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171.幸せな報告

 結局あれから私とフレデリックはお互い忙しく、会える時間はなかった。手紙のやり取りはしたり、ウォルターの家であるファロン子爵家で仕事相手として会話をしたりすることはあったけど、どこかに行ける時間などはない。そのまま月日は流れ、もう夏も終わりかけている。


「今日で大体の領地は回ったな」


「そうね。だいぶかかったけど、あとは僻地だけだから安心ね」



 各貴族の領地を訪れ、邸宅に泊まらせてもらいつつ隠れ孤児がいないかを直接歩き回ったり街の人に聞いたりして探す。領地によっては孤児院があるところもあるので、そこは調査をし、劣悪な環境ではないかを王女たちに報告する。王女二人はとても真剣に取り組んでいて、本当にこの世界の子供の勤勉さに脱帽してしまうわ。


 貴族の邸宅に行けば、3パターンに分かれる。


 1つ目は、年頃の娘がいる貴族はなんとしてでも私とウォルターを離し、彼と娘をお見合いのように部屋に二人きりにさせるのだ。

 その逆も然り。

 まさか王子と婚約解消した私にもそんな話が持ち上がるとは思っていなかったので少し驚いてしまったが、なんとかウォルターに助け出されて事なきを得た。

 子供の結婚も大事だけどさ、そんなことしてるならお腹を空かせて苦しんでる子どもたちを助けてやってよ!1ヶ月前には行くって言ってるんだから、それまで見つけるだけ見つけてくれるとかやることあるんじゃないの!?


 2つ目は本当にいい人たち。それこそまさにお父様のような人。孤児院もちゃんとあるし、そこで子どもたちの面倒をみる人も常時いる。


 3つ目は全く興味ない貴族。歓迎はしてくれたものの、やるなら勝手にやってくれ、と。




 イライラする事もあったが、私やウォルター以外も王宮で仕えている人たちが数人来ているため、全部王女や国王に報告されるのだ。あーあ、国の事業だって発表しているのにその態度。後で痛い目を見るのは自分なのにと憐れんでしまう。




「ドロレス様!お待ちしておりましたわ!」


「あれ?ヴィオランテ様?!」



 最後の領地。それはカルメル公爵家の土地だ。本邸から離れている領地の屋敷に宿泊するのだけれど、まさかの彼女がいた。



「今こっちまで来るのは難しいんじゃ……」


「大丈夫ですわ!アレク様に、『ドロレス様が来るから休ませてほしい』とお願いしたら快諾してくださいましたわ。王妃教育が、少し余裕が出てきましたの」


「あら、アレク様だなんて……ふふふ、上手くやっているわね」


「最初にドロレス様と3人で話したときのあの無視した彼と同一人物だなんて信じられませんわ……」


「そ、そんなこともあったわね……」


 思い出したくもないあの9歳のアレクサンダー誕生祭。必死に婚約者になりたくないと逃げていたのに高価なイヤリングをもらって、付けてきたらヴィオランテのいるところで私贔屓の言葉を次々と発せられた。

 あのあと彼に説教してしまったが、今考えるととても申し訳なく思っている。王子、しかも子供に説教とか最悪すぎる。黒歴史だ。


「ドロレス様から頂いた本、非常に助かりましたわ」


 そんな黒歴史もあったけど、おめでたいこともある。


 ヴィオランテとアレクサンダーが婚約したの!!!


 うちでのパーティーの一ヶ月後くらいに婚約式を行って、今は王宮で王妃教育を必死に受けている最中なのだ。

 私がいずれ誰かに王妃の場を譲ることがあるならと、王妃教育で受けた内容をひたすらノートに書きまくった。そしてそれを、うちのパーティーのあとにこっそり渡した。嫌味っぽいかなと悩んだが、彼女からは大感謝されたのでホッとしたのを覚えている。


 ちなみに彼女には全て話した。

 私が王妃になりたくないことや、アレクサンダーのことを一ミリたりとも好きになっていないこと、……アレクサンダーがかつて私を愛していると言ったこと、今はただの友人になったことなど。

 元カノが今カノに『彼はこんな人なのよ〜私を愛してるって言ったのよ〜』みたいな内容を言うなんて本当に最低な女だと思う。だけど、普通の男女とは違って彼は次期国王。そしてヴィオランテは次期王妃。ただでさえ大変な立場なのに、読めない彼の心を考えすぎて苦労をかけたくなかった。


 彼女は全て真面目に聞いてくれた。

 言った後に謝ると、「むしろそれが聞けて良かったですわ。未練を残しているのだと疑心暗鬼にならなくて済みますもの。あなたよりわたくしのほうが魅力的だということを彼に教えてあげますのよ!」と言ってくれたのだ。こっちが感謝したいくらいである。

 ヴィオランテって意外とハッキリ言いたいことを言うので、それが逆に心地良い。

 少し前にアレクサンダーが、彼女の好きな食べ物を私に手紙で聞いてくるあたり、少なからず彼の気持ちは彼女に向いてきているだろう。


 あと、ちゃんと好きな人がいることも話し、それが誰かを伝えるとめちゃくちゃ興奮していた。それは異常なほどの興奮だった。鼻息がイラストのように出ていた。



「そろそろ俺の存在を把握してもらっていいですか?」


「あ、忘れてた」


「申し訳ございません!」



 すっかりウォルターを置いて話し込んでしまった……。軽く謝りつつ、孤児のことについて話し合いする。



「一応調べてもらったら……2人おりましたわ。今、この屋敷で面倒を見ております。うちの領地の孤児院でもよろしいのですが小規模なのですよ。教会横の孤児院を増築されるということですのでそちらのほうがよろしいかと」


 さすがヴィオランテ。あらかじめ行動してくれているだけでもありがたい。この土地は大きすぎて、もしかしたら一週間滞在するかもしれないとウォルターと話していたくらいだったからね。

 とは言っても一応私達も回るけどね。



「兄弟でして、15歳と8歳の男の子なのですが、数年前に両親が亡くなって路頭に迷っていたみたいです……聞き出すのにも時間がかかりました。かなり警戒心が強いので気をつけてください。わたくしは明日には帰らねばいけませんので、よろしくお願いいたします」


「そう。わかったわ。ありがとう」




 私達はその子どもたちがいる部屋へと行く。ノックをしても返事がないのでドアを開ければ、部屋の隅に二人でくっついて座っているのが見えた。かつてのクレイほどではなかったけど、それでも年齢にしては細すぎる体で身を寄せ合っている。



「こんにちは」


「……」

「……」


 予想していた反応なので特に何も思わず、話しかける。


「数日後にはここを出て、私達の近くの孤児院で暮らしましょう?」


「俺らは孤児じゃない!親だってちゃんといたんだ!」


 兄のほうが強い口調で反論する。飛びかかってきそうな勢いだったためか、ウォルターが私の前に出てくれた。


「わかっている。お前たちに親がいたことくらい。自分で働いてお金を稼げるようになるまでの住む場所を提供するんだ」


 私が浅はかだった。数年前まで親がいて、普通に暮らしていた彼らにはきっと『孤児』という言葉にどうしても拒否反応が出てしまっているのかもしれない。彼らの気持ちも考えず軽く発言してしまった私は反省する。


「俺らの気持ちなんてわかるわけ無いだろ!」


「わかるよ。俺も孤児だったから」


「なっ?!どう見ても信じられない!子供だからって嘘つくのかよ!俺らは孤児じゃねぇ!」


 荒げる声に私は驚くが、ウォルターは動じていなかった。


「じゃあ聞くが、お前らは数年前まで血のつながった親と過ごしてたんだろ?俺なんてな、生まれたときから親に捨てられてたんだよ。しかも親、誰だと思う?今の国王だからな?俺の気持ちわかるのかよ。お前らのほうが羨ましいよ」


 まさかの内容に唖然とする二人。全てが信じきれていないはずのに、とんでもない事実に驚いている。


「う、嘘つくんじゃねーよ!っ……そうだ、国王の血を引いてるからそんな優雅に暮らしてるんだろ?!」


「嘘ついたところで俺に得なんて無い。そんな俺がどうしてこんな身なりになれたか?国王の血を引いてることがわかったのはたまたまだ。たしかに最終的には貴族になった。だけどな、全て自分の努力があったからだ」


「努力ってなんだよ」


「それまではお前らのようだったよ。きっかけを作ってくれた人がいたんだ。勉強をして、沢山の人に助けられて、学園に入った。もし俺がお前たちと同じように反抗だけしているような生活をしていたら、貴族になんてなってない。王族の血を引く邪魔者だと消されていたかもしれない。兄弟二人、これからの生活を考えるんだな」


「……そんなこと言ったって、俺らにはそんな機会なかった……だからこんな目に遭うんだ」


 悔しそうに下の子を抱きしめる男の子。寂しそうな、悲しそうな目をしながら、ウォルターを睨む。


「じゃあ今からやればいいだろ。生きている限りチャンスはいくらでもある。お前ら生きてるんなら、今から生きるために勉強しろ」


 ウォルターが彼らに指南する姿は説得力があって、コナーは次の反論する言葉が見つからなくなっている。

 少しだけ、感情的なことが気になったけど。


「だけど……たらい回しにするんじゃないのか?ここを出てその住む場所に行っても、また出てけって言うんじゃないのか?俺らは母親の親戚に預けられた。まともに飯も食わせてもらえない上に、家に俺らだけ残してすぐどっかに逃げやがった。家賃払えなくて追い出されたし……」


「こっちの都合で出ていけなんて言わない。むしろ自分で働き口を見つけてもらう。その時には出ていってもらうけどな」


「……パン、あるの?」


 ずっと黙っていた下の子が口を開いた。


「ええ、あるわよ。寝るところもあるわ。まずは元気になろう?」


「うん」


「お、おい……」


 兄の手を解いて、その細い足で私のところに来ると、抱きついてくる。その子の頭を撫でた。


「名前はなあに?」


「ルーク」


「……俺はコナーだ」



 名乗ってくれた二人にありがとうと言いつつ、少しだけ打ち解けた私達は話をして部屋を出た。

 その後二日間ほどここに滞在し、街を見回ったが他に孤児はいなさそうだったため、明日に二人を連れてここを出ることになった。


 その夜、食事の後にウォルターと屋敷の部屋で今後の打ち合わせ。


「孤児院の増設は終わったし、この二人が入ってもまだ部屋に余裕はある」


「そうね。もう立派な建物になりすぎて、正直一般の人よりもいい住居よね……」


 簡易的なシェアハウスのようになり、完全個室ではないもののかなり綺麗な孤児院になった。王族の手が入るとこんなにも違うのかと改めて感じる。


「警備と、常駐する親代わりの人も探してやらないと」


「そうねー、早く見つけなくちゃ。やることが減らなくて参っちゃう」


 しばらく話をしていると、コナーとルークのことでウォルターが呼ばれる。男の子同士だもんね。私がいないほうがいいでしょ。

 そう思いながら、今後の事業計画の書類に目を通した。



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