィオランテと申します」
令嬢が二人しかいない場面で会話ができることが嬉しいのか、ヴィオランテは少し興奮ぎみだ。顔は冷静を装っているが、耳が少し赤い。ヴィオランテが挨拶をするも、アレクサンダーの体は私の方を向いたままだ。
うーん。
嫌な予感がする。婚約者になりたくない私と婚約者になりたいヴィオランテ。こんな対照的な二人のいるところで、今から爆弾なんて落とされたら。
「そういえば、誕生日会で僕のプレゼントしたイヤリング、つけてきてくれたんだな」
アレクサンダーは私の目を見て微笑む。
ドッカーーーーン。
バカ!アホ!アレクサンダー!こんなところでそれ言っちゃダメ!!!空気読め!!まずいよまずい……ヴィオランテがいるのに。
横を見るのが恐ろしい。だけど確認しなくては。ゆっくりと目線だけをヴィオランテに向ける。
そこには、わなわなと顔を赤くして、信じられないと言わんばかりに歯を食い縛り私に睨むような視線を向けるヴィオランテがいた。完全に爆弾が爆発した。
「ア、アレクサンダー殿下……。ドロレス様にプレゼントを送られたのですか?」
震えながらも殿下に話しかけたヴィオランテ。これ以上投下しないで!お願い!
「ああそうだ。瞳の色のサファイアを探して誕生日のプレゼントにした。なかなか見つからなくてね」
大きな偉業を成し遂げたかのような口調で話すアレクサンダー。馬鹿なの?なんで爆弾落としたあとに追加で攻撃してるのよ!!ねえ馬鹿なの??!!
「そ……そうですか。今度はぜひ、わたくしの誕生日会にもお越しください」
「行けたらな」
こんな状況でも素っ気ない態度なの?ねぇ?少しは気を使って?あなた王子でしょ?ずっとヴィオランテがダメージを食らっている。
そのあとヴィオランテは、失礼しますと言って一瞬私を睨みながらこの場を立ち去った。うわー……例え顔面が史上最高イケメンだとしても周りを気遣えないならやっぱり魅力なんぞ米粒も無い。
「カルメル公爵令嬢は具合でも悪いのか?」
アレクサンダーが私に訪ねる。なんとなく事情を察したジェイコブはため息をついた。オリバーはそういうのに疎いので、アレクサンダーと同じ側の人間だ。私もため息を出したいのをグッと堪え、説明をする。
「殿下。無礼をお許しください。ちょっとあれは王子として失礼だと思います」
「えっ。なぜだ?」
「殿下は私の誕生日会に来ましたよね?」
「あぁ。それがどうした」
……ここから説明するのか。
「なぜ来たのですか?私が伺っているかぎり、『将来の婚約者候補になりそうな令嬢の茶会に出るため』と聞いております。ですが、私以外の誕生日会やお茶会に行きましたか?招待状来ましたよね?」
「それは、その……忙しかったというか……」
「お兄様から聞いております。私の誕生日付近も忙しかったと。なのに、私の誕生日会『だけ』いらっしゃいましたよね?それは他の令嬢にとって侮辱であり、大変失礼なことです。確かに私のお父様もお兄様も殿下の側近のようなものですわ。ですがだからといって私の誕生日会だけ来るのは、私だけが贔屓されてると捉えられても不思議ではありません。そもそもあなたが何のために私の誕生日会に参加したのか思い出してください。その目的で参加するなら、全員の令嬢の招待を受けるべきです」
「……行きたいと思ったのが、ドロレス嬢のところだけだったんだが……」
「殿下は何をおっしゃってるんですか?あなたは『婚約者候補のお茶会』に行くために招待を受けられるようになってるのですよ?それを行きたい行きたくないで判断するのですか?自分の気分次第なのですか?」
「……いやそんなことは……」
うろたえるアレクサンダーだけど、私はまだまだ言いたいことが止まらない。
「それに、さっきのヴィオランテ様への態度はなんですか?招待状をせっかく送ったのに来てもらえず、なのに隣の私の誕生日会に参加したことを当たり前のように話し、ヴィオランテ様に『今回はごめん』とか『次は行くよ』の優しい言葉も無し。私がヴィオランテ様の立場なら、殿下になんて尊敬の気持ちがなくなりますわ!クリストファー様を見習ってくださいませ。あの方は誰にでも丁寧な態度を取りますのよ」
アレクサンダーが無言になってしまった。
ハッと我に返る。
うわーー、私、すごい言ってしまった。言葉が止まらなかった。でもさすがにヴィオランテへの対応の冷たさは少しイラっとしたので、言えてスッキリしたのもある。
黙って下を向いていたアレクサンダーは、顔を上げ私に憂いを帯びた顔で問いかけた。
「ドロレス嬢は、クリスのほうがいいのか?」
「え?」
「クリスの方が……いいと思っているのか?」
急に何を聞いてくるのよ。次期国王の話?そんなの私がどっちとか言えるわけないじゃない。
「私はどちらがいいなどと言うことは出来ません。勘違いしないでください」
「ならいい……」
先程の不安げな表情は消えたものの、まだ何かを言いたそうだ。
「その……僕はなにをすればいいのだ?」
少し悩んだのか、言葉を絞り出すように私にそう聞いてきた。
「私はあなたの教育係でもなんでもありません。ですから教えることなどなにもありません。強いて言うなら……誕生日会等の招待状を送ってくださった令嬢に行けなかったことを今日謝罪しましたか?」
「いや……」
「でしたら直接声をかけて『せっかく招待状を送ったのにいけなくてごめん、次は行けるように頑張るからまた誘ってね』とでも言ってください。出来れば全員に。そして、次からは行けるだけ行くようにしてあげてください。あなたの将来の伴侶を探す目的があるのですから」
「あぁ、わかった。……ジェイク、オリバー。すまないがまた回る」
「かしこまりました。僕、招待状が来た人のリストをここに持ってますので、高位貴族から回りましょうね」
「わかった。……ドロレス嬢、失礼する」
ジェイコブは用意万端で、そのリストが入ったポケットをポンと叩いた。そうしてアレクサンダーは2人と共にこの場を去っていったのである。
遠目でそのトリオを見ていると、各令嬢のもとを周り、令嬢たちの嬉しそうな声や赤く染めた頬を手で押さえている姿が見られた。
なんとかなったかな。そして私の風当たりも減ってくれればいいな。
私はいつになったらパーティーをまともに楽しめるの?




