28.ついに誕生祭兼お披露目パーティー当日がやってきた
ついに!この日がきた!
【第一王子アレクサンダー殿下誕生パーティー】
アレクサンダーの8歳の誕生日を祝うと共に、貴族達にその姿を初めて見せる。
おおーーー、これはゲームが始まる前の話だし、パーティーなんて初めてだからドキドキする!国王に名乗る挨拶はしなくてもいいけど、カーテシーだけはするからこれは完璧になるように練習したわ。
あとは他の人と話すかもしれないから一応一般的な挨拶やらなんやらも再確認したし、話の内容が理解できるように勉強も全部頑張った。もう私完璧じゃない?人生で一番勉強した気がする。
ドレスに着替え、鏡の前でフレデリックからもらったパレッタをつけてもらう。うん、やっぱり素敵なデザインだわ。
お父様と馬車に乗り込む。
「ダニロは今年社交界デビューしたけど、ドロレスはパーティーは初めてだもんな。緊張してるかい?」
「ええ、少し。でも大丈夫ですわ。お父様の横にずっといます」
「そうだぞ、私のそばから離れるなよ?どこかのよくわからん男に惚れられたらたまったもんじゃない」
「父上、僕もちゃんといますから大丈夫ですよ」
そういえばお兄様、今年の秋に社交界デビューしていたんだった。ちなみに【10歳になる年】に参加なので、9歳でも参加は可能。日本式なので、4月~翌年3月までが同じ学年になる。こういうところは分かりやすい。
こうなると気になるのはお相手だ。
「お兄様、誰と一緒に踊ったのですか?」
デビューの日はエスコート相手は親だったり兄弟が基本。例外として、異性の家族がいなければ付き合いのある貴族の娘や息子だったり、将来結婚予定の子達はカップルとして登場することもある。
お兄様はお母様とエスコートで参加したそうだ。
「体調が悪いふりして隠れてた」
なんてこった!せっかく恋バナが出来ると思ったのに。ちぇっ。
「いえ、それが一番安全策だったのよ?登場してからレディーの群れが一気にダニロに押し寄せたんだから。ふふふ。さすが私の息子よダニロ」
参加したお母様が当時の状況をこと細やかに語る。誰と1番に踊るかはとても重要であり、その子を慕っているという意味にもなりうる。女の子達が1番最初に踊ってもらおうと揉めていたところを抜け出し、終わるまで休憩室でお茶を飲んでいたそうだ。だってお兄様も相当なイケメンだものね。何で攻略対象にいなかったのかが疑問だわ。
馬車に揺られ、王宮へとひたすら進む。もう12月は寒い。ドレスの上にファーをたくさん着込んでいる。だけどストッキング寒すぎる。180デニールのタイツほしい。7分丈くらいでいいからレギンスがほしい。あれ?レギンス作れないのかな?じゃあ毛糸のパンツは?これ作ったら安心して冬を越せるんじゃない?女の人全員の味方が出来るじゃない?ルトバーン商会に相談だ!でも今年はもう無理か。
色々考えていたら王宮に着いた。
公爵家は爵位が高いので、入場は最後の方である。私たちの馬車の前には、何台もの馬車が連なっており、しばらくかかりそうだ。
やっと順番が回ってきて、お父様の手を取り、馬車を降りる。ゲームの世界では見たことがあったけど、いざ実物の王宮を目の前にすると言葉が出ないほどの美しいものだった。ザ・城。洋風の城マニアで絵が得意な人が少々大袈裟にお城を描いたとしても、きっとそれより派手だろう。とんでもないところにきた。
家の名前が呼ばれ、扉が開く。私はお兄様にエスコートされ会場に入ると、すでに多くの貴族が集まっていた。会場に足を進めると、いろんな人の視線が突き刺さる。何度か目があった令嬢と令息がいた。ドレスが地味だったのかな……。
遠くにニコル、すぐ横にはレベッカがいた。目が合うと思わず笑みをこぼしてしまう。
しかしまぁ、こんなに多くの貴族が余裕もって入れるくらい大きなホールである。王宮ってすごいわ。
「あとはマクラート公爵家が入ったら終わりだ。そのあとに国王陛下と第一王子殿下のお言葉があるぞ」
私たちの後にマクラート公爵家が入ってきた。
……あれ?ジェイコブがいない。どうしたんだろう。またあのギルバートに何かされたのかしら?だとしたら許さん。あとでジェイコブの愚痴につきあってあげよう。
全員が入場し一息つくと、正面の高いステージのようなところに国王陛下と王妃が登壇した。会場が一斉に頭を下げる。私も慌てて頭を下げた。国王陛下の挨拶が始まる。
「今日は遠いところからもよく来てくれた。我が息子、第一王子アレクサンダーの初の誕生祭だ」
軽く挨拶が続いたあと、ついにアレクサンダーが呼ばれる。
壇上の脇から、真面目な顔をしたアレクサンダーが出てきた。国王陛下から頭をあげるよう全員に促す。
その瞬間、会場から甘い溜め息が次々とこぼれる。
「素敵……」「なんて凛々しい方なの……」「美しすぎるわ……」などと声が聞こえてくる。うんわかる。あんな王道のイケメン、衝撃受けるよね。まだ幼いのにその堂々とした立ち振舞い、笑みは出さずともその深い碧をした眼は強い意思の眼差しを会場に向けた。
ごめん私それよりも国王と王妃の美しさに思わず息が止まったわ。ゲームの世界ってすごい。えっ待って、国王と王妃って、前世の私と同じくらいの歳のはずよね?どういうこと?私と同じ人間だとは思えないほど美しさレベルが月とすっぽん!雲泥!天と地ほどの差なんですけど!
壇上を凝視していると、アレクサンダーが周囲に気づかれない程度に目をさまよわせていることに気づく。
バチっ。
私と目が合った。ビクッとしてしまったが誰も気づいてないよね?
その目と合った瞬間、アレクサンダーの両側の口角が少し上がった。すぐに戻ったものの、アレクサンダーのみを凝視していた令嬢達からは小さな声で「きゃあ……」「微笑まれましたわ」と聞こえてくる。私は思わず目をそらした。
「今日は私の誕生祭に来ていただき感謝する。皆と挨拶をしたら、ゆっくりとこの時間を楽しんでほしい。音楽も流すので、大人達はぜひダンスも踊ってくれ」
アレクサンダーの挨拶が終わったあと、国王が乾杯を告げる。グラスに口をつけ、入ってきたときとは逆に爵位の高い順からアレクサンダー王子への挨拶が始まる。
「マクラート公爵家当主兼宰相ビリー・マクラート、こちらは妻のレイチェルでございます。いつも王宮でお世話になっております。本日はおめでとうございます」
「マクラート公爵家長男、ギルバートと申します。ほ────」
「ビリー宰相、あなたの仕事ぶりはとても素晴らしい。これからも国のために頑張ってほしい」
「もったいないお言葉にございます」
うわ………今ギルバートがなにか話しかけようとして、アレクサンダーがぶったぎったぞ?あれ絶対わざとでしょ。どう考えても話続けようとしてたのは私もわかるもん。アレクサンダーもジェイコブの話を聞いているからだろうな。
マクラート公爵は特に怒るわけでもなく、むしろにこにこしながら下がった。悔し顔のギルバートが後に続く。
次はうちだ!ドキドキしてきた。とっとと挨拶を終わらせて美味しいものを食べたい。
前に進むと、アレクサンダーの後ろに国王陛下と王妃、そしてアレクサンダーの斜め後ろには……ジェイコブ!
そっか、アレクサンダーのサポートで既に王宮にいたのね。なら良かった。さすがジェイコブだわ。私と目が合ったジェイコブが目を細めてニコッと笑った。かわいい。
「本日はおめでとうございます。ジュベルラート公爵家トニー・ジュベルラートでございます。こちらは妻のニーナです。いつもお世話になっております」
「夫がお世話になっております」
「公爵家長男、ダニロと申します」
私はまだ社交界デビューしていないのでカーテシーのみだ。再び顔を上げると、アレクサンダーが目を合わせて微笑む。まっ眩しい。他の人も見てるからっ!!
「トニー財務部長にはいつも助けてもらっている。ダニロ殿も次期部長として頑張ってほしい」
「もったいなきお言葉」
アレクサンダーが目を合わせるが、デビュー前の私はここで会話はできない。よし、終わった。さて!美味しいものを食べるぞ!
「ドロレス嬢よ、うちは妻同士で神経衰弱を毎日のようにやっているぞ」




