25.扇子の裏側では時限爆弾のカウントダウンが始まっていた
「あーー、楽しかった!」
新しく教えた【ダウト】も大盛り上がりだった。
言った数字と違う数字を出そうとするジェイコブは完璧なポーカーフェイスなはずなのに、アレクサンダーに【ダウト】と言われ、バレて悔しそうだ。
レベッカはずっと扇子を口に当て、全く動じない目線をカードに向けるのでみんなが混乱する。
ニコルはずっと笑顔だし、お兄様はどうやら得意な類いらしく完全に騙しきっている。
クリストファーは……わかりやすい。違う数字の時だけそわそわしてるのでバレる。そしておべっかを使わないメンツなのですかさず【ダウト】と叫ばれる。クリストファーが悔しがるが、そんな顔も可愛くてみんながほわほわしている。
……私?私もめっちゃバレてましたよ。
みんなで笑いあって会話をしていると、近くの騎士がアレクサンダーに近づき腰を曲げ「そろそろ……」と声をかけた。
「そうかもうそんな時間か。僕はそろそろ仕事に戻らなくてはいけないので帰る。今日も本当に楽しかった。お茶会を開いてくれてありがとう。ドロレス嬢。皆にも感謝する」
「いいえ、こちらもとても楽しかったですわ。お時間がありましたらまたどうぞお越しください」
アレクサンダーが席を立ち上がるので、私たちも立ち上がる。
「僕も!楽しかったです。美味しいお菓子もありがとうございました」
クリストファーも立ち上がり、お礼とお辞儀をしてくれた。
「クリストファー殿下、もしよろしければメレンゲクッキーをお持ち帰りになりますか?」
「えっ……いいんですか?!わぁ!ありがとうございます……あの、いっぱい持って帰ってもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですわよ。たくさん焼きましたの」
今日はお土産にも渡せるよう多めに焼いた。包み用の紙をメイドから受け取り、クリストファーに渡す。楽しげに紙をテーブルに広げ、1つずつつかんで紙に包む。
普段お菓子を食べられない子が友達の家に言ったときに『自由に食べていいよ』って言われて欲望が爆発した子のようにどんどん重ねていく。微笑ましいなぁ。
「あ………、その、ドロレス嬢。僕には聞いてくれないのか?」
声がする方に顔を向けると、ずっと見ていたのか、アレクサンダーとすぐに目が合った。
「えっ、あ、申し訳ございませんアレクサンダー殿下、よろしければ殿下もお持ち帰りください」
「いや、謝らなくていい」
私の返事にフッと笑みをこぼし、受け取った紙にメレンゲクッキーを包んでいく。ごめんなさいあなたの存在をすっかり忘れていました。
「クリス、そんなに入らないぞ」
アレクサンダーが声をかける。クリストファーは紙の真ん中にピラミッドの如くメレンゲクッキーを積み上げていた。ここからどうやって包むことを考えていたんだこの子は…。
「帰りの馬車でも食べるもん」
「大丈夫ですよ、アレクサンダー殿下。では持ち帰る分はその紙に包んで、馬車の中で食べる分は……少々お待ちください」
包み紙を1枚取って折り始める。長方形だったので、あれができるはずだ。折って折って広げ……すぐに完成させる。
「出来ましたわ。こちらにお入れください」
「まぁ、すごいですわ。ただの紙が入れ物になるのですね」
横から覗いてきたニコルが目を真ん丸にしている。そうこれ、給食の時に自宅から持参したチラシで作った簡易ゴミ箱だ。小学生や中学生の時、1週間に1回まとめて作っていたので指が自然に覚えている。ただし【ゴミ箱に使っていました】とは死んでも言えない。
「お皿のように邪魔にもならないですし、包みだと馬車の中で安定しないでしょうからね。平らなところに置いていれば、よほど馬車が跳ね上がらない限り大丈夫かと思います」
「すごいな……」
アレクサンダーがポツリと呟いていた。
そうよね、紙を折って遊ぶなんて発想しないよね。折り紙を初めて遊んだ人はすごいわ。現代までずっと親しまれてきたんだもの。
クリストファーは包み紙にも入れ物にも大量にメレンゲクッキーを詰め込んでいた。
アレクサンダーはその後、もう数枚包み紙がほしいと言ってきたので渡すと、同じ数ほどのメレンゲクッキーを包んで「馬車に運んでくれ」と護衛騎士に渡す。あら、1日分を分けて包んでいたのかしら。
「では失礼する」
家の前で馬車に乗る王子二人をお見送りする。国王に半強制に開催を促されたお茶会からアレクサンダーとクリストファーが帰った。
前回も今回も、急に攻略対象者が現れるもんだから心臓がいくつあっても持たないよっ!って思ったけど、二人とも仲良さそうにしていたし、トランプもなんだかんだ言ってとても楽しかったのだ。だって、国の王子にゲームで勝つとか快感だもの。うふ。
ドサッ。
なにかが倒れた?落ちたような音がした。
他のメンバーも気づき、その音のする方へと顔を向ける。
「レベッカ様!どうしました?!」
膝から崩れ落ちたような体制で、レベッカが両手を前の方について下を向いている。
思わずかけよって背中をさすった。
「どうされました?体調が優れないのですか?」
そうだ、今日彼女はほとんど言葉を発していなかった。最初の方から扇子を口に添え、無表情のままだった。ずっと体調が悪かったんだ、それなのに王子が来るからって無理矢理出てきてくれたのだろう。申し訳ないことをしてしまった!
「レベッカ様、申し訳ございません!すぐに医師をおよびいたしますわ」
立ち上がろうとした私の腕をレベッカがつかむ。
「だ………大丈夫ですわ……」
「で、でも」
下を向いたままのレベッカが私の動きを封じる。
他のメンバーもおろおろして、身動きのできない私もどうしようかと考えていたのもつかの間、レベッカがゆっくりと顔をあげた。
「ドロレス様……」
ゆっくりと私の方に顔を向け私と視線を合わせると、レベッカが頬が蒸気が出るほど赤くし、瞳を潤ませる。信じられないくらいの驚きをしたような顔で、とんでもない発言をする。
「わ………わたくしっ………!クリストファー殿下に恋をしてしまいましたわっ!!」
ええーーー!!!!!!




