41.それぞれ違った性格の王子たち
「はあ。やっと抜けられた……みなさんお久しぶりです!」
さっきの件でモヤモヤしていたら、こちらに早歩きで来るクリストファーがいた。はぁ、癒し。
「下に降りた途端にあんなに人が来ると思わなかったです。ハハハッ。みなさんとても素敵なドレスですね!あ、レベッカ様髪の毛上げたんですか?とても素敵ですよ。でも僕個人的には下ろしてる方が好きですね」
「金輪際髪の毛は上げませんわ!」
出た、クリストファーの必殺技、人たらし&女性キラー。アレクサンダーに近づく女性を口説き、クリストファーに気持ちが移ったら『しょせんその程度の気持ちの奴が兄上の横に立てるわけがないだろ、バカな女』とか色々言って蹴落としていく腹黒。おー、怖い怖い。見た目に騙されてはいけません、世の女性たち。
けど今のところはその兆候がないのよ。いつからそれが出始めるのか。アレクサンダーの婚約者が決まったらなのかな。てゆーかその時ドロレスは何て言ったんだろ?婚約者のままな訳だから、納得できる言葉を発したんだろうな。悪役令嬢とはいえ、根本的なことは完璧にこなしていたんだわ。
「ドロレス様、先程頂いた手袋はまだ発売前ですか?あれ、めちゃくちゃ暖かそうですね。刺繍も何にしようかさっきからずっと考えていますよ。どうしよう」
「ゆっくりで構いませんわよ。ルトバーン商会ならきっとすぐに終わらせますし。クリストファー殿下の瞳の色のガラス玉や宝石を縫ってもらうのはどうですか?」
「そうですね。それはいいアイデアです。こういうの、なかなか決められないんですよ」
手を頭の後ろに持っていき、エヘヘと笑い、女子たちの母性本能を目覚めさせるクリストファー。これレベッカが見たら……うん、まさに今横で耳が赤くなってる。
「あの……ドラゴンや不死鳥なんてどうですか?瞳の部分に殿下の瞳と同じ色の小さな石をはめ込むんです。金糸か銀糸なら黒の生地に映えてとても素敵だと思いますよ」
「あ、確かに!せっかく黒なんだからカッコいいデザインが似合いそう。早速文献などで探して、いい挿絵があったら商会の方にお願いしてみます。ありがとうございます、レベッカ様」
おーっとレベッカ。こんなところでいい仕事ぶちかましてきた!クリストファーも納得してるっぽいし、採用してくれたらいいね。
「あっごめんなさいみなさん、あっちで呼ばれてるので行かなきゃ。ハァ。またお茶会があったら誘ってください!トランプ極めてますから!じゃ!……あっち行くのめんどくせ」
心の声が漏れてるー。すでに腹黒だったー!最後の一言だけ別人のように声低かったー!あれみんな気づいてないの?え、ほんと?
「レベッカ様、ドラゴンとかよく思い付きましたわね。私、花しか出てきませんでしたわ」
「エミー様、私は彼の隣に立つために勉学に励んでおりますの。彼の好きなもの彼の思考など、その方面でも完璧にして見せますわ」
「そ、そうなんですね。楽しみにしておりますわ」
エミーが若干引いてる。
「ドロレス様ー!レベッカ様!エミー様ー!」
あのバーゲンセール会場のような令嬢の集団から抜け出したジェイコブがこちらに向かって歩いてきた。ということは残り二人も来るわよね。あれ、そういえばニコルどこ行った?
「なんなんだもう。あんなに集団で来られたら何がなんだかわからん。やっと逃げてこられた」
アレクサンダーが疲れた顔をしてそう呟く。いやいや、ここは駆け込み寺ではないんですけど?
「殿下。彼女たちは殿下のことを慕っておられるのです。いずれ殿下の横にいたいと。そんな彼女たちを無下にしてはいけません」
「わかってるよオリバー。だからさっき頑張って口角上げてただろうが」
「アレク様、上げてただけで微笑んでませんでした。こんな顔でした。ほら。ひきつってましたよ?」
「ジェイク、お前……仕事増やすからな」
「はーー??僕はもう自分の仕事終わってますけど!あとはアレク様のサインだけじゃないですか!」
横のオリバーから至極真っ当な意見が出て、アレクサンダーが反論するも、その横でジェイコブが指で自分の口角を押し上げてさっきのアレクサンダーの真似をしている。やんややんややっているけど、この2人にはアレクサンダーも気を許しているのかな。歳相応の子供に見える。これが私の知ってる子供たちの無邪気な姿だわ。懐かしい。
「ドロレス嬢、僕があげたイヤリングは気に入らなかったのか?」
「えっ。そんなことはございません。なぜそう思われるのですか?」
「……今日つけていないから」
あなたが!自分の誕生祭につけてこいって!言ったんでしょうが!
「殿下が誕生祭につけてきてほしいとおっしゃったのを忠実に守っているだけですわ」
「そ……そうか!僕の言ったことを守ってくれているのか。すまない、余計なことを聞いた」
「いえ……」
気まずい。正直あんな高いものつけたくない。宝石をあげればすべての女性が喜ぶと思ってるんだわ。宝石なんていらないからこたつ作ってほしい!
話変えよ。
「オリバー様、先程レイヨン公爵様とお会いいたしました。御再婚されるとのことで。おめでとうございます」
「あぁ……そうらしい。急に言われました」
うーんやっぱり再婚に関しての反応はよくないなー。オリバーは他人事のように答えた。母親だけを愛していた父親が別の女性と結婚だなんて、納得できないんだろう。
「レイヨン公爵様も一大決心をなされたのですね」
「……うちは父と私だけの男家族です。もちろんメイドはいるけど、しばらく女性がいなかった家なので少し心配ではありますが。モレーナ様も昔色々あってあまり知り合いがいないそうです」
ん?思っていたよりモレーナを気遣っているのでは?
ゲームの中では詳しく描かれていなかったけど、それぞれで思い違いをしていて話し合った結果最後に仲良くなった。もしかしたら、オリバーはモレーナのことを毛嫌いしてる訳じゃなく、なんとなく気まずかったのがどんどん膨らんでこじらせてしまったのかもしれない。
それなら、こじらせる前になんとかできるかも。
あ、ダメだ。ヒロインがその役をやるんだったわ。
「オリバー様、私でよければ公爵夫人のお話相手になったりもできますわ。女性同士、男性じゃわからないこともあります。何かあったら気軽に連絡をくださいまし」
「ありがとうございます。ドロレス様」
話を聞く程度なら大丈夫でしょ。私はモレーナに味方するわけで、別にオリバーを助けるわけでもないし。
「アレク様、あっちの公爵様のところに挨拶いきますよ」
ジェイコブが挨拶周りを取り仕切っているのか、アレクサンダーの袖をひっぱり向こうの方へ行きますよと促す。
「わかってるから。……みんな、また12月に会おう。ドロレス嬢も、楽しみにしてる」
「ええ。ではまた」
立ち去りながらジェイコブが言葉をかけてきた。
「あっ!ドロレス様!手袋もルームソックスもありがとうございました!ちゃんと使い心地をお伝えしますねー!」
「は?ジェイクお前も手袋もらってるのか?!なんでジェイクとクリスにはあるのに僕には───」
「アレク様うだうだ言ってないで行きますよ!全員回らなきゃいけないんですから」
去り行く彼らはなんか揉めてるけどよくわからないからいいや。
そんな感じで王子二人がそれぞれ私たちの方に来たわけですよ、わかります?周囲の突き刺さるような視線を。あの令嬢たちは王子二人と親しいのか?何を裏でやっているんだ?みたいな目で見られてるの。特に親たちのね。もう12月のアレクサンダー誕生祭行きたくない。イヤリングに話題振られたら困る。これまた同じパターンだったら居心地悪すぎるんですけど!今度こそお父様の横から離れないでいようかしら。
せっかく楽しんでいたのに、今年も煮え切らない気持ちで終わるパーティーだったわ。いつになったら最後まで心から楽しめるパーティーに行けるのかしら。




