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 生まれてくるもの 〜side.ウォルター〜

ウォルターのサイドストーリー。

 俺は、どうしたんだろう。


 いつからだ?


 なんでこんな感情があるんだ?




 確かに、ドロレス様と王子の婚約解消をお願いした。


 でもそれは本当にただ、世話になったフレッドと、恩返しをしたいドロレス様のため。それ以外の想いなんて何もなかった。



 卒業パーティーの時、本当にこれで良かったのかダンスを踊っている最中にドロレス様へ聞いた。


 多分その時だ。



 あんなに笑顔で、感謝されて、それがフレッドがいない俺だけに向けられた笑顔で……。


 俺の心臓が大きく打ったのを鮮明に覚えている。それ以降、ドロレス様を今までと同じような目で見られなくなった。



 彼女が喜ぶ姿を見たくなって、家に部屋を作ってあげた。そうすればきっと通うのも楽になるだろうし、仕事だってその分長く出来る。

 返事をもらう前から実は用意していた。喜んでくれるだろうと思って。


 だけど、断られた。せっかく用意しておいたのに……。

 結構ショックで無意識に顔に出ていたかもしれない。その後に、やっぱり部屋がほしいと言われたときには、さっきのショックなど無かったかのように嬉しくなってしまっていた。


 彼女が帰ったあと、うちに仕え始めてくれた元王宮執事にコッソリと説明される。


「殿方の家に妻以外の女性の部屋があるということは、婚姻前提のお付き合い、もしくは愛人を囲っているという意味になりますからね」


「ぶっ!!」


 紅茶を吹き出した。

 そ、そんな意味があるのかよ?!孤児院じゃ男女関係なく寝てたから何も考えてなかった……。


「あ、ありがとうございます、教えてくれて……」


「いえ。ちなみにドロレス様はおそらくそれをすべてわかった上で、ウォルター様が嫌な気持ちにならない程度に受け入れてくださっております。なので先ほど説明した意味で部屋を借りるわけではないと思いますので、勘違いされて襲わないようにしてください」


「しないから!!」


 思いっきり否定した。だけどちょっとだけ想像した自分がいて、恥ずかしくなった。




 ドロレス様がいると仕事が捗る。この二週間だって、きっと彼女のサポートがなければ成り立たなかった。大人たちももちろんいるけど、今後のために彼らは助言程度であり、実際に動くのは俺とドロレス様の二人だけだった。


 書類を見るとき、馬車に乗るとき、ソファーに座るとき。

 今まで何も思っていなかったのに、彼女が近くにいるだけで落ち着かない。いつも緊張するようになっていた。


 国王陛下の誕生祭の数日前にフレッドがやってくる。それを聞いたときの彼女の顔がとても嬉しそうで……何故か胸のあたりがモヤッとした。

 なんだろうこれ。


 誕生祭でフレッドがドロレス様と一緒に行きたいと誘っている。今までなら、いつものことかと何も感じなかったのに……。思わず口を挟んだ。

 事実と、自分に都合のいい言葉を並べて。


 諦めてくれたフレッドに、ホッとしていた。なんで俺、ホッとしたんた?


 誕生祭でも彼女は完璧だった。ちゃんといてほしい所にいてくれて、会話のサポートもしてくれる。俺が一人だったら絶対に回りきれなかった。

 ドレス姿、綺麗だな……。



 次の日は昼過ぎから孤児院の子たちを連れて街へ。

 ここでも、自分がよくわからない行動に出た。

 彼女が単独行動をしようとしていたので、フレッドが自分も一緒に行こうと声を上げた。それに気づいた俺は、思わず彼の言葉に被せ、ドロレス様のところに行った。


 二手に分かれ、彼女と二人になれたことに少しだけ嬉しさを覚えたのだ。

 いや、まさかな。そんなわけ……。



 しかし、彼女の言葉に自分の感情が揺れたのがわかった。



『2年』



 国王との話は2年間だ。それ以降は俺が本格的にこの事業の担当になる。ドロレス様だって自由になるんだ。


『あなただって結婚しなきゃ』


 俺は今後誰かと結婚しなきゃいけないのか?

 彼女から出たその言葉が、つい余計なことを口走ってしまった。


「このまま一緒に……」



 ……一緒に、なんだ?

 幸い彼女には聞こえていなかった。聞き返されたけど、二度と口になどできない。自分ですら、口にしたことに驚いたのだから。


 俺はもしかしてドロレス様のこと……。





 そしてあの日、明確に自分の気持ちを理解した。


 コナーとルークの件で話が長くなり、急いで部屋に戻る。ドアを開けると、彼女はソファーに座りながら小さく寝息を立てていた。

 最近までずっと忙しかったもんな。移動ばっかりだし、俺も相当疲れているってことは、女のドロレス様はもっと限界が来ているだろう。


 さりげなく、ゆっくりと横に座る。寝ているのに、その寝顔を見るだけで胸が高鳴る。

 少し、距離を詰めた。


 まだ起きない彼女。相当眠かったのかもしれない。



「っ!」


 自分の肩に、彼女の頭が倒れてきた。

 急激に加速する鼓動。


 なんだよこれ、こんなの反則だろ。俺に何の仕打ちなんだ?信じられないほどに、初めての感情が湧き出る。

 今、部屋には二人だけ。なぜこんなにドキドキと心臓が大きく鳴るのか。なぜ触れている部分が熱いのか。なぜ、もっと触れたいと思うのか。


「くそっ……こんなつもりじゃなかったのに」 



 フレッドとドロレス様を応援したかった。二人のため、俺の願いとして国王陛下にドロレス様と王子の婚約解消を願った。

 気持ちの通じ合う二人が結ばれる可能性が、ゼロじゃなくなればいいなと思った。


 本当にそれだけだったのに。


 卒業パーティー、彼女の笑顔での感謝に、気持ちが大きく変化した。


 彼女は今、誰とも婚約を結んでいない。それはフレッドも同じだ。

 それなら俺との可能性だって……。



 混乱する。なんでこうなってしまったんだ。



「……フレッ、ド……」


 チッ。なんだよ、夢の中までもあいつかよ。俺が横にいるのに、フレッドのことしか考えてないのかよ。


 ああ…。俺、なんで【様】なんてつけてるんだろ。呼び捨てで良いって言われたのに。それだけで俺とフレッドは、彼女との距離が全く違うんだ。俺は、遠い。


 彼女の肩をそっと抱き、自分のほうに引き寄せた。彼女は目覚めない。

 そっと顔を覗き込む。ドロレス様って綺麗だし、可愛い。

 知ってたけどさ、それが自分の中から彼女だけに生まれてくる言葉になるとは思わなかった。


 すぐ横にある彼女の頭に唇を寄せた。


「ドロレス……」


 呼んでみたかった。吐息のように、小さく呟く。

 数秒後、マズイと思ってそっと彼女の顔を覗き込んだけど起きていたかったので良かった……。危ねえな俺。



「フレッドの気持ちがよくわかるよ……」


 今ならわかる。あいつがドロレス様を好きになった理由。


 頑張り屋で、無茶ばっかで、自分の大変さなんて表にも出さない。笑顔が可愛くて、近くにいるとホッとして、どこか抜けてて、今は横でこんなにも無防備だ。愛おしいと思う感情が自分の中に膨れ上がりつつある。


「ハァ……。考えるのやめよ」


 自覚してしまった。フレッドに申し訳ない。俺も疲れていたので、そのまま寝た。  





 ーーーー

「ここまでくるのに、あなたは頑張ったものね。私は、ちゃんと見ていたわ」

 ーーーー



 夢の中で彼女の声が聞こえる。

 その言葉に、心がじんわりと温まった。

 嬉しい。彼女がそう言ってくれたのなら、増して嬉しい。普段じゃ考えられないくらい、自分が素直になる。


 俺……頑張ったよ。親もいなくて、家族が羨ましくて、勉強をして、新しい家族が出来て、学園に入って。国王陛下が自分の父親だっていうのが未だに戸惑ってて。

 家族。家族の愛ってなんなんだろう。ルトバーンでもとても優しくしてもらっているけど、彼らとは血が繋がっていない。

 商会員夫婦が生まれたばかりの子供を抱きかかえて笑顔で商会に挨拶をしに来るのを見て、違和感しかなかった。俺のときってこんなこと……無かったんだよな……。

 俺を産んだ母親って、どういう人なんだろう。母親ってどういう存在なんだろう。最近よく考える。今度大司教様に詳しく聞いてみよう。

 俺も家族を作れるのかな。作ってもいいのかな。俺なら、絶対に子供を置いていかない。絶対に死なない。絶対に……。



 




 パタン。


「?!」


 ハッと目が覚める。横にいたはずのドロレス様はいなくなっていた。今のドアの音は彼女が出ていったってことか。


 ……いや、目が覚めた?そもそも俺、覚めていた?

 さっきの言葉は夢?それとも……現実?



「やべぇ……」


 顔が……違う、体中が熱い。




 俺、ドロレス様に惚れてるんだな。




 その後はそこに座ったまま、眠れずに朝を迎えた。

 次の日、事実を全部告げられずになんとか誤魔化したが、お互い忘れることにして事なきを得た。だけど少し悲しかった。







 コナーとルークを孤児院へ送り届けた次の日。


 明日はドロレス様の誕生日だ。明日うちに来たら、真っ先にプレゼントを渡そうと思っていた。

 だけどやっぱり、俺は遅かった。


 フレッドから嬉しそうにネックレスをつけてもらう姿を見て、胸が苦しくなる。

 しょうがないだろ、だってあいつらは両想いなんだから。

 ギュッと拳を握る。耐えろ、俺。



 だけどどうしても煮えきらなくて、自分もその日の夕方にプレゼントを渡す。

 彼女の驚いたような、戸惑ったような顔が目の前にあった。

 無意識に……自分のことを見てほしいと言いたいかのように、俺の瞳の色の石を選んでいた。

 俺も、同じ色のものを買った。


 今すぐ彼女に付けたい。そのフレッドからもらったネックレスを外して、俺のを付けたい。


 彼女に大きな声を出され、自分の手が彼女の首の後にあったことに驚いた。慌てて手を離す。


 俺は馬鹿なのか、何をしてるんだ。恩人に、なんて顔をさせているんだ……。


 彼女が部屋を出たあとに自室へ戻り、ベッドに倒れ込む。

 仰向けになって胸を押さえた。



「つらいな……」


 二人のこと、応援したいだけだったのに。

 そこに、嫉妬が入るなんて、想像してなかった。


「2年……いやもう1年半しかないのか」


 彼女が横にいるのは、もうその期間しかない。

 このまま、ずっと……死ぬまでそばにいてくれたら。


ずっと横にいてほしい。彼女と家族になりたい。家族を作りたい。子供ができたら、俺のように一人になどさせない。彼女と共に、明るい家庭を作りたい。


 自分が貴族になるなんて思わなかった。

 不安?そんなのたくさんありすぎてわからない。だから、支え合っていくなら彼女がいい。




 だが、俺の親友が惚れているんだ。そして彼女も。


 俺の入る隙なんてあるのか?再び胸の奥が苦しくなる。




 どうすればいいんだよ。




「足掻く、しかないのか」




 翌日、一通の手紙が届いた。

きらびやかに縁取られた封筒の中身を取り出し、簡潔に書かれた文を読んで眉をひそめる。


「そんなところが似てもしょうがねーだろ」


 手紙の主の()()()()()に頭を抱えた。

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