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173.その時まで

 クリストファー誕生祭はジュベルラート公爵家として参加した。家ごとの挨拶をするという理由をつけて、ウォルターとは別で参加。彼は一人で参加し、フレデリックも一人で参加していた。


 久しぶりに会う友人たちに癒やしと元気をもらったわ……。ニコルとオリバーは11月に結婚することが決まったことで私達はおめでとうと大騒ぎする。


「……にしても、オルト様に随分と懐かれて……」


「将来私と結婚してくれるそうですわ。オリバー様よりも素敵になったら私迷っちゃいますわ」


「えっ……ニコル様……なんで……」


 横で愕然とするオリバー。今にも泣きそうな顔だ。その反対側にはオルトがニコルにピタッとくっついている。


「僕がニコル様を幸せにします」


「オルト!ニコル様は私の妻になるのだ!」


「っていう喧嘩をいつもしています」


 男同士の兄弟喧嘩を冷静に報告してくれるニコル。楽しそうな家になりそう。

 彼女はオリバーの肩に両手を置き、つま先立ちしてオリバーの耳に近づく。


「愛しているのはオリバー様だけですわ」


「……!!」


 顔が真っ赤になるオリバー。

 相変わらずの彼に、私達女性陣は呆れながらも笑った。これから結婚したらどうするんだろ……。ニコルに上手く手のひらで転がされるのだろう。今からでも想像がつく。



 そして社交界パーティー。

 当然のことながら、ウォルターと参加。フレデリックは不参加だった。

 いくら国王との約束だとはいえ、正直社交界パーティーだけは一緒に出たくなかった。

 ただでさえアレクサンダーと婚約解消して、変な目で見られているのに、こんなの……ウォルターと私が完全に婚約前提のように見られてしまう。

 彼にエスコートされて入る理由を知っているのはほんの一部。ほぼ全員の貴族が、私達と国王の裏での約束など知らない。だから余計に困る。



「ネックレス、付けてこなかったんだな」


 ウォルターが残念そうな顔をする。今日は彼からもらったネックレスも、フレデリックからもらったネックレスもつけてこなかった。

 パーティーに参加する以上、彼と踊るのは確実にわかっていた。紫のネックレスを付けてきてしまえば、周りの人に大きく勘違いをさせてしまう。

 かと言ってフレデリックから貰ったピンクのネックレスだと、目の前の彼の機嫌を損ねかねない。

 だからどちらもやめた。


 ネックレスをくれた意味を、これ以上深く考えたくなかった。

 だって、初めて見る彼のカフスボタンにも同じ石が使われていたから。



 

 社交界パーティーが終わって数日。建設が終わった学校を、来年度開校と同時に勤務する先生たちと見に行く。

 平民向けの学校はこれが一つ目。今後どんどん他の領地にも小規模な学校を作り、国民一人一人の識字率や能力を高めていく。


 その事業に新たに加わったのが、ルトバーン商会。僻地にまで支店があるルトバーン商会が1番便利だろうと王女と国王からの指令だった。必要な筆記具や教材などの確保を担ってくれる予定。そもそもウォルターが養子に入ってるしね。


 今日はそのウォルターがいない。先生数人とフレデリックで打ち合わせをする。授業内容の計画や、今後地方に赴任したり、先生を育てたり。学校を増やせば先生も増やす必要がある。

 私、二年間で上手く終わらせられるのかな……急激に不安が押し寄せてくる。


 カリキュラムを作成して、開校に向けて先生の教育を始める。

 私が先生を育てるって不思議な感覚だわ。



 日が暮れる前に終わったため、これでみんなとは解散。


「まだ、時間ある?アンとカイが新しく出した店に行かない?」


「もちろんいいよ!ドリーと二人だけになれるなんて久しぶりだね」


 明るい笑顔のフレデリックに癒される。本当に……この笑顔に何度気持ちが救われたことか。



 アンたちが開いた店はスイーツ店。今までのロールケーキやタルトなどももちろん、クレープやかき氷、アイスなどを展開している。二人で運営しているので開店時間は短いが、全女子の瞳がキラキラしちゃうメニューばかり。そこに関われた自分もとても嬉しい。

 ロレンツの店はカフェタイムを撤廃してスイーツをやめ、ランチとディナーのみに変わった。きっと、スイーツ店を開くアンたちへのロレンツの気遣いだろう。


 二人と少し話したあと、私達も食事する。ここは紅茶の種類もたくさん揃えていて、本格的なお店になっていた。



「美味しい。甘い物ってなんでこんなに疲れが取れるのかしら」


「最近仕事が増えて、いつもドリーが言ってた意味がわかるようになったよ。甘い物必須!」


「食べすぎないでよ?太っちゃうわよ」


「俺はドリーが太っても好きだから問題ないよ」



 なんだこの付き合いたてカップルみたいな会話は!心の中で盛大にツッコむ。彼のストレートな言葉に最近慣れてきた気がする。いや、気がするだけかも……。


 短い時間はあっという間で、すでに夕方。二人で馬車に乗ると、以前のことを思い出してしまい緊張する。そういえば密室で二人きりなのは、あの時以来だ。

 馬車の扉が閉まると、フレデリックは私にくっつくように隣に座った。これはまずいなー、まずいよー!また同じような雰囲気になりそうでドキドキしてしまう。彼の手が私の肩を抱いて、体をグッと引き寄せられる。


「俺、少し大人になった?」


「え?」


「ドリーがウォルトと毎日仕事してるの、めちゃくちゃ妬いてるけど、態度に出さなくなったでしょ?」


「口に出したら意味なくない?」


「あそっか」


 えへへと笑うフレデリック。お互いの目を見て笑い合いうと、頬に口付けされる。

 こういうところほんと!!……嫌じゃない自分がいる。


「あのさ、懐中時計交換しない?」


「お揃いで買ったあの懐中時計?」


「そう」


 彼はポケットから自分のを取り出す。私もそれに合わせて自分のを手にとった。


「その時が来たら、返す」


「その時……」


 それはつまり。


「俺ね、ズルいから。今みたいにドリーに制限のかかってるうちは言いたくない。ドリーが今の状況と自分の気持ちを天秤にかけて返事を悩んでほしくないから、だから落ち着いたら必ず言う。だからそれまで、俺の気持ちは変わらないことを証明したい。ドリーももし……待っていてくれるなら、俺に懐中時計を預けてほしい」


 彼は私の性格をわかっている。

 今の事業が片付かない限り、私は自分の人生を優先できない。それは国王から言われた二年間を超えるかもしれない。でも、落ち着くまでは仕事を自分の責任としてやり遂げたいのだ。

 もし今フレデリックから人生を変えるような申し出をされても、目の前のことがある程度終わらない限り、『待ってほしい』しか言えない。漫画や小説のヒロインのように、何もかも捨てて彼の胸に飛び込むことは、彼にも仕事にも無責任すぎて出来ない。


 こんなにもわがままな私のことを理解してくれる人は、他にいるのだろうか。

 そんな私のことを、ずっと待ってくれる人なんて、この世に彼しかいない。


「わかった。もちろん私もフレッドに預けるわ。良い意味で返せることを願ってる」


「当たり前だよ!」


 そう言ってもう一度頬にキスをするフレデリック。二人きりになると生まれるこの空気にどうしても私の脳内が追いつかない。



「っ、だからなんで……!」


「したいんだもん。目の前に、誰のものでもなくなったドリーがいるんだよ?俺がドリーのこと大好きなの知ってるでしょ?」


「しっ、知ってるけど!」


「俺かなり我慢した。ドリーが俺の事好きって言ってくれたのめちゃくちゃ嬉しかったけど、王子の婚約者だから一線は超えないように頑張ったんだから!」


「……ちょっと待って。確かに超えてないかもしれないけど、保健室で……く、口にしようとしてたわよね?!学園祭のときだって!」


「あー……そんなことも、あったかなー?」


 しらじらしい態度で斜め上を見上げている。

 恥ずかしすぎて、彼から逃れようと反対に体をよじった。しかし後ろから抱きしめられ、身動きが取れない。バ、バックハグ……。


「絶対にもう他の人のところになんて行かせない」


 フレデリックはそうつぶやくと、私の首筋に顔をうずめる。私が恥ずかしがって動くと、いたずらっ子のようにケラケラと笑っている。


 しばらくそのままの状態で時が過ぎ、馬車が止まる。ルトバーン商会に着いたようだ。

 彼が馬車を降りる。


 私は決めた。


 馬車で二人きりになるのはやめよう。







 ある日、治癒師の仕事で孤児院に行くとコナーに呼ばれる。


「俺、働きたい」


「まだ来てから三ヶ月も経ってないじゃない。もう少し落ち着いてからにしたら?」


 孤児院は12歳で巣立つことが暗黙のルールだ。コナーだけ年齢が飛び抜けている。それを気にしているのだろうか。それとも孤児院にやっぱり抵抗があるのか?


「孤児院が嫌なわけじゃない。ただ、出来れば弟と二人で働けるところがいいんだ。稼いで、それを弟にも見せたい。両親が死んで、口数が減っちまったルークにもなにか生きがいを見つけてほしいんだよ」


 んー、そうなるとやっぱりあそこしかないよね?


「料理はできる?」


「料理と言えるほどではないけど、作るのはできる」


 じゃああそこだわ。

 帰りに寄ることにした。






「もちろんいいですよ」


 ロレンツとハンナが笑顔で快諾する。


「アンとカイが出ていったので、人手が欲しかったんです。最近はダニエルとクレイが料理担当なんですよ」


「えっ、すごいですね」


 あの二人、まさかそこまで成長してるのは思わなかった。サマンサは完全に店の経理を担っているため、ロレンツは料理のことだけに集中出来て楽しいらしい。


「じゃあ近々、連れてきますね」


「ドロレス様から紹介される子はみんないい子たちだから全く問題ないですよ」


 なぜが絶大な信頼を得てしまいプレッシャーではあるが、あとはコナーたちに計算と文字の読み書きだけしっかり覚えてもらえば大丈夫だろう。

 数日後に彼らに伝えれば、あまりの好待遇の職場に不審がっていたが、勉強は頑張ると意気込んでいた。

 ロレンツの店は、超ホワイト大企業並の安心安全な職場。

 ここに就職したら他の職場に行きたくなくなるわよね。私ならきっと一生を捧げるわ。

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