4.状況把握
「今は起きたばっかりだから、しばらくはドロレスもゆっくりしていてくれ。日中はまだ暑いし、一度部屋を出て、夕食前にまた来るよ」
そうか、日本と同じく夏なのかな。確かに暑いもん。
お父様と泣き止まないお母様、お兄様は部屋を出ていく。再び静かになった部屋で、メイドがお茶の用意をしている。
あぁ。これはやはり転生か。
生まれ変わったというよりは、今の私に前の私が入ってきたような感じなのかな。今の私の記憶も徐々に思い出してきたし。ということは、日本にいた記憶を【前世】ということにしておこう。
ついに私も転生側の人間になったのね。料理は一般的なものしかできないし、専門知識なんてないからチート生活も無理だろうな。こんなの小説の中だけの話だと思っていたのに、まさか私がこうなるとは思わなかったなー。
とりあえず状況整理する。
私の名前はドロレス・ジュベルラート、7歳。フェルタール王国の公爵家長女。
お父様はトニー、王宮財務部勤務。
お母様はニーナ、お兄様はダニロ。
この家族みんな美男美女だらけ。
そんな中の娘なので、私もお人形のような顔をしている。ピンクの目って、ファンタジー感満載だよ。そして様子を見るからに溺愛されてる気がする。
だってさっき、家を売って医者を呼ぶって言ってたもんね。公爵ほどの立場の家売ったら、呼ばれた医者は宝くじに一等数回当てた並の金額だろうな。
それにしても、フェルタール王国ってどこかで聞いたことあるんだよね。
実際の国ではないはずだから、小説の中?いやまさかね、本当に小説の中に転生とか、それこそ【小説の中】の話であって非現実的よ。落ち着け私。
にしても、この国のことがあまりよくわからない。
公爵家の子供だったら、結構小さい頃から勉強するんじゃないのかな。
お辞儀とか、所作はどうから体に染み付いているみたいで記憶にも出てくるけど、地理も歴史も全く知識がないんだけどなんで。
カタカタカタ……。
メイドがティーポットとカップ、クッキーをワゴンに乗せて持ってくる。
あぁ、このメイドはリリーって名前なのね。記憶を呼び起こす。
「お嬢様、お茶をお入れいたします。いつもと同じ、隣国から取り寄せた最高級のアップルティーでございます」
ティーポットを持ち上げる。カップに注ぐ香りがとても良く、混乱していた頭の中を落ち着かせていく。
「ありがとうリリー。あとお願いがあるんだけど、この国の事をもっと知りたいんだけどどなたか教えてくれる方はいないかし……リリー!!」
トポポポポポ───────。
リリーが見開いた目でこちらを凝視しながら、カップに注いでいるティーポットを傾けたままなのでアップルティーがどんどん溢れていく。
「リリー!手を止めて!溢れてる!やけどするから聞いて!リリー!!」
「お、お嬢様が!!私の名前を!いや、お嬢様が『ありがとう』と仰っ……いえそんなことよりお嬢様が!自らまっ、学びたいと……あぁっなんてことでしょう!」
「リ、リリーおちつ」
「旦那様ぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
バタン!!
私が目覚めたときよりも大きな声で部屋を出ていった。