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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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36.またかよ

 8月に入り、誕生日会まであと3週間ほどになった。軽食やテーブルなどの準備の書類を確認している。

 誕生日会は開催日の1ヶ月前には各家に届くよう招待状を送る。基本的に招待状が届いた人は参加人数に数えるため、返事はいらないのだ。

 予めどうしても参加できないときや、病気などで行けなくなったときに限り、すぐに送り返すもしくは使いの者をよこす、というのがマナー。……初めて誕生日会をした時は一ヶ月切ってたけど許してほしい。だって転生したばっかりでよくわからなかったんだもの。



 メンバーは前回と同じである。特に増やしたい貴族はいないしなー。


 早いなぁ。あっという間に1年が過ぎて行くのは大人も子供も一緒か。そんなことを考えていると、一瞬ゾクリと寒気がしたのだ。ん、風邪でもひいたのかな。そういえば薄着過ぎて夏なのにちょっと寒く感じたことあったわね。誕生日会までに治さなきゃ。






 昼過ぎにロレンツ料理長からフレンチトーストの改良版が出来たと聞き、厨房へ向かう。

 満面の笑みで待っていたロレンツ料理長の手元には、またすごいものが並んでいた。


「す、すごすぎる」


 思わず口から無意識に言葉が出てくるほどだ。

 試食会より小さく、一口サイズよりは大きいもののフォークで切れるようギリギリまで切れ目が入っている。貴族のお口はちっちゃいのでね。これでまずナイフを出さなくても食べられる。


 さらにイチゴやブルーベリー、バナナもあればジャムが飾られて生クリームが添えられたものが何パターンかに分けられてお皿に乗っていた。どれも華やかで、どれも美味しそうだ。ここは都会のカフェか?このサイズで1000円取られるんじゃないかと思うくらいの見た目の素晴らしさである。

 ロレンツ料理長の脳みそを少し分けて欲しい。この人、かなりの天才じゃないの!!わかってけども!!


「脱帽しました……」


「お嬢様の発案したものを改良してるだけですけどね」


 あのね、言うのとやるのは違うんですよ。言うのなんてそこら辺の3才児でも出来るのよ。空を飛ぶなんて発想がなかった時代に「空を飛びたい」って言う人も確かにすごいのかもしれないけど、「空を飛べるものを作った人」の方が圧倒的に私はすごいと思うし尊敬するのよ。



 みんなで試食をして、定番のバターはちみつ以外になんとか2種類まで絞れた。ここ数ヵ月で一番頭を使ったかも。どれも美味しくて決められないんだもん。


「毎回本当にありがとう。お菓子やスイーツにかかる費用はお父様が請求してもらって構わないって話してたから、ガンガン使ってね」


「ええもちろん。試作したものは毎回私たちのお腹の中ですけどね。旦那様もあんなに甘いものが好きだとは思いませんでした」


「ほんとよね!あんなに甘いもの食べてたらお腹がブクブク太ってカッコ悪くなっちゃうもの。そんなんじゃ私、お父様の隣を歩けないわ」


 お父様はイケメンでスタイルもいいんだから、出来ればキープしてほしいものだわ。








 ───美味しそうな匂いに釣られて厨房の入り口まで来たトニーは、この会話が聞こえ、厨房に入るに入れず引き返すことになった。そしてお菓子の回数が減ったことをドロレスは知らない。────









 その後は部屋に戻り、先ほどと同じようにいくつかの書類を眺めながら、あーだこーだ独り言を呟いていると、ドアのノックする音が聞こえた。



「失礼いたします。お嬢様宛の手紙です」


「あら、誰から?」


「……旦那様より、『見ればわかる』と」


 なんだ、そんなやり取りしてる人いたかな?なんて軽く思っていたさっきまでの私をぶん殴りたい。



 受けとる前からその華々しさに睨みを向ける。再び朝の寒気が襲う。


「……今度は何!?」



 私が手に持っているのは数ヵ月前に見た豪華なデザインで作られ、王家の紋章で留められた恐怖の手紙である。胃が痛みだした。さっきの寒気はこれだったのか!!





 《ドロレス・ジュベルラート公爵令嬢殿





 久しぶりだな。

 8月に9歳の誕生日を迎えると聞いた。おめでとう。


 君の開発してくれたトランプはとても好評で、うちの妻たちもトランプが繋ぎとして存在してくれるおかげで雰囲気が良くなったぞ。非常に感謝している。




 そういえば、我が愛する息子アレクサンダーの機嫌が少し悪いのだが心当たりはあるだろうか。


 君の誕生日の1ヶ月前までは普通だったのだが、1ヶ月切ってから何かおかしいのだ。

 付きの者の話によれば、なぜ招待状が来ないのかとぶつぶつ言っているそうだ。

 本当に心当たりはないのだろうか。

 ちなみにこの手紙のことはアレクサンダーには伝えていない。





 それでは、ドロレス嬢の健やかなる成長を祈っているぞ。




 バルトロ・ランド・フェルタール》






 ……。







 これは……。









 私の誕生日会の招待状を送れということだろうか。

 ……そういうことだよね?

 読み終わった手紙を机に置き、頭を抱えて項垂れた。




 国王ってなんなの?こんなん毎回各令嬢に送ってるの?親バカ?そんなにもアレクサンダーは令嬢たちの誕生日会に行きたいわけ?

 しょうがないか、次期王妃を自分の目で探したいんだわ。政略結婚とはいえ、気の合う女の子の方がいいもんね。私はこの先の未来で一応婚約者ってことになってるけど、今のところアレクサンダーに好意を向けていないのが彼にダダ漏れになってるはずだから、未来が変わる可能性もある。

 次期王妃になりたくてアレクサンダーに振り向いて欲しいのなら、左手でトランプ右手でプリンのスプーンを持ち、カードを引こうとするアレクサンダーを睨む私の行儀の悪さは嫌悪感しか抱かないだろう。さりげない程度に意図してやってるのよハッハッハ。



 そうなってくると私以外って誰が婚約者になる可能性があるんだろう?子爵男爵はないだろうから、公爵侯爵伯爵くらいかな?レベッカはなんとかクリストファーと婚約してほしいし、ニコルは出来れば恋愛結婚したいと言ってた。なんなら『王族になんてなりたくない』と断言してるくらいだからね。アレクサンダーに興味のない組の一人である。




 さてアレクサンダーの件はどうしよう。うーん、友達としてなら付き合ってもいいかな。ルトバーン商会での新たな商品のセールスにも行きたいし、うまく王族とコネが作れれば万々歳だわ。


 しょうがない、送っといてやるか。

 招待状送るのがギリギリすぎても国王からまた催促の手紙来そうだし……2週間切ってから送れば、急すぎて向こうの予定の都合がつかずに来なくなる可能性もあるわよね。うん、その手でいこう。











 そして誕生日会まであと1週間。最終調整をお父様としている。


「そういえば。今回はフレッドは参加できるのよね?招待状送ったんですけど」

「んー、微妙なところなんだよ。陛下は恐らくクリストファー殿下をこっそり連れていかせるだろうから、そうなるとせっかく参加してもまた下げなくちゃいけなくなる。今回は最後までの予定だから、もし来たらずっと誕生日会に出られなくなる」


 そうかー、その可能性が大きい気がする。そうなると今度は誕生日会通して出られない。申し訳ないけど、お断りの手紙を入れなくちゃ。

 フレデリック来れないのか……寂しいな、ちょっと泣きそう。ついうつむいてしまった。それもこれもアレクサンダーのせいなんだから!なんで呼びたい人が呼べないのよ……。別の日に直接会って謝ろう。ごめんなさい。


「私からもフレデリックくんに手紙を書こう。大丈夫、彼ならドロレスの気持ちを理解してくれるさ」


 お父様が頭を撫でてくれる。





 気持ちを頑張って切り替え、前を向く。


「そういえば、最近お兄様と夕食に会わないんですけど何かお忙しいのですか?」


 そう聞いた私から目をそらすお父様。ん?何かあるのかしら。


「……最近殿下の手伝いをさせているんだがな、急に仕事がとんでもなく忙しくなったそうだ。どうやら『今月末に予定が出来たから絶対に終わらせる』とやる気に満ち溢れているらしいぞ。どこかのバカ親……あっ間違えた、親バカが某令嬢の誕生日会に行けるよう便宜を図ったせいだろう。大丈夫だ。バカ親にも仕事がたくさん沸いてきているみたいだぞ?」


 ……最後のは絶対お父様がわざと増やしたでしょ。

 というかお兄様ごめん……あ、もしかして多分ジェイコブにも被害がいってるわよね?うわーほんとごめん、殿下なんて招待しなきゃよかった!あっでも、しなかったらしなかったで大変なことになってたのかもしれない。




 これからはお兄様が試食会に来ても嫌な顔をしないようにしよ。






「お父様、もっと仕事が沸いたとしても、国王陛下ならそつなくこなしてくれると思いません?私はそう思いますわ」


 ニヤリと笑いかければ、お父様はきっと気づくだろう。


「あぁ!そうだな。国王陛下は聡明な方だ。沸くように仕事が明日から山積みになるな」


 お父様も深い笑みを私に返した。



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