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嫌いではない 〜side.ウォルター〜

ウォルターのサイドストーリー。


領地剥奪計画の少し前くらいからの話です。

 ハァ……。



 孤児院や学校の定期報告で王宮に来て、現在、陛下と茶を飲んでいる。

 なんで男同士で茶なんて飲まなきゃいけねーんだ。


「なんで僕と茶を飲まなきゃいけないんだ、って思ってるだろ」


「思ってる」


 メイドや執事もいない部屋。今ではもうすっかり陛下の前で、俺の口の悪さを隠しすらしていない。最初は冷や汗ダラダラだったが、段々と陛下ではなくただの弟に見えてきて、緊張しているのが馬鹿らしくなりこうなった。

 そもそも俺だって王子に生まれたのに放置されてたわけだし、このくらいいいだろ。

 っていう訳のわからない結論に至った。


「で、ドロレスに振られたわけか」


「俺の傷口をえぐるのか、この国の王は……」


「血が繋がってると、同じ人を好きになるんだな。もしウォルターも王子だったら今頃流血騒ぎだったろうな」


「現実味ありすぎて怖いっての」


 学園の頃には知らない顔でくつくつと笑い、からかうようなことを言ってくる。だが想像してみればこの間フレッドと揉めたばかりだったので、血は流さなくともあながち間違いではなさそうだ……。


「ルトバーン商会長と親しい、と」


「ああ。きっと婚約すると思う。幼馴染みたいなもんだからな」


「ふむ……。そういえば僕よりも前に二人は出会っていたよな、確か」


 あっ、俺今まずいこと言ったか?

 そうだ……フレッドは学園に入る前に告白してるって言ってたな……。あれ?じゃあドロレス様が陛下と婚約者だったときのことに結びついちゃう?マジで?うわゴメン!色々バレる?!


「僕との婚約が解消されて、彼は爵位を授かって……。今までそういう気持ちがなかったのに急激に好意を持って距離が近づいたんだろう。そういうのはよくあることだとヴィオラが言っていた」


「そう、そうなんだよ。気づかないけど急にそういうのがあるらしいぞ!」


 うわ、王妃様ありがてぇ!陛下にそんな助言してたんだ!助かった!危うくフレッドとドロレス様に顔が合わせられなくなるところだった……。


「まさにお前だろ、ウォルター」


「え?」


「お前だって、ドロレスと幼い頃から知り合いだったのに急に好きになったんだろ?」


「……あ」


 自分に話を振られると思ってなく、一気に恥ずかしくなった。王妃様の言ってたのはまさに俺とドロレス様じゃん……。距離は縮まらなかったけど……。


「残念ながら俺には無理だった」


「兄弟共々崩れ落ちたな」


 二人して苦笑いをし、お茶を飲んだ。






 子爵家で仕事をする。定期的にお見合いの手紙がやってくるが、忙しさを理由に全部丁重に断っている。

 どうせみんな俺の立場を利用したいだけだろ。陛下にも断ることを話しているため、相手が強硬手段を出してきても陛下の名前を出せばおとなしく引き下がってくれた。

 しかし。ある一通の手紙を見て、首を傾げる。


「ん?ブラントレー……は確か」


 エミー様じゃね?

 え?俺とのお見合い?なんでまた急に。


 エミー様といえば俺より1つ年下で、学園に通う前から自分の領地生産の紙を売るために、商会へ手伝いに来てたな。

 平民にも好かれていたし、いい人だとは思うけど……なにかの間違いじゃないの?



「エミー様、少しいいですか?」


 学校で先生をしている彼女に声をかける。いつものように微笑みながら、何でしょうか、と返事があったので校長室へと連れてきた。


「あの……このお見合いの話は間違いですよね?」


「いいえ」


「えっ?」


 ほ、本当だったの?それじゃ、エミー様って俺のこと……もしかしてそういう感情を……?


「えっと……あー、俺にこ、好意があったり……するのですか?いつから?」


「嫌いではないですわ」


「嫌い、では……?」


「ええ。恋愛感情はないですが、嫌いではないです」


「……」


 俺、とんでもない質問したよな今……。遠回しに『俺のこと好きだろ』って言っちまった……。

 うわーー恥ず!!!なんてことをエミー様に聞いてるんだよ馬鹿!気まず!目を合わせられねぇ!


「すみません……」


「あ、ごめんなさい、私もそんなつもりで言ったわけじゃ」


 正面で彼女も慌てている。


「じゃあ、なぜ?」


「政略結婚したいと思いまして」


 政略結婚。

 そんな言葉が俺のところに来るなんて、思ってもいなかった。いや、見合いの手紙の殆どがそれだとはわかっているけど、知り合いからの言葉は驚いてしまう。そんな彼女は表情1つ変えずに微笑んだままだ。


「俺って、政略結婚の相手になります?」


「もちろんですわ。第一子は男の子が確実ですし、なによりルトバーン商会と繋がれるんですもの。うちにとっては万々歳です」


「そ、そうですか」


「今すぐ返事がほしいわけではないですわ。ですが、どうせ嫁ぐなら利得があって、昔からどんな殿方が存じ上げているところに嫁いだほうがよろしいかと。ウォルター様もそう思いません?」


 言ってることはとても納得ができた。俺もいずれ誰かと結婚しなきゃいけない。だけど俺の存在は異質であり、悪い意味での政略結婚をさせられる可能性だってある。

 俺は正直、まだ……ドロレス様のことをきっぱり忘れられたわけじゃない。かといって、もう無理なのはわかってるけど。

 二人で一緒に事業をして、子供が出来て、明るい家庭を……なんて。

 未練がましいな、俺。


「エミー様、申し訳ありません。俺は感覚が平民なので、貴族みたいな家族じゃなくて、普通の家族になりたいだけなんです。だからお断りします」


「どなたかと婚約を結ばれるのですか?」


「いや……そういうわけじゃ」


「ウォルター様。確かに貴族と平民ではやることが違います。私は政略結婚とも言いました。でも、あなた様が望み、想像する温かい家庭なら、うちの両親も負けていませんわ。うちは母が平民で、父の猛烈アプローチにより結婚したんですもの」


「へぇ……知りませんでした」


「そんな両親を見て育っておりますから、私も仲睦まじい家庭に憧れておりますの。それに加えて政略結婚に充分なお相手ですもの」


 フフッと笑顔になるエミー様。ここまでハッキリと政略結婚を掲げられると、むしろ清々しい気持ちになった。


「それとも、ドロレス様のことが気になるとか」


「っ!な、なにを言うんですか?!」


 慌てて否定はしても、俺の挙動不審な動きが彼女の質問を肯定してしまった。ああ……知られたくなかった……。恥ずかしくなって口元を覆う。


「だって学校で仕事をするウォルター様、いつもドロレス様を視線で追いかけていましたからね。ですが最近は物憂げな表情でしたけども。何か変化があったのですか?」


「そんなに俺、わかりやすかったですか……?」


「はい。それはもう」


 あーこれ、駄目だ。顔が真っ赤になっていそうだ……。もうバレてるならと、事情を話す。エミー様は「まぁ!」と驚いてはいたものの、最初から二人の関係を知っているかのように笑みが増していた。


「ドロレス様は私の憧れでもありますから。でもそれならいい機会ですわ。よろしければ今度うちに来てみません?私の望む家族像ですわ。失恋したのなら、思い切って結婚しません?」


「……それも悪くないですね」


 エミー様の無謀な提案を否定しない自分がいた。






 ーーーーーーー





 ブランドレー子爵家から帰ってきた。


 想像以上に、普通だった。

 “普通”の定義はもちろん様々だけど、俺の中の“普通”に当てはめるなら、まさにそのものだった。


 仲良く、笑顔の絶えない、素敵な家族だ。

 婚約の話をしに来たわけではなかったが、家に行ったことでエミー様の両親が舞い上がっていた。しかも結婚を勧めるのかと思いきや、「本当にうちの娘でいいんですか?エミーはほわほわしててのんびり屋で静かで貴族っぽくないですが本当にいいんですか?!」と消極的なのか積極的なのかわからないアピールをされた。

 確かにそんなイメージだったけど、政略結婚を提案してきた時点でだいぶ印象が変わったけどな。

 いやまだ婚約の話をしてないんだが……。



「どうです?うちの両親は」


 ブランドレー子爵家の門まで見送りに来てくれたエミー様がそう話した。


「普通でした。いい意味で」


「あら。じゃあ私の中の普通と一緒でしたわね。良かったですわ」


「そうですね」


 俺も自然と笑顔になった。

 馬車の中で一人考える。政略結婚だけど、もしかしたら俺の求めている家庭を作れるのではないか、そう思った。いい意味で、貴族らしくない親しみやすさがあった。

 きっと母親のあの柔らかい雰囲気から作られたものだろう。あの人は平民から貴族に嫁ぐために、相当な努力をしているはず。それなのにそんな素振りなど見せずに、ただの母親として笑顔で会話に入っていた。


 今さらだけど……ドロレス様にはとんでもない醜態をさらけ出してしまったな……。俺の心の中の根底にある悩みを感情に任せてぶちまけちまった。

 だけどあのとき、ああ言って背中をさすってくれたのはとても心地よかった。とても気持ちが楽になった。抱きしめたときのあの彼女の温もりはもう俺のところにはやってこない。


 それなら、俺も新しい道に進んでみるか。

 エミー様なら、俺の求める理想の家庭を築いていけるのかもしれない。


 根拠はないが、なぜか自信はあった。















◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 閑話(本編の『ーーーーーーー』のあたり。ウォルターがブラントレー子爵家から帰ったあとのブラントレー子爵家内会議)


 side.エミー



「エミー!本気でファロン子爵と婚姻を結ぼうとしているのか?!そ、そりゃうちにとっては利益があるが、ファロン子爵だぞ?あの王族の血を引くファロン子爵!エミーに務まるのか?!」


「姉上!ウォルター様、めちゃくちゃかっこいいですね!僕が惚れちゃいそうでした!あんなきれいな顔をした男性、王族以外で初めて見ました!」


「リオル、惚れちゃったらあなたはうちを継げなくなるからそちら側には行っちゃだめよ?」


「母上、そちら側ってなんですか?」


「まだ知らなくていいわ。けれどリオルの言うとおり、彫刻のように美しい御顔だったわね。本当にあなたと結婚するの?ファロン子爵はそれでいいって言ったの?!信じられないわ!あんな美しい人が私の息子になるなんて!」


「母上……僕は……?」


「あらやだリオル、あなたが一番に決まってるるじゃないの」


「母上大好きです!」


「ああ私の可愛いリオル!」


「とにかくお父様もお母様もリオルも落ち着いてくださいませ。まだ婚約の話もしておりませんわ」


「「「え?」」」


 三人が驚いて私の顔を見る。落ち着きのない家族だけれど、そんなところも好きではある。


「姉上!なぜですか?!あんなかっこいい人が僕のお兄さんになったら、みんなに自慢しまくるのに!」


「そうよエミー!素敵な人よ!あの見目麗しい方にお母さん、って呼ばれるの想像したらもう嬉しくてしょうがないわ!」


「とても紳士的でいい人だったぞ!あの方なら、エミーも上手くやっていけるんじゃないのか?!」


 一斉に詰め寄られた。お父様に関してはさっきとは逆のことを言い出す。誰?私に務まらないとか言った人は。


 私は黙ったまま笑顔で紅茶を飲んだ。

【新参者の未熟貴族】や【王族の庶子】、【領地を持たない弱貴族】などの揶揄や、見下すような発言をこの家族はしない。その人がどういう人か。それで全て判断してくれるのでありがたい。 


 そしてこの騒がしい家族の元で育ち、私がのんびり静かになった原因を本人たちは気づいていない。

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