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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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21.遅くなったプレゼントは想いと儲け話の宝庫

 お茶会がお開きになり、それぞれが馬車に乗り込む。まだ明るいだけど、楽しかった時間が終わってしまうのは夕方のような寂しさがある。


「ドリー」


 最後に残ったフレデリックが恐る恐る声をかけてくる。誕生日会では途中から体調が悪くなってしまったのかと心配だったけど、今日はいつものフレデリックだ。


「どうしたの、フレッド」


「まだ、時間ある?渡したいものがあるんだ」


 妙に落ち着きのない様子で、フレデリックは下を向く。なにか新しいものでも開発したのかしら。

 彼が持ってきた鞄から、小さな2つの箱を取り出した。


「あの……この間の誕生日会で渡し忘れちゃったんだ。俺が作ったから、そんな大したものじゃないし、不格好かもしれないけど……」


「まぁ、ありがとう。開けてもいいかしら?」


「うん。……あの、本当に気に入らなかったら、ごめん」


 1つ目の箱を開けた。


「わぁ!素敵!!」


 箱を開けるとそこには、バレッタが入っていた。

 銀色の糸が編み込まれて作られたとても細やかなデザインは、花びらの多いダリアのような形をしている。色がシルバーのみの単色なので、私のように濃いピンクの色の眼でも違和感がなくつけられる。

 とても繊細なのに、それほど大きくないから、後ろ髪に付けてもサイドに付けても可愛い。


「フレッド。とても素敵よ!これをあなたが作ったの?!嬉しいわ。最高のプレゼントよ」


「こんなものでごめんね、俺は貴族じゃないからそんなに良いものは買えないからさ。宝石も入れられないし。でも喜んでくれるなら嬉しいよ」


「えぇ!とても可愛いわ!しかも私しか持ってないのよ?本当に嬉しい!」


 申し訳なさそうにしていたフレデリックは、私の言葉に安堵したのか、不安な顔が消えて力が抜けた様子だ。頭をかいて照れている。


「もう1つも開けるわね。………これは、印鑑?!」


 フレデリックが持ってきたもう片方の箱を開けると、小さな板のようなものが入っていた。持ち上げてみると、横にはなんと私の名前が彫られている。横に長いハンコだ!いや、もはや印鑑だ!


「いんかん?はよくわからないけど、これはドリーの名前を彫ってみたんだ。大事な書類とかは無理だろうけど、何かに使えればいいかなと思って」


「すごい、すごすぎる……これも作ったってことよね?あなたどれだけ才能をもて余してるのよ!」


 持ち手部分もとても滑らかだし、押したときの文字のガタガタ感もなさそうな綺麗なカーブで名前が彫ってある。早く使ってみたい。


「本当は、誕生日に渡すのはこれだけだったんだ。でも他の人のプレゼントを見て、自分が渡すものの差を見せつけられたような気がして……。だからバレッタも作って2つにすれば喜んでくれるかなと思ってさ」


 フレデリックは下を向きながらも時々目線を合わせる。気に入ってくれたかどうかを確かめたいけど確認するのが怖いのか。



 気に入らないわけがない!


「本当にありがとう、どんな誕生日プレゼントよりも嬉しい。だって、あなたがお祝いの想いを込めて作ってくれたんだもの。大事に使うわ!」


「俺こそ……遅くなってごめんね」


 パーティーでつけよう!お茶会でもつけよう!ふふふ。どのドレスにも合うわ。


「ねぇ、ついでなんだけど、これどっちも商品化しない?」


「……こんなときにも商品化の話かよ。本当にどうしようもないなドリーは」


 二人でクスクスと笑った。幸せな空間だ。


「てゆーか、印鑑……えーと、ハンコって普段人の名前は彫らないの?」


 ハンコっていったら、私の中では当たり前のように名字が彫ってあって、重要書類に押すものよ。


「人の名前なんて彫らないよ。ハンコを持ってるのは商会の工場が主かな。何かの模様をつけたり印をつけるものだから」


 なるほど!要するに【印鑑】ではなく【スタンプ】ってことね。直訳すれば同じなんだけど、前世でいう【重要書類に押すもの】と【遊びでポチポチ押すもの】の違いか。年賀状とか手紙に星マークとか干支の形のスタンプ、の類いだわ。


「これだけ細かいのを彫れるのはフレッドだけ?」


「うーん、彫ろうと思えば1、2人は出来ると思うけど。かなり練習はしないとダメかな」


 このハンコの文字部分は本当に繊細だ。これがもし商品化できるなら、きっと王宮の書類仕事のサインが大幅に楽になるのではないだろうか。


「きっとこれは大きなチャンスかもしれないわ。今すぐは無理でしょうから、この名前のハンコを彫れる技師を増やしておくといいわよ」


「うん?うん。ちょっとやってみるよ」



 いつか王宮に売り込んでみたい。きっと山のような書類に一枚一枚サインするなんて腱鞘炎にもなるだろう。

 日本では、印鑑が必要なのか、デジタル化で印鑑の必要性が問われていた。でもデジタルが存在しないなら、サインよりは印鑑の方が圧倒的楽だ。

 そして、凄腕技師をルトバーンが確保しておけば、劣悪模造品も一発で見分けがつくだろう。

 これは今度、ルトバーン商会長にも話をしてみなきゃ。



「じゃあまたね」


「えぇ、気を付けて帰ってね」


 フレデリックと別れ、部屋へと戻る。

 さっき貰ったプレゼントの片方を再度開ける。銀糸の輝きを放ちながら、丁寧に編み込まれたそのパレッタを手に取る。

 この細工をフレデリックが作ったなんて。まだ子供なのに、こんなにも才能を持ち合わせている。そしてそれを私のために発揮してくれた。

 うれしい。素直に嬉しい気持ちが混み上がってきて、一人で笑顔になる。

 私がパーティーに出るとしたら、12月の王子の誕生祭だ。その時にこれを付けていこう。きっと素敵な一日になるわ。





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