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想像して、夢見た光景。 〜side.サフィ〜

サフィ→ゲームヒロインであるユリエが召喚される少し前、アイビーに命令されてドロレスを襲った人。廃墟で孤児たちの親代わりに物を盗んでたりした人です。

 いつものように狭い牢の中で体を動かしていると、目の前に女なのか男なのかわからないほど整った顔の若いヤツがやってきた。


「誰だ?」


「あ、僕のことわかりませんか?わかりませんよね?覚えててほしかったなー。まああの一瞬見たか見てないかだけじゃ無理か」


 言ってる意味がわからなくて、頭をかしげる。とにかく貴族だろうというのはわかっていたし、偉い立場の人だなと察する。反抗するつもりもなく、話を聞いていた。デュラも、ヤッカルも。


「……静かですね。まあそれはいいとして。皆さん、ドロレス・ジュベルラート公爵令嬢はご存知ですか?」


「ああ。知ってる」


 俺らの妹や弟たちを助けてくれた恩人。たまにアイツらの報告をしに来てくれる。

 別に俺らが頼んだわけじゃない。なのに、本当は知りたい俺らの気持ちが知られているかのように一人一人の話を細かく教えてくれるのだ。

 次はいつ来るのか、どんな話をしてくれるのか。

 日々の楽しみになっていた。それは両隣の二人も一緒だった。


「じゃあ、ドロレス様に命の危険が迫ってたらあなた、代わりに死ねます?」


「っ?!なに?」


「お、おいどういうことだよ?」


 死ぬかもしれないっていう話をしているのに、笑顔で話す男。コイツ何考えてるんだ?あの嬢ちゃんが死ぬ?王子の婚約者だから狙われてるのか?いや……俺らが偉そうに言えることでもないが、それでも心配でしょうがなかった。


「なぜ、誰かに狙われてるのか?」


「彼女、立場上色々と危ないんですよ。最も可能性が高いのが、3日後のパーティーなんですよね。そこでお願いがあるんですけど、えーと1番大きなあなた。ドロレス様がもし殺されそうになったら身を挺して守れますか?」


 パッと指を刺された。俺か。


「……何をすればいい?」


「言ったままです。ドロレス様に気付かれないように顔は半分隠して護衛に紛れてもらいます。何かあっても、すぐに守れる位置にいてもらいます」


 まるで何かがあるような言い方をしているが、俺はこいつのことを信用していいのだろうかと悩む。


「……」


「あ、もちろん褒美はありますよ。刑期より早く出してあげます」


「いや、それは別にいい」


「えっ?!」


 男が目を真ん丸にして驚いている。あ、普通なら早く出たいのかと思うのか。

 だが俺たちはそれなりのことをしたし、空き家で暮らすよりも快適に思えてしまうあたり感覚がもうおかしくなっている。他二人も同じだ。


「ハハハ、まさかそう来るとは思いませんでした。……ですがお願いしたいんですよ、あなたに。即死さえしなければ、怪我をしても必ずあなたのことは助けます。囚人だからといって放置しませんのでご安心ください」


「……わかった、やる」


「サフィ!」


「いいのか?!」


「あいつらを救ってもらってるしな。その嬢ちゃんが危険なら、恩返しくらいしたいだろ」


 決めた。あんなに迷惑をかけたのに、俺らのことを信じてくれ、弟たちを助けてくれて、今でも報告に来てくれる。

 貴族の女は最低な奴しかいないと思ったが、あの嬢ちゃんは違った。

 俺らをちゃんと人として見てくれた。


 今度は俺か助けてやるくらい、なんの問題もないだろう。


「じゃあ前日に呼びに来ますので、そのときにまた話しましょう。もちろん、逃げ出したらその場で処刑ですから、変な真似はしないように」


「ああ」


「ま、待ってくれ!俺も手伝いたい!」


 横でデュラが叫んだ。

 その瞬間、男の目がナイフのように鋭くデュラを睨みつける。


「あなたは個人的に恨みがあるので駄目です。ドロレス様が許しても、僕は一生あなたを許しませんから」


「ひいっ……」


 横から戦慄(わなな)く声が聞こえる。

 会った記憶がないが……何かデュラはこの男に恨まれるようなことでもしたのだろうか。考えたが答えは見つからなかった。






 ーーーーーーー






「ハハ……」


 騎士に連れられ、牢へ戻る。

 何がなんだかわからなくて笑うしかなかった。


 牢に来た男はジェイコブという名だった。その男から、護衛の配置につく前に「黒髪の、ドロレス様と同じくらいの子がいるので、目を離さないでください」と言われ、俺のやることを説明された。

 ……そして、その女が嬢ちゃんに短剣を向けて走り出してきた。

 だから、自ら腕を短剣に刺さるようにあえて突き出した。


 なのに。


「治った……。傷もなにもない……」


 刺されたところを触る。今見ても、信じられない。ジェイコブという男の予想通りになったことも驚きだが、傷を魔法みたいな力で治した嬢ちゃんにはもう笑うしかない。


 凄えな、あの嬢ちゃん。女神かよ。

 もう、それ以外の言葉が見つからなかった。


「サフィ、大丈夫だったか?」


「平気だ。……俺は馬鹿だった。あんな人を襲おうとしていたんだからな……」


 フッと、小さなため息とともに笑ってしまう。あの場でもし嬢ちゃんを襲う事に成功していたらと考えると、ゾッとする。女神の逆鱗に触れ、俺らはとんでもない地獄を味わっていたのかもしれない。神様なんて信じていないが、あれを見たら信じずにはいられない。

 今以上に過去の自分の行いを反省しよう。もっとまともになろう。いずれここを出られるなら、正しく生きよう。


 恐怖でブルっと震える体を押さえ、牢での生活を再開させた。








 ーーーーーーー







「俺らみたいなのが、公爵家に行っていいのか?偉いところなんだろ?大丈夫かよ……」


 身を挺して嬢ちゃんを守れと話を持ちかけられてから六年が経った。ついに、牢から出る日が来た。横でヤッカルが不安がっている。


 王子の婚約者を襲い、貴族に仕えて強盗のようなことを繰り返し、それ以前も色々窃盗をしていたからもっと長い間牢屋の中だろうと思っていたけど……。思っていたより短かった気がする。


 以前嬢ちゃんから『ここを出るときはジュベルラート公爵家に来なさい。そしてこれを護衛に見せなさい』という紙と、渡す用の手紙を受け取っていて、おそるおそる護衛に見せると驚いて確認しに行っていた。しばらくして戻ってきたら、何事もなかったかのように戻ってきて、あと1日待つようにと言われた。


 出る気満々だったので、1日延びることに気が抜けてしまったが、まあ別にいいやと大人しく牢で過ごした。



 そして、今に至る。落ち着かない。


「こんな汚い姿で、高そうな馬車に乗せられてる……。落ち着かねぇ」


 誰も見ているわけではないのに姿勢を正して座っていたが、終いには3人とも、椅子ではなく足元に胡座をかいて座ってしまった。

 しばらく走り続けた馬車が止まり、ドアを開けると俺らが地べたに座っていたことに驚かれたが、そのまま家の中へと連れられる。


 おいおいこんな高級な家に俺らを入れていいのかよ……。パッと見、奴隷が来たみたいになってんだろ……。


 不釣り合いな俺らは風呂に入れられる。

 メイドが入ってこようとするので慌てて止めた。貴族は当たり前だと言っていたが俺らは貴族じゃないし、風呂に入ってこられても色々困る。しばらくの攻防戦の末、どうやら時間がないらしく、メイドはドアの外で待ってもらうことになった。


 初めてちゃんとした風呂に入ると簡単に身支度をされる。服が用意されていた。羽織り、前で重ねて腰の部分を紐で縛る。下もゆったりとしたズボンを履かされた。

 なんでこんなに至れり尽くせりなのか、全くわからねぇ……。なんなんだ?何が起こっている?いい思いさせたあとに殺されるのか?


「誇れる生き方をしたいなら、まず見た目を気にしてください、との伝言です」


 メイドに言われ、身支度を整えられた俺たちは再び馬車に乗せられた。御者に、今度は椅子に座れという無言の圧力をかけられ、おとなしく座る。



「騙されてるよな、絶対にそうだよな?」


「俺ら奴隷にさせられるんだよ、売られるんだよ……」


「これ、現実なのか?」


 目的がわからない。故に俺らもどうすればいいのかわからない。逃げたところで、行くところもない。とりあえず悪いようにはされていないため、馬車に揺られながら到着するの静かに待った。




 再び馬車が止まる。どうやら到着したようだ。降りると、あっちへ向かえと御者が指をさし、立ち去った。俺たちはそこへと進んでいく。

 よくわからない。本当にわからない。だけど、何故か俺らは言われるがまま従った。妙に信憑性を感じ、そろそろと進む。



「お父様!!」


「えっ?」


 いきなり、女の大声が聞こえた。

 そういえばこの声、最近聞いていなかったが、知ってる……。

 俺たちは近くの壁に隠れ、そっと様子をうかがった。





「うちに来すぎだって何度言ったらわかるんですか!」


「えーーー、だってしょうがないだろ。ダニロの子どもたちは教師つけて遊ぶ暇がないんだ。だから週に1回しか行けないし」


「だからってうちに週6で来る必要あります?!お母様はどうしたの?!」


「せ、先週は週5だぞ?ニーナはお前が作った幼稚園で働くことに夢中で、私のこと忘れてるし!あぁーー、シエラちゃんんんーーー今日も可愛いねーーー!昨日も可愛かったけど今日も可愛いねーーー!明日も可愛いんだろうなーーー!」


「うちだってその幼稚園の運営のために来年男爵に上がっちゃうんだから……っていうかお父様やめて!うちの娘のファーストキスを奪わないでぇぇ!」


「そんなものノーカウントだ」


「今日は予定があって忙しいんだから、早く帰ってください!シエラだって寝てるんだから!」


「はいはい。じゃあねーシエラちゃーーーん!ああ可愛い!まだ帰るのやめよーー」


「もう!お父様ここにいたら顔合わせちゃうでしょ!」


「……ああそうだな。フレデリックくんも、流石にまだ許せないみたいだし。私も多分抹殺しちゃうだろうから今日のところはフレデリックくんと二人で酒でも飲むよ」


「待って!フレデリックにお酒飲ませないで」


「なぜだ?娘の婿と酒を飲むのが夢だったんだぞ?」


「……お母様以外と唇を重ねることになってもいいなら、フレッドとお酒飲んでもいいわよ?」


「……………………やめておく」




 

 揉めてる親子?を見れば、子はあの嬢ちゃんだ。随分大人っぽくなったなぁ。ってことはあのカゴみたいなのに寝ているのが、嬢ちゃんの子、ってことか。


 とても幸せそうな、そんな雰囲気を感じる。俺らもあんな家庭に生まれたかった。

 ああやって親に愛されて、一緒の家で暮らしたかった。

 いい歳した男なのに、胸が苦しくなる。横の二人も同じ気持ちでいたのか、羨ましそうな目で様子を見ていた。

 妹や弟たちは元気でやっているのだろうか。

 真っ当な人生を歩んでいるのだろうか。





 ドサッ。



 何かが落ちる音がして、3人とも振り返る。

 そこには、とてもよく見覚えのある顔があった。




「サ……サフィ……。デュラ、ヤッカル……」


「おい、クレイか?クレイなのか!?」


「うおぉ……お前、そんなしっかりした体つきになって……。でもどうしてここに」


「あっ……うぅ……うあぁ」


 俺だってグッと涙を堪えた。なのに、クレイがボロボロと涙をこぼすもんだから、俺たちも堪えきれなくなって泣いた。

 それくらい、会えて嬉しかった。会えるなんて思ってもいなかったから。


「……感動の再会の中すみません。手伝ってもらっていいですか?」


 しばらく四人で抱き合って泣いていたが、隣にいた女性に声をかけられて急激に恥ずかしくなる。涙を拭き、その女性をちゃんと見れば、両手に荷物を持っていた。そしてお腹がふっくらと膨らんでいる。


「俺の奥さんだよ!」


「え!」


「まじか!」


 驚いてしまうが、自分のことのようにとても嬉しい。それだけは間違いなかった。

 あんなに苦しい生活をしていたのに……。こうやって嫁さんを迎えることが出来るなんて……。しかも子供まで。再び涙が止まらなくなってしまう。

 隣の女性から荷物を受け取ろうとすると、後ろから声が聞こえる。



「大声で泣いてりゃ、さすがに気づくわ」


「あっ……」


 嬢ちゃんがやってきて俺たち3人を一瞥し、ニコっと笑った。


「まずは学校に通って文字と計算を覚えてね。で、みんな子供のこと好きでしょ?だから最低限の常識を覚えて孤児院で警備でもやってもらうわ。また犯罪に加担したら今度は助けないからそのつもりでね。私に手を出そうものならお父様があなた達を抹殺しに来るわ。大丈夫よ、お父様には帰ってもらったから。あっ、孤児院に部屋も用意してあるからしばらくは3人で使って。あとは」


「待て!なんか色々急展開すぎてなんだかわからねぇ!なにが?俺らはどうなるってこと?」


「あなたたち、子どもたちに誇れる生き方をしたいんでしょ?私に言ったことは嘘だったの?」


「嘘じゃないが……」


「だったらちゃんと働いて、真っ当に生きなさい。ちなみにあなた達の妹や弟はもう文字も計算も完璧よ。働ける子は働いてるから」


「……すげぇ」


「俺らより天才じゃん」


 あいつらが……そんな機会に恵まれたのか。普通に暮らしているのか。手紙では知っていたけど、実際に聞くとより実感する。


「さて、あなた達にはやってもらわなきゃいけないことがたくさんあるけど、今日は特別。お帰りパーティーよ。みんな帰ってくるの楽しみに待ってたんだから」


「みんな?」


 誰のことだろうと一瞬考えた。だけど答えを出す前に嬢ちゃんが建物のほうを指差すと、ドタドタドタとたくさんの足音が聞こえてきた。俺たちの名前を叫ぶ声がたくさん聞こえてきて、こちらに駆け寄り抱きついてきた。


「サフィお兄ちゃん!」


「デュラ兄ちゃん、ヤッカル兄ちゃん!」


「お、おおレナか!お前髪の毛こんなに綺麗になって……」


「見てみて!王妃様が服を寄付してくれたの!可愛いでしょ!」


「俺、今働いてて料理作ってるんだぜ!すげーだろ!」


「お前が……いつもくっついて離れなかったお前が料理出来るようになったのか……」


「私ね、結婚できたの!三人にも家族を紹介するから!」


 懐かしい、そして面影だけ残して成長した弟や妹たちだった。次々にかけられる言葉に、俺たち三人の返事が追いつかない。



「さ、準備するわよ」


 嬢ちゃんがみんなを呼んだ。俺たちのためにパーティーを開くからと、みんなに手伝わせている。


 この光景を誰が想像しただろうか。

 食べ物があって、服を着て、きれいな肌になって、笑顔が溢れている。


 あの時、ちっぽけなプライドを捨て、勇気を出してこの嬢ちゃんに弟たちを助けてくれと伝えてよかった。そして本当に助けてくれた。じゃなければ、今のこの幸せそうなみんなの顔は見られなかったんだから。

 しかし嬢ちゃんを襲ってしまった後ろめたさが改めて今更膨らんできて、足が進まない。

 それに気づいた嬢ちゃんは、俺らが何を考えているのかわかっているのか、1人でこちらに寄ってくる。


「反省しているならこっちに来て、人生をやり直しなさい。前のような暮らしがしたいなら、後ろを向いてここから立ち去りなさい。どうするの?」


「……」


何も言わず、俺たちは嬢ちゃんの後についていった。涙がどんどん溢れてきて、声を押し殺して泣いた。気づかれてるだろうが、嬢ちゃんはこっちに振り返らず歩いてくれた。


 俺もデュラもヤッカルも、最後の最後まで泣き続け、結局食事の味なんて全くわからなかった。



一応これでサイドストーリーは全部終わりです。とはいっても、まだ書こうかなと思っている人や話があって。

頭にはもうストーリーが浮かんでいますが、まとめきれてないのです……。もし私の中のストーリーとリクエストが被れば可能な限り書こうかと思いますので、感想欄やメッセージなどでコメントください。

長い間この作品にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!m(__)m



また、新作も投稿はじめました。

https://ncode.syosetu.com/n5862gz/

「薬草マニアの公爵令嬢、将来を誓った人が実は王子様でした。〜私、好きな人のために頑張ります!〜」


転生ではないですが、恋愛ものです。トータル話数は短いのでぜひご覧ください◎

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