表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/242

179.TPOはわきまえなさい

 ハッと現実に引き戻される。


 ここ……ファロン子爵家よね……。


 ウォルターから結婚してくれって言われて、返事も曖昧な状態になっている次の日、ウォルターの家で別の男にプロポーズされてキスしている私、最低じゃないですか?????

 目の前の彼は何度も私の頭を撫でたり、頬や額にキスしたりしてるけど、現実に戻った私は今とんでもなく慌てている。フレデリックのその行動すら、もうこれ以上は駄目だと私の脳が体に指示を出した。


 私はフレデリックからなんとか離れる。名残惜しそうな顔をする彼に、私も同じ気持ちだと伝えたい。だがしかし!場所が場所!!よりによってここ!!

 なんて女だ!どうしてこんなところでプロポーズ受けて、なに普通に喜んでドキドキしちゃってるの!これからまだウォルターと仕事なのに、どういう顔して会えばいいのよーーー!!!



「あ、そろそろウォルター来るよ」


 えっ、もう?!早くない?私まだ顔の熱がおさまってない!変な汗かいてる!この顔でウォルターに会うのマズイってば!!!



 ーーーーコンコン。


「入るぞ」


 こっちの様子など知らないウォルターが部屋に入ってきて私達を見る。そして眉毛をひそめる。

 そりゃそうだろう。

 私の横で満面の笑みで立っているフレデリックと、未だに顔が熱くて正面を向けない私。


「俺の家でいかがわしい行為をしてないだろうな?」


「しっ、してないわよ!!」


 否定はするものの……それってキスは入りますか?抱擁は?プロポーズは?????


「ウォルト。昨日のことは全部許すからもう安心してくれ」


「あ、ああそうか……。にしてもなんで笑顔なんだよ気持ち悪い」


「それは俺がドリーに、んぐ」


「わーわーーわーーー!フレッド、今日はもう帰る時間でしょ?そろそろ帰ろうね」


 こんなところでプロポーズの話とかしないで!!ちゃんと私からウォルターに断るから!!思わずフレデリックの口を押さえた。彼は察してくれたらしく、ウンウンと頷いている。


「じゃあまたね、ドリー。ウォルトも」


「またね」


「またな」



 バタンとドアが閉まる。


「で、人んちで何してたんだよ」


「えーっと……」


 やっぱり聞くわよね……。だけど正直に話そう。そうでなければいつまでたっても私とウォルターお互いに良くないと思う。



「私、ウォルトの気持ちにはやっぱり応えられない」


 彼は表情を変えることなく、私を見つめている。どうしていいかわからなくなって何も言葉が出ず、少しの沈黙の後に彼が口を開いた。


「未来のことなんてわからないだろ。あと1年で気持ちが別に向くかもしれない。だから1年後に返事が欲しいんだよ」


「ううん、絶対に変わらないわ。だからごめん。私は今まで通り友人として、仕事の相方としてしかあなたとはいられない。フレッドと将来の話を明確にしたの」


 なんて残酷なのだろう。

 私が彼の立場だったらつらすぎる。好きな人と二人で仕事をしているのに、その相手は別の女性と結婚の約束をしている。その女性が自分の友人なのだ。だけどあと1年は好きな人と一緒に仕事をしなくてはいけない。

 何も叶うことがないのに、アピールしようと足掻こうとする。


 だから、今。ハッキリと断らなければいけない。ウォルターには、次の道を選んでほしいから。


「……」


「ウォルト?」



 彼を覗き込むと、真顔のまま下を向いていた。声をかけることに戸惑っていると、大きなため息が部屋に響く。


「はぁー……。俺、初めて()()()の気持ちがわかった気がする」


 実の?アレクサンダーってこと?


「男たぶらかしすぎだろ」


「ちょっと!その表現に納得できない!」


「新国王はドロレス様のこと、めちゃくちゃ好きだったと思うぞ。在学の頃、俺と二人で会話をしてたときは恋する乙女みたいな顔してたからな」


「恋する乙女……」


 想像したら可愛かった。……あっ、そんなこと考えている場合ではないと我に返る。

 彼は少しだけ目を伏せて話す。


「……昨日の夜考えたんだ。もし相手がフレッドじゃなければ俺ももっと動いていたと思う。だけどフレッドなら、俺は身を引いてもいいんじゃないかって。あいつなら絶対にドロレス様を悲しませないだろうし。……でもまだ諦められない自分がいる。頭ん中がゴチャゴチャだ。どうせ婚約証書はまだだろ?」


「そ、それはそうだけど。まだあと1年は婚約できないし……」


 というか、フレデリックは婚約証書が必要なこと知ってたっけ?あ、ルミエの件でわかってるかな?

 ……いや、確認しよう。


「ドロレス様の言うとおりだ。だから俺もまだチャンスはある」


「いえ。無いわよ」


「……そこでハッキリ言うなよ」


「だってそういう性格なんだもん」


 ウォルターがフッと吹き出す。それにつられて私も堪えきれず笑ってしまった。


「ドロレス様がこういう人だから、必死に振り向いてほしかったんだろうな。しかし俺も馬鹿だと思う。()()()と義理の兄弟と同じ奴に惚れるとか、これほどまでに自分を哀れだと思ったことないな」


「哀れとか言わないでよ。私が悪いみたいじゃないのよ」


「悪いだろ」


「悪くないでしょ!」


 気がつけば、いつものような憎まれ口を叩く彼に戻っていた。今まで彼とはそういう関係であり、私の中でそれはこれからも変わらない。

 ウォルターからは最後に『馬鹿だけどもう少し頑張る』と直接言われて焦ってしまったが、その後は普通に仕事が捗り、何事もなく1日が終わった。



 家に帰って、自分のベッドで今日の出来事を振り返る。


 私……フレデリックにプロポーズされた。


 どうしよう!!嬉しくて全然眠れない!!頭の中がずっと興奮しっぱなし!

 小さい頃からずっと近くで彼を見てきた。屈託のない笑顔と、真っ直ぐで素直な言葉。そして今も変わらずに私を見てくれる彼の優しさ。


 私、彼と結婚出来るの?信じられない。

 前世でだって、幸福感のある気持ちを持ったことなどなかった。それが今この世界で、とてつもない幸せな想いで心が満たされている。

 王子と婚約解消した私でも彼は受け入れてくれた。

 それなら私は、堂々と今の仕事を終え、彼のサポートができるように努力あるのみだ。

 元商会長に認められるかわからない。

 お父様たちに怒られるかもしれない。


 でもなんとか乗り越えて、みんなが納得した上で、結婚したい。


 まだ1年あるわ。頑張るわ。







 って思っていたら数日後、お父様のところに手紙が届いた。


 そう。ルトバーン現商会長から。




 フレデリックの行動が!早すぎる!!!

 待って、心の準備がまだ1個も出来てない!!あと1年あると思って余裕だなと思っていたから、何も成果を上げてないわよ!!


 だがしかしお父様たちはちゃっかり私の休みに予定を合わせ、彼が家に来ることを歓迎する手紙を送っていた。


 お父様、それはどういう……意味なの?

 やっぱり公爵家の私が名誉男爵の家に入るのは許さないのかな……。それを言うために呼んだ?

 どうしようフレデリックが悪いことを言われたら。その時は全力で庇おう。だって私が好きになっちゃったんだもん。


 そして当日。

 いつもより2時間も早く目が覚めた。ちなみにいつもより2時間も遅く寝た。

 というわけで絶賛目の下のクマ隠しに奮闘中です。


 あーーーーーーーーーー。

 緊張する!!急展開すぎて、結局心の準備が何もできなかった。

 フレデリックが?商会としてではなく?将来の相手として?うちに来る?



 考えただけで心臓がバクバクと大きく鳴る。


 何度も何度も深い深呼吸をしたが、それでも緊張が解けない。フレデリックが到着したと連絡を受けて応接室へ向かう。


「なんの用事かなぁ?」


「そうね、何でしょうね?」


 横を歩くニコニコ顔のお父様とお母様。これどういう笑顔なの?真意が読み解けなくて私は緊張感が増す。


 ノックをして部屋に入る。そこにはフレデリックと元商会長夫妻がすでにいて、私達を見るなり立ち上がった。向こうもみんな笑顔だ。

 怖い。何が起こってるの?なんでみんなとびきりの笑顔なの……?恐ろしくて顔を合わせられない。

 本当ならもう少し後で、堂々と挨拶して婚約したかったんだけど……。


 軽く挨拶をすると、緊張した顔のフレデリックが1つ咳をして、私達二人の願いを口にした。



「ドロレス様と、将来婚姻を結びたいと思っています。お二人に許可をいただきに本日お伺いいたしました」


 丁寧な言葉で、真っ直ぐお父様たちの方を見て話すフレデリック。


 お父様がガバっと立ち上がる。




「うちの娘はお前のところになどやらーん!!!」



 えっ?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ